⭕ 返してもらいたい 3
──*──*──*── 教会
──*──*──*── 懺悔室
アタシはニュイちゃんを膝の上に乗せて椅子に座っている。
アタシとニュイちゃんは、アスベイル神父に御説教される時、懺悔室の中へ案内される。
御説教って言っても、アタシがイメージしてる御説教とは違うんだけどね~~。
アタシはロレンダ君から聞いた話をアスベイル神父に詳しく話して、何でボンチ・ゼネラゴアの家に行ったのか事情も話した。
アスベイル神父には何かと御世話になっているからね、嘘なんて吐けないんだよね……。
神父:キャロメンド
「 …………そうでしたか。
出来る事なら村長の家へ行く前に話してほしかったですね 」
救世主:スドゥ
「 ………………御免なさい…… 」
神父:キャロメンド
「 村長と奥さんが留守で良かったです。
アレス君とボンチ君から話を聞いた御両親が明日、教会に来られるかも知れません 」
救世主:スドゥ
「 だったら、どんな子育て教育してるのか問い質してやります! 」
神父:キャロメンド
「 スドゥ……。
この件は私に任せてくれませんか。
御両親を刺激しない方が良いです 」
救世主:スドゥ
「 アスベイル神父にですか? 」
神父:キャロメンド
「 はい。
名ばかりですが、この教会の責任者代理です。
私が責任を持って丸く収めます 」
救世主:スドゥ
「 アスベイル神父…… 」
神父:キャロメンド
「 ロレンダ君には残念な結果でした 」
救世主:スドゥ
「 はい……。
ロレンダは勇気を出して、ボンチに気持ちを伝えに行ったのに──、あんまりな真実でした…… 」
神父:キャロメンド
「 そうですね。
勇気を出しても思い通りの結果にならない時も有ります。
それでも勇気を出した事は無駄にはなりません。
ロレンダ君にとっては、良い意味でも悪い意味でも貴重な経験となったでしょう 」
救世主:スドゥ
「 …………そうですね……。
今回の事が切っ掛けになって、ロレンダが勇気を出す事を避ける様になったら…………僕の所為ですよね…… 」
神父:キャロメンド
「 スドゥが責任を感じる事はないですよ。
スドゥは勇気を出す切っ掛けをロレンダ君に与えただけです。
結果に対して、どう向き合うのかはロレンダ君自身の問題ですよ 」
救世主:スドゥ
「 アスベイル神父…… 」
神父:キャロメンド
「 やり過ぎる前に先ずは私に相談してくださいね。
私は修道士見習いスドゥの教育担当なのですから 」
救世主:スドゥ
「 はい……(////)」
神父:キャロメンド
「 夕食まで時間が有ります。
呼びに行くまで部屋で謹慎していてください 」
救世主:スドゥ
「 謹慎…… 」
神父:キャロメンド
「 はい♪
謹慎です。
謹慎ついでに此方を縫い直す様に── 」
救世主:スドゥ
「 アスベイル神父、これは何ですか? 」
アスベイル神父から手渡されたのは、何かが入っている布袋だった。
何が入ってるんだろう??
神父:キャロメンド
「 その布袋はアレス君から渡されました 」
救世主:スドゥ
「 えっ?
アレス君って、金髪碧眼美少年の── 」
神父:キャロメンド
「 そうですね。
何でもロッシーが遊び飽きた犬のヌイグルミを回収していた様です。
ボンチ君が持っていない犬のヌイグルミだったので、念の為に回収したそうです 」
救世主:スドゥ
「 ──それじゃあ、この中にはロレンダのクーペが入ってる──って事ですか?
それならロレンダが喜びますね! 」
神父:キャロメンド
「 問題なのは、回収された犬のヌイグルミがボロボロだという事です。
ボロボロの状態でロレンダ君に返す訳にはいきません 」
救世主:スドゥ
「 た…確かに……。
その通りですね……。
じゃあ、どうしたら………… 」
神父:キャロメンド
「 謹慎の時間を使い、ヌイグルミを縫い直してください 」
救世主:スドゥ
「 えっ──??
僕が──ですか?? 」
神父:キャロメンド
「 今回、独断で勝手な事をしたスドゥへの罰とします 」
救世主:スドゥ
「 えぇ~~!?
僕──、裁縫なんて上手く出来ないんですけどぉ!! 」
神父:キャロメンド
「 ロレンダ君と亡くなられたお祖母さんを繋ぐ大切な形見のヌイグルミの様ですね。
責任重大ですよ、スドゥ── 」
アスベイル神父は笑顔で言ってるんだけど、実は身勝手な行動をしたアタシに怒ってたりするぅ??
