第3話 教室内がまた地獄みたいな空気にならなくて良かったぞ
昼休みが終わり五時間目の授業が始まった。コミュニケーション英語は好きなクラスメイトと二人一組でペアワークをする事が多いためぼっち泣かせの授業となっている。
だが俺の場合は毎回ペアが固定されているため特に困る事はない。俺がペアを組んでいる相手は勿論桐生さんだ。
「……なあ、この文章で使われてるbookって一体どう言う意味か最上は分かるか? 本って意味じゃない事だけは分かるんだけど」
「ここでのbookは動詞で予約するって意味だぞ」
「へー、そんな意味もあるのか」
「あっ、大丈夫だとは思うけどhave toはしなければならないって意味だから」
「中学生の時に習った内容だから流石にそれは知ってる、もしかして私の事を馬鹿にしてるんじゃないだろうな?」
「いやいや、念のために確認しただけで別に馬鹿にしたわけじゃないって」
今日もこんな感じでいつも通りペアを組んで英文の読解を進めている。俺が桐生さんとペア固定になった理由は、彼女が怖すぎてクラスメイトが誰もペアを組みたがらなかったからだ。
二年生に進級した最初の授業の時にぼっちとして余っていた俺と桐生さんが組まされて以降ずっとペアを組んでいる。
本当は毎回相手を変えなければならないのだが俺達に関しては教師から黙認されているためペアが固定されたというわけだ。ちなみに俺と桐生さんが仲良くなったのも実はこのペアワークがきっかけだったりする。
コミュニケーション英語以外の授業も基本的に俺は桐生さんとペアを組まされたため話す機会が非常に多くいつの間にか仲良くなったのだ。
「じゃあここの文章を出席番号15番の人に日本語訳して貰おうか」
英語教師はプロジェクターで黒板に投影していた英文を指示棒で指しながら出席番号15番を指名した。すると次の瞬間、教室内がざわざわし始めて一気に緊張が走る。
英語教師もしまったと言いたげな表情になったがもう手遅れだ。指名された出席番号15番の生徒は桐生さんだった。
以前の授業で桐生さんを指名した時に彼女が凄まじく不機嫌そうな顔となり、教室内に殺伐とした空気が流れて以降指名をしなくなったのだが今日はうっかりしていたらしい。
指名された桐生さんがゆっくり椅子から立ち上がる姿を見て、前回の惨劇を知っているクラスメイト達は一斉に顔を歪ませた。そんな彼らを完全に無視して桐生さんは日本語訳をすらすらと読み上げる。
「そのレストランは非常に人気があるため、数週間前に予約しなければならない」
そう言い終わると桐生さんはすぐに着席した。その様子を見てクラスメイト達と英語教師があからさまにホッとした表情になった事は言うまでもない。
「最上のおかげで助かった」
「教室内がまた地獄みたいな空気にならなくて良かったわ」
「いや、あの時は日本語訳が分からなかったからちょっと顔がこわばっただけでそんな空気にするつもりは全く無かったんだけど」
「勿論俺は分かってるけど他のクラスメイトはそうじゃないって事だ」
「私がちょっと険しい顔付きになっただけで皆んな大袈裟な反応をし過ぎなんだよ」
俺は授業の邪魔をしないように小声で桐生さんとそんな事を話していた。しばらくして五時間目の授業が終わり俺がトイレへ行こうとしていると桐生さんに肩を掴まれる。
「ちょっと待て、教室を出る前に昼休みに約束していた体操服を貸してくれ」
「ごめん、普通に忘れてた。すぐに渡す」
昼休みに体操服を貸す約束をしていた事を思い出してそう謝罪した。休憩時間は十分間しかないため着替えの時間を考えて先に渡して欲しいのだろう。
そんな事を思っているとクラスメイト達からの哀れみの視線に気付く。最初は何故か理由が分からなかったが目の前に立つ桐生さんを見てすぐに理解した。
クラスメイト達は俺と桐生さんの仲が良い事を誰も知らないため、多分肩を掴まれて絡まれているように見えているはずだ。
俺の表情を見て桐生さんも周りからの視線に気付いたらしい。すると桐生さんは俺の手を引いてロッカーの前まで早足で移動する。
「あんまりジロジロ見られるのも不愉快だから教室にあんまり長居したくないし、さっさと体操服を貸して貰うぞ」
「ああ、また洗った体操服を明日返してくれれば大丈夫」
そう言いながら俺はロッカーから体操服の入った袋を取り出し、そのまま桐生さんに手渡す。それを受け取ると桐生さんは足早に教室から出て行った。
「なあ、今の見たか?」
「うん、最上君が何かを桐生さんに渡してたよね」
「ひょっとして恐喝されてお金とかを巻き上げられたんじゃ……」
どうやら先程の俺達のやり取りを見たクラスメイト達から凄まじい誤解をされているらしい。てか、本当にそう思っていたのなら遠目から黙って見てないで誰か助けに来るくらいしろよ。
とにかく誤解を解かないと色々面倒な事になりそうな予感しかしない。だから俺はクラスメイト達の誤解を解くために残った休憩時間ひたすら奔走するのだった。
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