表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/19

台風の目の中でぼんやりと立つ。

 車が止まったのは一人の少女が車線上に立っていたからだった。『心臓』はもう近くにあった。車道の真ん中に立ちふさがる少女の顔を見て駒場は嘲笑った。

「おもしろいじゃん。そうだよね。あたしを止めるならアイツしかいない。ゴメンね、座間くん。こっからさきは歩くしかないかも」

「アイツを轢けばいいんじゃない?」

「さっちゃんは『否定』するよ。それでおしまい。座間くんだけは助かりそうだけど。たぶんシム以外の攻撃手段も用意してるね。運転手さん、ここまでありがとう。帰っていいよ。とりあえずここで降りよう、座間くん」

 そう言って駒場は助手席から降りた。僕も仕方がないので降りた。ミミも僕の背中に隠れるようについてきた。我々が出るとセダンは引き返していった。命令に忠実な運転手だ。僕はにらみ合う少女たちを避けるようにして道を進もうとした。空気を切るような音がしたと思えば、ミミが僕を後ろへと投げ飛ばしていた。しりもちをついた僕はミミに抗議をしようとしたけど自分のいたところに無数の銃痕があるのを見て取りやめた。どこかに狙撃手がいるらしい。しかもわんさかと。

「座間くん、ここらへんは敵しかいないから気をつけてね」

「どうすりゃいいんだ」

「とりあえず目の前の敵を倒す、だね」

「座間さんのことは私が守ります」とミミが僕に手を差し出しながら言った。僕はその手を取って立った。

「へえ、それはそれは。ならあたしも頑張らんとね」

 そう言って駒場は歩き出した。天川の目の前に立つ。制服姿の天川はそんな駒場を見てようやく声を出した。

「諦めなさい。カミサマが決めたことなんだから」

「神さまは気分屋だからね。けっこうサイコロも振るよ。戦おう、さっちゃん。どっちが本物か久しぶりに確かめよう」

「……、今日子はいつもそう。そう言っていつも負けるんだ」

「あたしはためらわないよ。あのクソみたいな環境でいっしょに育った人間でも」

 駒場はそう言って背中からナイフを出し、斬りかかった。天川はなんなくそれをかわす。それから無造作に駒場へと手を突き出した。駒場はその手を大きく避けた。すこし大げさに見えるほど距離をあけていた。

「座間くん!」と駒場は大声を張り上げた。

「なに」

「走り抜けていって。この道をまっすぐいけば『心臓』だから。あいつを見つけたらすぐ殺してね」

「ああ、けど駒場は」

「あたしはここで戦うから」

「いやお前、そんなアホみたいなセリフ言うなよ」

「座間さん行きましょう。今なら行けます」と僕の袖をひっぱりながらミミは言った。

「いやミミも言ってやれよ。一人で無謀だろ。僕がアイツに触れてシムを消してから拘束すればいいじゃないか」

「たぶん触れた瞬間彼女に撃ち抜かれます」

「僕は盛り過ぎたシカかなにかなのか?」

「つべこべ言わず行きましょう。二人はもう戦ってますよ」

 ミミはそう言って駆け出した。たしかに駒場と天川はそれぞれの意図を持って戦い始めていた。距離をとりつつナイフで致命傷を狙おうとする駒場。それに対し、駒場にただ触れようとする天川。どちらが優勢なのかは見当もつかない。僕はその二人を横目にミミの後ろを追った。

 

 道を進むと林道に入った。舗装されてなく木々がオレンジ色の空を覆い隠すように生えていた。奥のほうで黒煙が上がっているのが見える。髪の毛を焼いた匂いがかすかに漂ってきた。僕は鼻をこする。ミミはときおり周囲を見回しながら早歩きで先を行っていた。

「なあ、なんでさっきは撃ってこなかったんだろ」

「わかりません。気配は消えてました。エクストラに襲撃されてんじゃないでしょうか。座間さんを狙ってたので」

 ミミは立ち止まって、振り返った。

「あのとき座間さんはエクストラに守られてたんですよね」

「いつかわかんないよ」

「とんかつを一緒に食べた日です」

「あれは守られてたのかな。わかんないよ、ミミ。君たちの言うように僕はあの不思議な人たちの庇護対象なのかもしれない。でも、それは僕だけじゃないかもしれないんだ」

「いえ、過去の記録でもエクストラたちのあのような行動はなかったんです。一般人を守るというのはエクストラが出現して以来はじめての行動でした」

 僕はじっとミミを見つめた。ミミは青い顔をしながら僕を見ていた。その肩は微かに震えている。

「だから僕を殺すのか?」

「わ、わたしは、シムなんです。どうしようもなく、ほんとにどうしようもなくエクストラを殺さないといけないと思っているんです。彼らは残虐で、人を人と思わずに壊していきます。戦わなければ人類は消えてしまうんです。だからもしチヒロがその王だとしたら、わたしは」