懺悔室から出たアタシは、アスベイル神父に促されて、謹慎部屋なる場所へ連れて行かれた。
神父:キャロメンド
「 スドゥ、ニュイさんと一緒に夕食の時間まで謹慎部屋に居てください 」
──*──*──*── 謹慎部屋
謹慎部屋に入れられたアタシとニュイちゃん。
ドアはアスベイル神父に鍵を掛けられてしまって開けられなくなった。
救世主:スドゥ
「 閉じ込められちゃったね、ニュイちゃん 」
ニュイ
「 にゅにゅ~~。
にゅ~にゅにゅ! 」
救世主:スドゥ
「 えっ?
鍵の解錠が出来るの?
…………止めとこっか。
アスベイル神父に見付かったらね? 」
ニュイ
「 にゅ~~ 」
救世主:スドゥ
「 ニュイちゃん、これ……どうしようか? 」
アタシは布袋の中に入っている物を取り出す。
机の上に出してみると引き千切れたボロボロのヌイグルミ。
こんな酷い有り様じゃあ、犬かどうかなんて事も分からない。
布袋の中には裁縫セットも入っていた。
救世主:スドゥ
「 アスベイル神父って用意が良いんだから~~。
酷い状態だよね……。
これをアタシが縫い直すなんて、アスベイル神父も無茶言うんだから……。
こんなの高い裁縫スキルが無いと無理よぉ~~~~。
どうしたら良いのかな?? 」
ニュイ
「 にゅにゅい 」
救世主:スドゥ
「 えっ?
このボロボロのヌイグルミをニュイちゃんの中に入れるの? 」
ニュイ
「 にゅにゅ~~ 」
救世主:スドゥ
「 ニュイちゃんの中に入れたら……どうなるの?? 」
ニュイ
「 にゅにゅいにゅい! 」
ニュイちゃんが真剣だから、アタシはズタボロのヌイグルミだった物を両手で持つと、ニュイちゃんの中へ入れた。
ニュイちゃんの体内へヌイグルミだった物が消えていく。
シュワシュワとしてないから、溶けるのとは違うみたい。
ニュイちゃんが体を上下や左右に動かし始めた。
ジャンプも始めたかと思うとクルクルと回転も始めた。
何してるんだろうねぇ~~~~。
ダンス…………かな??
ロレンダ君が大好きだった、お祖母ちゃんが手作りした犬のヌイグルミ──クーペ。
デボチは飼い犬のロッシーに玩具として与えて──、ロレンダ君の友達だったクーペは見るも無惨な姿に成り果てた。
デボチはクーペの事を『 ゴミになった 』って言いやがったけど──、金髪碧眼のアレス君がクーペの残骸を回収していたくれていたなんて──。
出来の違う双子の兄が機転の利く子で良かったよね!
ロレンダ君の「 返してほしい 」って思いは叶わなかったけど……。
ニュイ
「 にゅい~~にゅにゅ! 」
救世主:スドゥ
「 うん?
どうしたの、ニュイちゃん? 」
ニュイ
「 にゅにゅ 」
ニュイちゃんは体内から何かをペッと上に吐き出した。
まるでトースターで焼き上がった食パンが飛び出すみたいに、宙に投げ出されたのは────。
救世主:スドゥ
「 うわっと!?
これって──、ヌイグルミ??
犬のヌイグルミだね。
ニュイちゃん、これ……どうしたの?? 」
ニュイ
「 にゅ~~い、にゅい! 」
救世主:スドゥ
「 体内で元通りにしたって事?
ニュイちゃんって、そんな事まで出来ちゃうの?? 」
ニュイ
「 にゅい~~ 」
救世主:スドゥ
「 凄いね、ニュイちゃん!!
ニュイちゃんが居てくれたら、裁縫スキルが無くても直せるね! 」
ニュイ
「 にゅにゅ~~(////)」
救世主:スドゥ
「 新品と変わらないね、ニュイちゃん!!
ニュイちゃん、ハイパー有能ぉ~~ 」
アタシはニュイちゃんを抱きしめると虹色の体に口を付けてチュッチュッしてあげちゃう。
ニュイ
「 にゅい~~♥️♥️♥️ 」
救世主:スドゥ
「 照れてるの、ニュイちゃん?
可愛い~~♥️ 」
怪物のスライムに発情されても困るけど、照れるニュイちゃんは癒しぃ~~(////)
これがロレンダ君の大切なクーペか──。
ヌイグルミを作ってくれるなんて、優しいお祖母ちゃんだったんだね。
救世主:スドゥ
「 ニュイちゃん、クーペは明日、ロレンダに渡しに行こうね。
きっと泣いて喜ぶよ? 」
ニュイ
「 にゅにゅにゅ 」
救世主:スドゥ
「 えっ?
勇気度数?
…………………………勇気度数って何だっけ? 」
ニュイ
「 にゅにゅにゅいにゅ~ 」
救世主:スドゥ
「 え?
