転生伯爵
人族。かつてこの世界の支配者であった種族であり、今はゴブリン以下獣人以下という地位で生態系の下位に居る種族である。他の種族にほとんど及ぶところがなくなったためこうなってしまった。
俺からするとありえないと思いたいところだが残念なことに本当のことだ。
これでも良くなったほうらしいから呆れる。
「ヴァセロ伯爵様。お迎えに上がりました。」
「ああ、すぐに行く。」
王家から使者が来た。最重要会議が行われるのだという。
この世界がどんなものか。その中で人間はどのような存在なのかは馬車の中で説明しよう。
俺は王家の使者に舐められないような姿を見せないように慎重に優雅さに気をつけて馬車に乗り込んだ。
つまらない貴族のプライドではあるが、実はこれ、戦場において指揮官に取っては必須級と呼ばれる能力である。後でいくらでも話すことができるだろうから今は詳しくは話さないがな。
さて、人類の地位については先程話したから人類の敵対勢力について話そうか。
エルフとドワーフの同盟が現在人類に明確に敵対している種族である。
精霊を原点としている2つの種族は人類を下等種と蔑み、忌み嫌って戦争を仕掛けてきている。
種族としての性能が違うので人間は2つの種族に遠く及ばず戦場において敵一人に対してこちらの被害はおよそ100人。こちらのほうが人数が多いとはいえ流石に比率がおかしい。
しかも、相手は一般兵である。
これが相手側の英雄とかであると、魔法があるこの世界では一般兵の場合決着がつかず千単位の死者数が出てしまうのだから最悪だ。
こちら側にも英雄と呼ばれる存在は居るのだがまぁ一部の例外を除いて弱い。一般兵に対しては勝てるが英雄と相対した場合は大抵の英雄は時間稼ぎにしかならないだろう。
俺の師匠のような最強種から認められるような強さを持つ化け物もいるにはいるが例外と呼ばれるほど数が少ない。
話し終わり休んでいると馬車が止まる音がした。どうやら王城についたらしい。
中を進んでいくと正面に扉が見えた。呼ばれたものしか入れない会議室である。
魔法じかけの掘られた紋章を見る限り俺は一番最後らしい。
「王よ。ただいま参りました。」
「ああ、よく来てくれた。堅苦しいのはできれば辞めてほしい」
無理な話だ。俺だけではないのだろう、周りの貴族も苦笑いを浮かべていた。
「では、人類の生き残りをかけた会議を始めようか」
威厳のある声で王がその会議の開会を宣言する。
それと同時に宰相から説明が入った。
「まず戦況をお伝えしましょう。
西部
北部
東部 すべての前線において我軍は死力を尽くしていますが力及ばず押されています。」
「押されているだけですんでいるのか?」
「素晴らしいではないか」
一部の貴族から感嘆の声が発せられる。
まぁ、押されているだけならば人類としては最善な結果であるのだ。
「ええ。ですがドワーフ・エルフの間で大討伐部隊が結成されるようで、その数は10万人。これは枠を超越した英雄のうちの一人【実態なき人間】の調査報告によるものですので信憑性は確かでございます。」
会議室を沈黙の波が襲う。
「今世紀最大の危機だな、人類にとっては。」
先程の死者数は敵がまとまっていない場合の数を示す。敵にとってはそれだけで十分だったので少数を送り出すだけだったのだが、今回は集団戦。確実に相乗効果が付き被害は跳ね上がるだろう。
「そこで王家は神話級魔法の行使をすることにした。」
「遂にか。」
神話級魔法、それは人類だけが許された極大魔法であるが、今まで行使された事例は片手の数で足りてしまう。
理由として重すぎる対価にある。
人類の魂、50万人と引き換えに一発。
わかりやすく言うと人類の総人口の100分の一を消費する魔法である。
また、この術を発動させることができるのは直系の王家の血を引くものだけである、対価として術者の魂も支払われる。子供の数にも限りがあるのでなかなか使われることがない。
「神話級魔法2発。私も当然術者であるのでこの中に含まれるが他に志願者はいるか?無理にとは言わん。」
おそらく他の世界では死ぬとわかっていて手を挙げる人間などそうそういないだろう。
しかし、この世界では違う。
静寂が訪れるなんてこともなく王の問いかけに多くの貴族が間髪をいれずに手を上げた。
その大半がすでに後継者を残していて人生の半分を過ごしている人ではあるが、やはり比率がおかしい。これでは貴族の3分の2がいきなり死ぬことになってしまう。
半ば確信していたように王は頷いた。
「有り難い。そして最近発見されたのだがこの魔法は魂を基準としたものなのだ。」
魂?ということは……。
「まさか戦って死んでもその魂を利用して発動させることができるということですか!?」
「ああ。魂が現世に残る時間はおよそ2日間。つまり2日間の間だけ何も気にすることなく戦うことができるのだ。勿論、最後は自爆してもらうぞ。」
「おお」
「それはいいですな。」
以前の俺からすると頭が痛くなるような話だ。
末端が自爆特攻をするならともかく、自らするとわかっていて賛同する思考が理解できないと思っただろう。
しかし今はなんとも思わない。
段々と俺もこの世界に染まってきているのだろう
「そこでだ。この神話級魔法は奴らの本拠地を撃つことにした。攻撃をしてくる10万の塀でも100万人の自爆特攻を仕掛ければら上位種といえども全滅させることができるだろうからな。」
「承知しました。志願者を募集したり、編成を考えるのはこちらが受け持ちましょう。」
そう言ったのは最近【防衛特局】トップになった若き子爵である。
急な組み換えがあったので不審に思っていたが今回の魔法を発動させたあとも国家が機能できるように経験を積ませておこうとしたのだろう。
「よろしく頼む。それと、未来を担う若者諸君。君たちが次の世代をまとめるのだから、若者だけで話をしておくといい。」
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主人公のフィロは他作品とは全く関係がありません。