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嫌われ令嬢は視力が悪い

作者: むぎとろ

勢いで書いてしまいましたが、初めての悪役令嬢もの?です。

「アンネマリアージュ、僕はずっと君と婚約を破棄したかったんだ」


 そう告げるのは私の元婚約者、ユリウス様……だと思います。多分。


 私はアンネマリアージュ、ヴァイン伯爵家の一人娘です。

 そしてユリウス様はシザーズ公爵家の次男、我が伯爵家に婿養子に来る予定でした。

 しかし、ユリウス様から先日、婚約破棄をしたいという要望があり、公爵家と話し合った末に正式に婚約は解消されました。


 今日は私達が通う貴族学園のガーデンパーティーです。夜会とは違い昼間の催しではありますが、野外用のダンスフロアも設置されております。

 私は全学年が集うこの催しで、婚約解消以来初めてユリウス様にお会いしました。

 周囲は私達のやり取りを面白そうに見物しています。彼等にとっては良い見世物なのでしょう。


「婚約『解消』は既にお受けしましたわ。今更なんの御用でしようか?」

「相変わらず愛想が悪いな、そうやって何時も僕を睨みつけて、僕がどれだけ心を痛めたと思っているんだ」


 そう言われても困ります。自分では睨んでるつもりは全く無いのですから。それに、精神的苦痛ならば私も十二分に味わいました。


「それはお互い様ではありませんか?貴方が私に優しく接してくださった事が一度でもありまして?」

「お前のような醜悪な女に、優しく接する必要など微塵もない」


 ユリウス様は婚約当初からわたくしが気に入らないようで、初めてお会いした時から私にたいして素っ気ない態度でした。

 婚約後、ユリウス様に懸想する伯爵家のご令嬢、エルレイン様に目をつけられ、常日頃私のような不細工な女は美しいユリウス様に相応しくないと罵られ続けていましたから、私の顔がお嫌いなのかも知れません。

 対するユリウス様は成績優秀で剣術に長け、そして学園中のご令嬢を虜にする程に見目麗しい殿方……らしいです。

 とはいえ、確かに私は印象の薄い顔ではありますが、醜いと罵られるほどでも無いと自分では思うのですが……


「いくら私がお嫌いだからって、醜悪とまで言われる筋合いはないと思いますが?」

「僕の友人に嫌がらせをしておいて、よく言う」

「ユリウス様のご友人ですか?何方の事です?」


 そもそもろくなコミュニケーションも取れていないのに、ユリウス様のご友人が誰かなど、私には知る由もございません。


「とぼけるな、君は自分の友人を使ってマリアに嫌がらせをしていただろう!問い詰めたら君の友人が全て白状したぞ!」


 はて?私の友人とは?

 お恥ずかしい話ですが、エルレイン様に根も葉もない噂を流されたおかけで、私には友人と呼べる方が一人も居ません。


「あそこに居る3人だ、先程も君と話をしていただろう」


 ああ、あれは恐らくエルレイン様とそのお友達ですわね。あれは友人同士の会話ではなく、単に一方的に嫌味を言われていたのですが、どうしてそうなるのでしょう?

 しかも、私も散々彼女達から嫌がらせを受けているのです。わざと転ばされたり、水をかけられたり、貴重な魔導書を駄目にされかけた事もありました。魔導書に保護魔法をかけていなかったらどうなっていた事か。