……………………あっ──あぁ~~~……勿論、覚えてるよ!
心の込められた “ ありがとう ” を集めたら増える度数の事だよね?
ちゃんと覚えてるよ!
忘れてない、忘れてない(////)」
ニュイ
「 にゅ~………… 」
救世主:スドゥ
「 あはははは~~(////)」
嫌だよ、アタシったら!
ニュイちゃんに言われる迄すっかり忘れちゃってた!!
質の高い “ ありがとう ” を集めて勇気度数を貯めるチャンスだったのを忘れてたなんて……。
でもでも、今回はニュイちゃんのお蔭で何とかなりそうかも?
見るも無惨でボロボロだったクーペもニュイちゃんの活躍で元通りになったし、これを渡せばロレンダ君も喜ぶ筈!
心の込められた “ ありがとう ” をゲット出来るかも知れないよね!
……………………だったら良いんだけどねぇ~~。
アスベイル神父が呼びに来てくれる夕食の時間になる迄、アタシはニュイちゃんと一緒に謹慎室でダラダラと過ごす事にした。
救世主:スドゥ
「 処でニュイちゃんの体の何には何が入ってるの? 」
ニュイ
「 にゅ? 」
救世主:スドゥ
「 ほら、ニュイちゃんって色んな物を体の中に入れてるでしょ?
ニュイちゃんが何を持ってるのか把握を出来てないんだよね…… 」
ニュイ
「 にゅ~~にゅい 」
救世主:スドゥ
「 えっ?
呪文があるの? 」
ニュイ
「 にゅにゅにゅにゅい 」
救世主:スドゥ
「 “ スティタスオプン ” って唱えれば良いの?
……………………ねぇ、此処ってゲームの世界じゃないよねぇ?? 」
ニュイ
「 にゅ? 」
救世主:スドゥ
「 まぁ、いっか──。
スティタスオプン! 」
アタシは呪文を唱える。
なんかさ、アデ◯ダスみたいで笑えちゃうよね!
アタシの目の前に宙に浮いた状態の透けた画面が現れる。
やっぱさぁ、何かのゲームの世界なんじゃないのぉ~~??
画面に出ている文字は日本語になっているからちゃんと読めるんだよねぇ。
有り難いわぁ~~。
夏休み前に放送されてた某アニメでは、日本が舞台なのにステータス画面の文字が英語で書かれてたからね~~。
「 読めねぇじゃんかよ! 不親切だな! 」って不満に思いながら見てたから、アタシのは日本語で安心したぁ~~。
えぇと──、アタシのステータス画面の右横に矢印が有るね。
矢印をタップすると──ニュイちゃんのステータス画面を見る事が出来るんだね。
ふ~~ん、この画面はタップ式なんだ。
なんかタブレットやスマホみたいね。
アタシのステータスは置いといて──、今はニュイちゃんのステータスだよね。
救世主:スドゥ
「 どれどれぇ~~~~。
固有技,獲得技,魔法,装備品,所持品──。
所持品の前に装備品を見てみようかな? 」
アタシは〔 装備品 〕をタップしてみた。
[ ニュイ・装備品 ]と書かれた画面が現れる。
何々ぃ~~、画面には〈 装備可能な装備品は存在しません 〉って書かれている。
なんですと!?
ニュイちゃんは武器も防具も装飾品も装備が出来ないって言うの??
マジですかよ!!
スライムだからかな??
救世主:スドゥ
「 ニュイちゃんは装備が出来ないみたいだね 」
ニュイ
「 にゅ~? 」
別に装備品が無くても気にしてないみたいね。
救世主:スドゥ
「 ニュイちゃんの〔 所持品 〕を見てみるね 」
ニュイ
「 にゅ~~にゅ 」
アタシは〔 所持品 〕をタップしてみた。
[ ニュイ・所持品 ]と書かれた画面が現れる。
救世主:スドゥ
「 なんか……いっぱい入ってるね。
あっ、仕分け機能が付いてる!
えぇと、タップタプすると説明が読めるのか──。
自分で仕分けしなくても自動で種類別に仕分けてくれるなんて有り難い機能じゃんね 」
アタシが画面の〔 仕分け 〕をタップすると、ニュイちゃんの〔 所持品 〕が仕分けされて整理整頓された。
救世主:スドゥ
「 ひえっ、一瞬じゃんね。
すっごぉ~~ 」
アタシは自動で仕分けされ、整理整頓された〔 所持品 〕を確認する事にした。
コンコン──。
ドアがノックされる音が聞こえた。
カチャって鳴ったのは、鍵を解錠されたからだね。
神父:キャロメンド
「 スドゥ,ニュイさん、謹慎時間は終わりです。
食堂に行きましょう 」
救世主:スドゥ
「 アスベイル神父!
