金魚になって5年。ここが異世界だった事に気がついた!
最期の記憶はどんなだったか? 多分トラックにでも轢かれたんじゃなかったかな?
金魚に生まれ変わったせいか、脳の記憶量が絶対的に少ないらしい。しかも、毎日狭い水槽の中を行ったり来たりするだけの生活だからか、どんどん昔のことを忘れていく。
――そういや、金魚になる前も、ずーっと家の中で過ごしてた気がするな。
はらはらと舞うように沈んでいく餌に食いつきながらそんなことでを考えていると、突然、水槽全体を黒い陰が覆った。
「あ! 金ちゃんウ○コしてる! 待ってて、清浄魔法で綺麗にしてあげるね」
金ちゃんというのは、いつも俺の世話をしてくれるこの少女がつけれくれた俺の名前だ。金魚だから金ちゃんというのもどうかと思うが……
――え? 清浄魔法?
突如、今まで靄がかかったように思い出せなかった前世の記憶がフラッシュバックする。あまりにも膨大なその情報量に、金魚の脳が耐えられるはずもなく、俺は意識を失った。
どこからか、少女のすすり泣く声が聞こえる。同時に、全身が温かい何かに包まれている感触がした。ゆっくりと目を開ければ、そこは少女の手の中だった。
「金ちゃん。死なないでよぅ。5歳で死んじゃうなんて可哀想だよ……うえーん」
俺のことを想って泣きじゃくる少女を前に、ほっこりしそうになったのも束の間。凄まじいまでの息苦しさに、俺は全身をくねらせて悶えた。
「あ! 金ちゃんが生き返った! まってて! すぐ水槽に戻してあげるね」
ふわりとした浮遊感の後、全身が心地よい水の感触に包まれ、息苦しさも一気に引いていった。
――死ぬかと思った……
さて、比喩表現抜きに一息ついたところで状況を整理してみよう。
まず、どうやら俺はやっぱり金魚らしい。水の外に出て呼吸が出来なかったこと、左右にやたら広い視界がすべてを物語っている。ちなみに現在5歳。
――5年も俺はこの水槽で漫然と餌を食っていたのか……にしても、よく息絶えずにここまで成長したもんだ。
って感心ししてる場合じゃなかった。大事なのはそこじゃない。この世界には魔法があると言うことと、俺は既に金魚として5年生きたと言うことだ。
前世を思い出してクリアになったこの頭なら、この状況から答えを導き出すなんてのは朝飯前だ。
どうして、毎日部屋に引きこもっていた俺がトラックにはねられて死に、清浄魔法がある世界で金魚なんぞをやっているのか。
そう、
――俺、異世界転生してたのか……しかも、金魚に!