 私に何かするのはまだしも、文化的な遺産にまで手に掛けようとは本当に許せない行為です。そんな方達と友人だなんて、とんでもない誤解です。

 恐らく、問い詰められてその罪を私になすりつけたのでしょう。もしくは分かっていてわざとそう振る舞ったのかも知れません。


「今日はマリアもここに居るはずだ、誠心誠意彼女に詫びれば赦してやらない事もない」


 ユリウス様の赦しを得たいとも思わないのですが、ここで認めないとユリウス様は引かないでしょうし、頭を下げるだけで事が収まるならそれでも良い気がしてきました。

 なんせ、周囲からの理不尽な仕打ちに耐えるのも今日が最後ですから。


「わかりました、まずはマリア様を私にご紹介いただけますか?」


 私はため息を吐きながらそう申し出たのでした。



ー・ー・ー・ー・ー・ー



 アンネマリアージュとの婚約が決まったのは、14歳の時、貴族学園へ入学する半年ほど前だった。

 僕は剣の腕に自信があり、婿養子になど入らなくとも騎士団に入団して身を立てるつもりだった。

 それだけでも気に入らないのに、顔合わせで引き合わされた相手は、ルビーを溶かして染め上げたような赤い巻き毛を靡かせ、華やかな衣装を身に纏った妖艶な少女だった。

 全くもって自分の好みではない。僕は清楚で落ち着いた雰囲気の女性が好みだ。


 しかも、初めて交わした会話では、伯爵家の領地に関する話題を早口で捲し立て、魔術の分野に特に興味があるらしく、僕にはわからない話をこれまた早口で語りだした。仕舞には一人で考え込むようにブツブツと独り言を呟く始末だ。

 そもそも領地にまつわる事など男の仕事だ。女性は男の一歩後ろに控え、家庭を守り陰から支えればいい。魔術に関しても、伯爵夫人には必要の無い知識だ。


 派手な見た目は社交に向いているかと思いきや、彼女の世間の評判は最悪だった。

 15歳のデビュタント早々、派手な装いで男を惑わし、遊び回っているそうだ。しかも、気に入らない相手に対しては冷たくあしらうなど、随分とお高くとまっている。

 そう言えば貴族学園でも彼女の姿を一度も目にした事が無かった。領地についてあれこれ語っていた割には勉学に対する意欲もないらしい。要するに知った風な口をきいていただけという事だ。

 一般的には美しい見た目をしているのだろうが、性根の醜さが顔に出ている。なんと醜い女性と婚約を交わしてしまったのか、僕はそう嘆かざるを得なかった。


 そんな時、僕は出会ってしまった。

 彼女は質素ではあるが上品なドレスに身を包み、赤毛を三つ編みに編み上げ、眼鏡を掛けた少女だった。

 同じ赤毛でも、僕の婚約者とは随分と雰囲気が違う。アンネマリアージュを薔薇に例えるなら、彼女はアネモネの花のようだった。

 裏庭でひっそりと、書物をめくる姿はなんとも知的で奥ゆかしかった。


「どんな本を読んでいるんだ?」

「……どちらさまです?」


 声をかけると、返ってきた言葉は素っ気ないものだった。僕の顔を見ても擦り寄ってこないどころか、僕の事を知らないようだ。

 僕にはそれが新鮮で、増々彼女に興味をそそられた。


「僕はユリウスだ」

「よくある名前ですわね、私の婚約者も同じ名前ですわ」


 ユリウスという名は我が国を誇る英雄として知られている王の名だ。その為、男子の名に好んで使われる。学園に通う令息の中にも、僕が知る限りでも10人以上の「ユリウス」がいるのだ。


