第2話 別に取って食いはしないってのに失礼な奴らだ
特に何事も無く午前中の授業は終わり昼休みになった。俺は朝コンビニで買ったおにぎりとコーラを手に取ると教室を出てそのまま屋上へと向かう。
そして適当に腰掛けて座ってしばらく待っていると扉が勢いよく開かれて桐生さんがやってきた。
「おっ、もう来てたのか」
「今日は朝コンビニで昼ごはんを買ってたからな、桐生さんはいつも通りまた購買のパン?」
「ああ、購買の焼きそばパンが中々美味いから」
「いつも思うけどあれだけ人気なのによく買えるよな」
購買の焼きそばパンはめちゃくちゃ人気があるため中々買えないのだ。だから桐生さんが毎回のように買ってきてくる事が不思議でならない。
「いつも私が購買に行くと何故か皆んな道を開けてくれるんだよ」
「何故ってどう考えても皆んな桐生さんにびびって譲ってるだけだろ」
なるほど、それで入手困難なはずの焼きそばパンをいとも簡単に手に入れていたのか。
「別に取って食いはしないってのに失礼な奴らだ」
「桐生さんにその気がなくても向こうにはそう見えてたって事だろ」
「全く私の事を何だと思ってるんだか」
そう口にした桐生さんは相変わらず不機嫌そうな顔をしていた。だが別に桐生が不機嫌ではない事を俺は知っている。
綺麗系美人な桐生さんは元々キツそうな顔に見える上に不器用で感情を顔に出すのが下手なため結果的に不機嫌そうに見えているだけなのだ。
だから皆んなから勝手に恐れられている桐生さんだが俺は同じクラスになった割と早い段階で彼女がヤンキーではない事に気付いていた。
俺は昔から他人の表情の違いなどに人一倍敏感だったため、他のクラスメイトには不機嫌そうな顔にしか見えないであろう桐生さんの表情の違いも見分けられたのだ。
「あっ、そうだ。五時間目にあるコミュニケーション英語の予習って最上はやってるか?」
「勿論やってるけど」
コミュニケーション英語の予習は教科書の長文読解がメインでかなり時間がかかるため真っ先に済ませていた。
「じゃあいつも通りノートを見せてくれ」
「もしかしてやってないのか?」
「そうなんだよ、昨日は帰って夜中までずっとアニメを見てたから」
「またか、ちゃんとやらないと駄目だろ。しようがないから後で見せてやるよ」
桐生さんはこうやって予習をたびたびサボる癖がある。そのたびに俺がノートを見せている事は言うまでもないだろう。
まあ、桐生さんの事は教師達ですら怖がっているため予習や課題などをやってなくても別に怒られはしないだろうが。そんな事を思っていると桐生さんは突然険しい顔付きになって声をあげる。
「やべっ、体操服忘れてきた!?」
「あーあ、完全にやらかしたな」
今日の六時間目に体育の授業があるのだがどうやら体操服を忘れてきたらしい。俺と同じく桐生さんは同じクラス以外にも友達がいないエリートぼっちなため忘れ物をしたら完全に詰む。
「マジでどうしよ……」
「どこか適当なクラスに行って誰でも良いから桐生さんがいつもの迫力で一言貸せって脅せば簡単に借りられそうな気がするけど」
「そんな恐喝みたいな事を私がするわけないだろ」
今のは流石に冗談だが体操服がないと体育の授業には参加できないため割と危機的な状況だ。
「あっ、そうだ。最上の体操服を借りれば何とかなるじゃん」
「おい、さらっと何言ってんだよ」
「確か男子は今日って室内で保健の授業だから体操服は使わないだろ? じゃあ何の問題もないでしょ」
「いやいや、普通に駄目だから」
確かに桐生さんと俺の身長はほとんど変わらないため貸せない事は無いが、女子に体操服を貸すのはどう考えても問題しかない。
もしこれが逆の立場ならはっきり言って抵抗しか無いのだが。間違いなく変態というレッテルを貼られるに決まってるし。
「なあ頼むって、体操服がないとガチで困るんだよ」
「そもそも桐生さんは俺の体操服を着る事に抵抗とかは無いのか?」
「知らない男子の体操服ならともかく最上のなんだから別に抵抗なんて無いけど」
桐生さんは平然とした顔でそう言い放った。もしかすると桐生さんには恥じらいという概念が無いのかもしれない。
「ちゃんと綺麗に洗って返すからさ、私を助けると思って貸してくれよ」
「わ、分かったからそんなに迫ってくるな」
思いっきり肩を掴まれてまで頼まれてしまっては断りずらい。てか、ここまで間近で桐生さんの顔を見るのは初めてだが本当に美人だな。
身長が高くてスタイルも良いためお世辞抜きでどこかの芸能事務所に所属してモデルをやっていると言われても全く違和感が無い。
多分ヤンキーと勘違いされてなければほぼ間違いなくクラスカーストの上位グループに所属していたはずだ。もしそうだったなら陰キャな俺なんかとは絶対関わりが無かったに違いない。
「ありがとう、マジで助かる」
「体操服は俺のロッカーの中に入ってるし、五時間目の授業が終わったら渡すから」
「オッケー、また明日洗って返す」
すっかり上機嫌になった桐生さんはそう話した。
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