お腹ペコペコです(////)」
ニュイ
「 にゅ~い、にゅ~い 」
神父:キャロメンド
「 今夜は御馳走ですよ 」
救世主:スドゥ
「 御馳走ですか?!
どんなメニューなんですか? 」
神父:キャロメンド
「 今夜は肉入りシチューですよ 」
救世主:スドゥ
「 あぁ~~……はい…………。
やったぁ~…… 」
肉入りっ言ってもシャバシャバシチュー風スープじゃんね……。
串焼きが良かったなぁ~~。
まぁ、タダで食べさせてもらってる立場で文句は言えないよね……。
我慢だぞ、アタシ!
救世主:スドゥ
「 シチューに肉が入るなんて珍しいですね。
何かあったんですか? 」
神父:キャロメンド
「 狩人のジェビドさんが怪物の肉を寄附してくださったんです 」
救世主:スドゥ
「 狩人って怪物も狩るんですか?? 」
神父:キャロメンド
「 ジェビドさんは狩人になる前、凄腕の冒険者だったんです。
私が未だ巡回神父時代の時は良く御世話になったものです 」
救世主:スドゥ
「 へぇ~~。
冒険者が居るんですね。
あっ、じゃあ、冒険者ギルドみたいな場所も有るんですか? 」
神父:キャロメンド
「 《 冒険者斡旋所 》ですね。
《 傭兵斡旋所 》も有りますよ 」
救世主:スドゥ
「 斡旋所……ですか?
ギルドじゃないんですね 」
神父:キャロメンド
「 冒険者も傭兵も神殿で洗礼式を挙げると〈 大陸神コビダエニカ様 〉から祝福と加護を受ける事が出来るんです。
神殿から冒険者承認証,傭兵承認証を発行してもらい、登録されると晴れて冒険者見習い,傭兵見習いとなれます 」
救世主:スドゥ
「 じゃあ、商人ギルドも無くて、商人斡旋所なんですか? 」
神父:キャロメンド
「 商人も神殿で洗礼式を挙げます。
冒険者,傭兵と同じですね。
商人の場合は《 商業斡旋所 》になります 」
救世主:スドゥ
「 《 商業斡旋所 》ですか…。
商売を始めたい時は、《 商業斡旋所 》を頼るんですね。
冒険者や傭兵って怪物や魔物なんかを倒すとアイテムを入手しますよね?
売りたい時は《 商業斡旋所 》を頼るんですか? 」
神父:キャロメンド
「 その場合は登録している斡旋所を通します。
《 冒険者斡旋所 》《 傭兵斡旋所 》で “ 素材 ” として買い取ってもらえますよ。
《 商業斡旋所 》は自分の店舗を持ち商売をしたい商人をサポートする場所です。
いきなり店舗から起業する事は難しいですから、先ずは屋台を借りて商売を始めます。
移動の可能な屋台販売でファンが付くと、露店を貸りて商売が出来る様になります 」
救世主:スドゥ
「 そうなんですね。
屋台販売か…… 」
詳しくは知らないけど、行商や移動販売みないなもんかしらね?
救世主:スドゥ
「 えぇと……怪物の下処理済みの肉とかは肉屋へ直接持って行って買い取ってもらう事は出来るんですか? 」
神父:キャロメンド
「 その場合は店主に自分の承認証を提示して、身元を明かせば問題ないですよ。
個人間での売買になるので揉めても斡旋所はノータッチになります。
自己責任の自己解決になりますから、揉めずに売買する為に御互いの信頼関係が必要となります。
個人的に売買をするなら相手を見極める目を養う必要があります 」
救世主:スドゥ
「 そ…そうなんですね…… 」
神父:キャロメンド
「 教会に入団し籍を入れている聖職者は商売は出来ませんよ。
斡旋所へ持って行っても買い取ってはもらえません。
神殿や教会へ寄附する形になります 」
救世主:スドゥ
「 寄附……ですか?
お金に変わらないって事ですか? 」
神父:キャロメンド
「 変わりませんね。
私も巡回神父時代に狩った怪物を解体した後は、神殿や教会へ寄附したり、必要の有る店舗の皆さんへ無償で提供していました。
聖職者は施す精神,譲り合いの精神,助け合いの精神を大切にして活動をしています。
聖職者は生涯の生活に困る事が無いので、自ら売買をする必要がないんです 」
救世主:スドゥ
「 そ…そうなんですね~~………… 」
神父:キャロメンド
「 話の続きは食堂でするとしましょう 」
救世主:スドゥ
「 そ…そうですね…… 」
アタシはニュイちゃんを抱っこして謹慎室から出ると、アスベイル神父と一緒に食堂へ向かって歩いた。