「君の名前は?」

「……マリアです」

「姓はなんと?」

「言いたくありません」


 そう言うと、マリアの視線は本に向い、僕への興味は全く無い様だ。


「僕と同じ名前の婚約者がいるのか、なら僕の事はユーリと呼んでくれないか?」

「構いませんけど」


 婚約者がいる、そう聞いてチクリと胸が痛んだが、その時はまだその理由が分からなかった。


 それから度々、裏庭で彼女を見かけると話しかけていた。次第にマリアの警戒心も溶け、少しずつ話をするようになった。


 聞けば、望まぬ相手との婚約が決まり、相手の家格が高いために断れなかったのだそうだ。

 相手の男は女性を蔑み、身分を嵩に懸け、マリアを醜いと罵る最低の男のようだ。


「僕も望まぬ婚約を強いられているんだ」

「ユーリ様も?」

「僕の相手は見た目は美しいのだが品がなく、散財も激しく、男漁りに勤しむような女なんだ」

「あら、私達お揃いですね、ユーリ様に初めて親近感が湧きましたわ」


 「お揃い」と言う言葉にドキリとする。


「お互いに早く婚約が解消されると良いですわね」


 マリアは初めて僕に微笑みかけた。その笑顔は可憐で、僕の心臓を更に高鳴らせた。


 それから暫くして、マリアの頬に傷が付いていた事があった。まるで爪で引っ掻かれたかのような傷跡だった。

 傷を手当しようと、さっとハンカチを取り出すと、それには及ばないとに止められ、マリアは短い呪文を唱えた。すると、瞬く間に頬の傷が癒えていく。


「この程度の傷なら私でも治せますから」

「でも、君のきれいな顔に傷を付けるなんて」

「……ユーリ様は私の事を醜いと罵らないのですね」

「当たり前だ!」

「皆、私の事をやれ不細工だの醜悪だのとおっしゃいますのよ、望んでこの顔に生まれたわけでもありませんのに…」

「そんな事はない、君は清楚で美しい顔をしている」

「まあ、お世辞でも嬉しいですわ」


 それから、度々マリアが嫌がらせを受けた所に出くわした。

 ある時はマリアのお気に入りの本が真っ二つに割かれていた。またある時は頭上から水をかけられたらしく、全身びしょ濡れになっている事もあった。

 昼食を奪われ、腹を空かせていたところで僕の食事を分けてやった事もある。


 そんな時、漸くその犯人を取り押さえた。再びマリアに水を掛けようとしていた所だった。

 既で阻止し、マリアはこちらに気が付かずに行ってしまった。


「どうか、どうかお許しください!私はアンネマリアージュ様に命令されて仕方なく……」


 彼女を問い詰めると、アンネマリアージュに命令されたのだと言う、見れば気の弱そうな令嬢だった。

 震えながら涙を零す彼女は、とても人を陥れるような女性には見えなかった。

 僕は怒りに震え、もう我慢が出来なかった。今すぐにでも婚約破棄をしたいと父を説得し、先日、漸く婚約破棄に至ったのだ。


「マリア、今日は随分と機嫌がいいな」

「ええ!私の婚約が解消になったのです」

「奇遇だな!実は僕もなんだ」

「あら、おめでとうございます」


 僕達は笑顔で見つめ合い、喜びを分かち合った。


「それで、その……今度のガーデンパーティーで僕と踊ってはくれないか?」

「ごめんなさい」

「えっ!」

「私はダンスが全然踊れないんです」

「そ、そうなのか…」

「ユーリ様と踊りたい令嬢は沢山いますわ、私に気を使わず、素敵なお相手を見つけてください」


 君以上に素敵な相手など居るはずがないのに、マリアは笑顔でそう告げる。まだ、僕は男として見られていないのだろう。

 この時、僕は心に決めた。今度のガーデンパーティーでマリアに告白すると。



ー・ー・ー・ー・ー・ー



「それで…マリア様とはどちらに?」


 私は周囲を見渡すものの、当然マリア様がどんな方か存じません。

 ユリウス様は舌打ちをすると、キョロキョロと辺りを見渡しましたが、当のマリア様は見当たらないようでした。


「マリア!出てきてくれ!君に嫌がらせをした者には私が責任を持って罰を与える!それに…僕は君に伝えたい事があるんだ!」


 だから、貴方に罰せられる覚えはありませんと言っておりますのに。


「マリア様はどのような方なのですか?」

「何を今更、赤毛を三つ編みにして、眼鏡をかけた淑やかな令嬢だ、君と違って清楚で知的な女性なんだ」


 はいはいそうですか、赤毛で三つ編みの女性ね……今の私にはその姿を捉える事は難しいですわね。

 私は懐から眼鏡を取り出すと、それを掛けて辺りを見渡しました。

 そう、私はとても視力が悪いのです。なので、このように着飾っている時は眼鏡を外すように言われていますので、目を凝らしてしまうせいか目つきが悪くなってしまうそうです。

 ユリウス様とお会いする時はそれなりに身なりを整えるので、眼鏡をかけておりません。なので、美しいと評判のユリウス様の顔もまともに見た事が無いのです。


「……ま、マリア!」

「あら?見つかりましたの?」


 そう尋ねながらユリウス様の方を向くと、私の眼の前には困惑した表情の殿方がいらっしゃいました。

 私はその方に見覚えがあって、さっと社交的な笑顔に切り替えました。


「あら?貴方は確か、裏庭で時々お会いするユーリ様ですわね、ごきげんよう」


 昼食や空き時間に裏庭で読書をしておりますと、この方が時々いらして、取り留めもなくお話をする事がありました。

 正直、読書に集中したい私にとってはとんだお邪魔虫だったのですが、その振る舞いから高位貴族の方だろうと思い、揉め事にならぬよう当たり障りない対応をしていたのです。

 ですが、ユーリ様も望まぬ婚約をしていると聞いて、いつの間にか親近感が湧き、意気投合してしまいました。


 にっこりと笑ってご挨拶するものの、彼は困惑しながら私をじっと見つめています。どうかしたのでしょうか?