 ミミは言葉を飲み込んでうつむいた。僕はため息をつく。

「べつだん、人類のために僕を殺そうとするのは構わない。それが本当に世界中の人のためになるんならね。けど両親を殺してからやろうとするがまどろっこしいんだ。じっさいなとこさ、たとえばこの拳銃で頭を打ち抜けば一瞬だろ、ほら」と僕はミミの足元にタネベから貰った銃を放った。

 ミミは驚いたように僕を見てから、足元に転がる黒いオートマチックに視線を移した。

「君たちは馬鹿だ。こっそり殺そうとするな。殺すなら堂々と殺せ。それが礼儀ってもんだろ。三日前くらいから果たし状出して殺しにいくのがベストだ。僕だってそうしてる。あのクソ野郎を真正面から殺すつもりだ。拳銃なんて要らない。殴り殺す。だから僕はさきに行くよ」

 そう言って僕はミミを置いて歩き出したのだが、今度もまたミミに後ろへと放り投げられた。僕の行こうとしていた先が大いに爆発したので、それは非常にいいことだった。ただしりもちをつくことはあまりいいことではない。僕はミミに抗議を言おうとしたがその小さい体から電気を発し始めたので、言葉を挟めなかった。かわりに右のほうから草を踏む音共に、男が話しかけてきた。

「ミミさーん、なんで二回も守るんですかねえ。そいつはどう見ても殺さなきゃいけないやつでしょ。せっかく駒場さんを押さえ込んでるってのに。俺、カナシイっすよ」

「金田さん。どうしてここにいるんですか? 潜入任務はとかれていませんよね」とミミは髪の毛を逆立てながらその男を睨んだ。僕はそいつを見たことがあった。駒場にカネちゃんと呼ばれていた男だ。

「あの会はもう終わりましたよ。壊滅です。教団の宮野さんが上手くやってくれました。全員人形化されてます。つまり俺の任務は終わって、そいつを殺す任務に変わったってわけですね。やあ、座間さんひさしぶりっすね。駒場さんとは仲良くヤれましたか? 死に際にあんなかわいい子と一緒にいれただけ十分でしょ。リア充、爆発しろ」

 そう言って金田は我々の方にぽいっと白い箱を投げた。地面に落ちる寸前、それが閃光を発するのを見た。おそらく爆弾だったはずで、そうでなければミミが光速でその箱を掴み遠方へと投げるはずがなかった。箱は空のかなたで爆発した。その様子を見て金田はため息をついた。

「ああ、やだやだ。ほんと俺、めんどうな仕事しかこないじゃないっすか。この状況で座間さん殺すとか無理っしょ。今日のミミさん、ハズレじゃないし」

「金田さんは優秀だからめんどうな仕事しかこないんですよ」とミミは睨みながら言った。

「あはは。褒めてくれるとうれしいっすよ。んじゃまあ、つぎ行きますか」と金田は右手を上げた。低い電子音が響いたと思ったら周りを武装した兵たちに囲まれていた。その武装兵の多くは少女だった。僕があの暗い会議室で見たことのある少女が多くいた。道野ヒカリもいた。そしてその少女たちは全員アサルトライフルの照準を僕とミミに向けていた。そういうこともある。

「どういうこと?」

「光学迷彩でこっそり囲んでました。すごいっしょ?」と金田は僕を笑う。

「ああ、すげえわ」

「この状況を無傷で切り抜けられるのは、擬音使いか、教団の巫女ぐらいじゃないっすかね。ミミさんがいくら優秀でも座間さんは守れんでしょ」

 ミミは何も言わずに腰を深く落とした。とたんつむじ風が吹いた。その暴風のなかでいくども銃声が響き渡ったが、無風の中心でぼおっと立っていた僕に当たることはなかった。

風が止んでから見えたのは、金田の腹を思い切り殴っているミミの姿だった。金田は口から血を吐き出してから地面に倒れこんだ。木々の枝には武装した少女たちが干されていた。

ミミは僕を見てほっとため息をついた。

「弾が当たってなくてよかったです」

「よかったよ。ミミも無事でさ」

「行きましょう。お姉ちゃんが心配です」

「あ、ああ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