第1話 最上さえいてくれれば私は特に困らないから
新作です。
俺のクラスである二年三組にはぼっちが二人いる。 一人はいかにも陰キャで暗そうな見た目をした最上零という男子でつまり俺の事だ。
多分ぼっちと聞けば皆んな俺のようなタイプを想像するだろう。だがもう一人は明るい金髪ミディアムヘアで派手なピアスを両耳につけた桐生玲奈という女子でありどう見てもぼっちには見えない。
凄まじく美人で百七十センチ近い高身長な桐生さんはクラスの中心人物でも全く違和感のない容姿をしているが、彼女がぼっちになっている事にはちゃんと理由がある。
それは桐生さんがいつも不機嫌そうな顔をして人を寄せ付けないオーラを全身からこれでもかと放っているためだ。つまり周りから完全に恐れられている。
「……ねえねえ、桐生さんの機嫌が今日は朝から一段と悪そうだけどお前何か知ってる?」
「……いや、俺は何も知らないけど」
「……もしかしてまた他校のヤンキーと喧嘩でもしたのかな?」
「……あー、かもしれないな」
クラスメイト達はいつにも増して不機嫌そうな顔をした桐生さんの姿を見て遠巻きからコソコソとそんな話をしていた。
するとそんな会話が聞こえたのか桐生さんは物凄い形相になる。その瞬間、クラスメイト達は顔を真っ青にして震え始めた。
今にも一触即発の事態に発展しそうな空気であり教室内は緊張に包まれている。しかし桐生さんは何もせずにそのまま教室から出て行った。
それを見てほっと胸を撫で下ろすクラスメイト達を一瞥しつつ、俺は教室を出てそのまま真っ直ぐ屋上へと向かう。
多分ここに目的の人物がいるはずだと思って来てみたが見事にビンゴだったようだ。俺は屋上で静かに佇んでいた桐生さんに迷わず声をかける。
「さっきのはちょっとやり過ぎだ、桐生さんの事を皆んなめちゃくちゃ怖がってたぞ」
「だってあいつらが私の事を見てコソコソ話すから」
「それにしたって限度ってもんがあるだろ」
俺がそうツッコミを入れると桐生さんは少しだけばつの悪そうな顔になった。多分自分でもやり過ぎたという自覚は持っているのだろう。
「そんな感じだといつまで経っても皆んなからの誤解は解けないと思うけどな」
「別に私は群れて馴れ合うつもりなんてこれっぽっちもないからこのままでいいし」
俺の言葉に対して桐生さんはそう言葉を返してきた。俺は桐生さんが感情を顔に出すのが下手でコミュニケーションも凄まじく苦手な事を知っているが他のクラスメイト達はそうでは無い。
普段の言動に加えて見た目がかなり派手な事もあって間違いなく恐ろしいヤンキーだと思われているはずだ。
「それならずっと俺以外に話し相手が出来ないけど本当にそれで良いのか?」
「最上さえいてくれれば私は特に困らないから」
「じゃあ万が一俺に友達ができたらどうするんだよ? そうなったら桐生さんと話さなくなるかもしれないぞ」
「万が一どころか億が一も無いと思うから最上に友達なんか出来るとはとても思えないんだけど?」
「も、もしかしたら何かの間違いで友達が出来るかもしれないだろ」
桐生さんから思いっきり痛いところを突かれた俺は若干早くになりながらそう口にした。桐生さんから見て俺に友達ができる可能性は億が一なのかよ。
「その時は最上と一緒にいる間中ずっとそいつの事を睨み続けてあんたの側から強制的に離れさせる」
「いやいや、さらっと凄まじく恐ろしい事を言うなよ」
まるでヤンデレ彼女みたいな発言に俺は思わずそう反応した。もしそんな事になったらますます俺に友達が出来づらくなるに違いない。
「流石に今のは冗談だけど最上がいないとマジで困るし、何があっても私の相手だけはして貰うからな」
「心配しなくても俺も桐生さんくらいしか相手してくれそうな奴がいないし」
「分かれば良いんだよ」
何でもない事のようにそんな事を言いつつも桐生さんはどこか嬉しそうな顔に見えた。
「そう言えば今日はいつもより眠そうに見えるけどひょっとして夜更かしでもしたのか?」
「最上に教えてもらったおすすめのアニメを見てたら寝る時間が遅くなって寝不足になったんだ」
「その様子だと結構ハマったみたいだな」
「ああ、アニメなんて今までほとんど見た事なかったけど案外面白いから時間を忘れてついつい見過ぎた」
なるほど、それで普段よりも顔が険しかったのか。それをクラスメイト達からいつもより不機嫌と誤解された挙句他校のヤンキーと喧嘩した事にされるのはちょっと可哀想な気がする。
ちなみに言うまでもなく桐生さんが他校のヤンキーと喧嘩しているなんて事は誰かが勝手に言い始めた噂であり当然そんな事実は無い。
ヤンキーと思われているせいで桐生さんには事実無根の噂話がたくさんあり、他にも暴走族の女総長や組長の娘など散々な言われようだったりする。本人としてはかなり迷惑しているそうだ。
「……そろそろ教室に帰らないと一時間目の授業に遅刻するから戻ろうぜ」
「もうこんな時間か、また昼休みよろしく」
そう言い残すと桐生さんは屋上から出て行く。俺はその後をゆっくりと歩き、桐生さんとは少しだけ時間差をつけて教室へと戻った。
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