「マリア……アンネマリアージュがマリアなのか?」

「え?ああ、私の家名をお知りになりましたのね」


 わたしはエルレイン様に悪い噂を流されている為、金遣いが荒く、男好きの性悪女のレッテルを貼られています。

 更には社交場でダンスに誘われるたびにお断りをしていたら、お高く止まってるだの、色男にしか興味が無いだの更に罵られるようになりました。

 私は元々、家を継ぐ予定ではありませんでしたので、一般的な淑女教育を受けておらず、本当にダンスが踊れないだけなんですが、周りはそうは思ってくれないようでした。

 そもそも、デビューしたての世間知らずの15の小娘が、弄ばれて捨てられるならまだしも、男を手玉に取って遊び呆けるなど無理がありますのに。

 まあそんな訳で、私が悪名高いアンネマリアージュだと知られたら面倒だと思い、普段の地味な私がアンネマリアージュだと気付かない相手には、愛称の「マリア」と名乗っていたのでした。


「そんな、マリアはアンネマリアージュとは違って何時も清楚な装いではなかったか?」

「普段着は着飾る必要はございませんでしたから、楽な格好をしていたまでです」


 私は普段、勉強の邪魔にならないよう髪を三つ編みでまとめ、視力が乏しいので眼鏡をかけて学園には通っております。もちろん化粧もしておりません。それを清楚と呼べるのかどうかは謎ですが。

 でも社交場に出る時は華やかな姿をしますし、化粧をすると派手な顔になるらしく、更に目付きが悪いのも相まって、派手で傲慢な男好きと噂が流れても、誰もが納得してしまう容姿……のようです。

 なんせ自分ではどんな姿をしているのか分からないですし、お洒落にも興味が無いので、公の場での装いは侍女達に任せっぱなしになっていました。

 もう少し地味な装いにしてくれと何度も懇願したのですが、普段が地味なのだから社交の場では華やかに装うよう言いくるめられ、彼女達の好きにさせています。


「ところで、ここにユリウス様がいらっしゃいませんでした?先程までここにいらしたのですが…」

「それは、僕の事か?」

「あ、いえ、ユーリ様の事ではなく、私の元婚約者のユリウス・シザーズ様です」


 周囲を見渡すものの、そもそも私はユリウス様のお顔が分からないのでした。まあ、もうどうでも良いのですが、話の途中で放って置くわけにもいきませんでしょう?


「私、ユリウス様がどんなお顔をしているかも分からなくて、一緒に探して頂けます?」

「君は自分の婚約者の顔が分からないのか?」

「そうなんです、眼鏡をかけていないと人の顔の判別がつかないのですわ」


 私が苦笑いを浮かべると、ユーリ様は真剣な面持ちで私を見つめました。


「マリア、聴いてくれ…僕はシザーズ公爵家の次男、ユリウスだ」

「えっ?」


 これには流石に驚きを隠せませんでした。ユーリ様がユリウス様だったなんて。何時ものユリウス様とは余りにも態度が違うのですもの、まるで別人です。


「君の婚約者のユリウスだ!僕が探していたマリアがアンネマリアージュだったなんて」

「え?ユリウス様も視力が悪いのですか?」

「違う!」


 私が嫌っていた元婚約者だったと知って、さぞがっかりされたでしょうね。


「あああっ、僕はなんと言う遠回りを……」


 ユリウス様は額に手を宛て、ため息をつくと、真剣な眼差しで再び私の顔を見つめました。


「アンネマリアージュ、僕は清楚で知的な君を好ましいと思っている、結婚してくれ」

「無理ですわ」


 私は思わず即答してしまいました。

 私達婚約解消しましたよね?一体なんの冗談でしょう?今更そんな事を言われても困ります。


「な、何故だ!婚約解消を取り消して、もう一度婚約してくれ!」

「我が伯爵家は従兄弟が継ぐ事に決まりました、今更ユリウス様が婿入りするのは無理があります」


 元々、ユリウス様の婿入りの話が無ければ、従兄弟が養子に入って継ぐ事になっていたのです。

 それが、公爵閣下の希望でユリウス様が婿入りする事になり、格上の相手にお断りする事も出来ずに婚約を結ぶ事になったのです。再び養子縁組を撤回するわけにはいきません。


「婿入りはしなくていい、僕は元々騎士として身を立てるつもりだった。僕はマリアと結婚したいんだ」

「無理ですわ」

「な、何故だ!」

「私、今月までで学園を退学して魔塔の研究員になる事が決まっていますの、魔術の研究に励みたいので、結婚は考えておりませんわ」

「ま、魔塔だと?」


 私は生まれながらに魔力が高く、魔塔に務める母方の叔父について魔術の勉強をしておりました。そこで才能を認められ、家督は従兄に譲って、ゆくゆくは魔塔の研究員になる予定でしたのに、ユリウス様との婚約が決まったせいで、通いたくもない学園に通い、花嫁修業をする羽目になったのです。


「中庭での僕達はお互いを分かり合えていたじゃないか、僕達はもう一度やり直せるはずだ!」

「無理ですわ」

「な、何故だ!」

「私達は根本的な考え方が違うからですわ」


 ユリウス様は納得できない言う顔で迫ってくるので、それを手で制しながら一歩後ろに下り、咳払いを一つ致しました。


「ユリウス様が女性を見下していると言うのは誤解だったと言うのは分かりました」

「そうだ、女性は守られるべきだ!魔塔に入れば魔物の討伐に駆り出される事もある、そんな危険なことに君を関わらせたくない」

「それですわ!」

「それとは?」

「私はむしろ、魔物退治に参加したくてワクワクしておりますのに」

「君は魔物がどんなに危険な存在か分かっていないんだ!」

「お言葉ですが、私はユリウス様と戦っても勝てる自信がございます。宜しければ今から殺ってみます?」

「『やってみる』に本気の殺意を感じたのは気のせいだろうか?」

「それに、私達の会話の殆どが婚約者の愚痴でしたのよ?まさかそれが自分の事だとは思いませんでしたが」


 お互いに本人に向かって悪口を言っていたのかと思うと、可笑しくなって思わずクスクスと声をたてて笑ってしまいました。


「でも、その婚約者がいなくなった今、私達にどんな会話が成立すると?アンネマリアージュとして話しかけた時にはなんの興味も示さなかったではありませんか」

「それは反省している……」

「それに、私は伯爵家の跡を継がなくても、領地を盛り立てるために従兄弟のお兄様に惜しみなく力を貸す所存です。それは後々、諍いの原因になりますわ」

「そんな事は……」

「とはいえ、自分本位になってしまい、ユリウス様のお気持ちに寄り添えなかったは私の不徳の致すところ、それに関しては重く受け止め、謝罪させて頂きますわ、申し訳ございませんでした」

「い、いや、それはお互い様だ、僕も悪かった」


 ユリウス様の本当に申し訳無さそうにする姿に、根は悪い人では無いのだなと思えました。

 最後にお互いに謝罪し、誤解を解く事ができて良かったです。


「要するに、私達はたまたま相性が最悪だったのですわね」

「え、いや……」

「ではユリウス様、今までお世話になりました。ご機嫌よう」

「えっ、待って……」


 私は拙いカーテシーをしながらお別れの挨拶を告げると、色とりどりのお菓子を堪能しようとブュッフェへと足を向けるのでした。


 その後、私は学園を去り、煩わしい学友や婚約者、社交などからも解放され、魔塔で伸び伸びと研究に励むことが出来るようになったのです。

 後にはそこで出会った優秀な魔道士と結婚し、二人で開発した魔導具や新しい魔術の研究を認められ、ささやかながら歴史に名を残す魔道士夫婦となりました。

 その後、ユリウス様がどうなったかは全く存じ上げません、興味が無い事に頭を使う気はさらさらありませんでしたから。


長編の執筆に行き詰まったので、気分転換に書いてみました。いまいち捻りが足りなくて、割りと有りがちな話になってしまいました。

ちなみに私もメガネっ子です。顔の判別は距離によります。


思いの外ブクマと評価を頂けていて驚きました。

読んで頂きありがとうございます。

感想、誤字報告もありがとうございました。

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[一言] すっぴんと化粧で顔が変わる女性って結構多いよなー。派手美人に特に多いような。 男の場合は、太るとマジで顔変わる。久しぶりに会う友人の隣を通り過ぎて待ち合わせ場所で会えないんだけどーって連絡す…
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