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02

「静流様、おはようございます」


「ああ、おはよう。雪はいつも早起きだな」


「え、と、集落でも早起きが習慣、でしたので……」


「そうだったのか」


静流様に保護されて一か月、碧もだいぶ回復し、走り回れるようになった。私が身を置かせてもらっているこの場所は、静流様曰く、狭間なのだという。人間の住まう世界と地獄、そのどちらにも当てはまらない場所。


『ナァッ』


「あ、こらっ、碧!」


「お、っと……。はは、元気だな、碧は」


「す、すみません……」


「謝ることはない。私は、碧がこれだけ元気になって、嬉しい」


碧はお屋敷の中を走り回っており、二階から降りてきた静流様に飛びついた。それを難なく受け止めた静流様は、碧を優しく抱っこしていて。碧がこんなにも元気になってよかったと、心の底から思うのと同時に、静流様が怪我をされていないかが気になる。


「そういえば、言うのを忘れるところだった。雪、今日は一緒に出掛けよう。碧、留守番を頼めるか?」


『ナァーオ』


「ああ、ありがとう。もちろん、約束は守る」


碧と会話ができるらしい静流様は、私にはわからないけれど、話をしたようで、碧はお留守番となった。


「あの、なぜ今日はお外へ?」


「全くもってふがいないことに、雪、君に必要なものを用意していなかったことを碧に怒られてね。すまなかった、今日すべてそろえよう」


「あの不足しているものは、ありませんが……」


「それに、きちんと知っておいてほしいんだ。君がいた集落はかなり閉鎖的で古い慣習の残る集落。今はそんな集落はほとんど、というか、全くない。君に、集落以外の世界を知ってほしいから」


「わかりました、よろしくお願いいたします」


そうして静流様と初めて、お出かけをしたのだが、私の知らない世界が広がっていたのは言うまでもない。


「静流様、ここは、一体……?」


「ここは、人間の住まう場所。あやかしなどの人ならざるものたちは、ここにはほとんどいない。だからだろうか、独自の発展を遂げた場所でもある」


「独自の、発展……」


初めて見た人間の住まう世界は、高い建物が立ち並び、地面は土ではない。地面や建物はコンクリート、と呼ばれているものでできているらしい。私が知っている場所は自然の溢れた場所だったから、もう訳が分からない。


「この地は私たちの住まう国の首都でね、おそらく雪がいた集落はここから言うとだいぶ田舎と呼ばれる土地だったはずだよ。私は雪が住んでいた地域がわからないから、一概には言えないけど」


「わ、たし、は……」


「ああ、いや、無理に言う必要はないよ。雪が話したいと思った時に、私に教えてくれればいい」


「す、すみません……」


「さあ、気を取り直して行こう」


「はい」


私はまだ静流様には自分が獄卒と人間の間に生まれたということも、獄卒の集落で育ったことも言っていない。獄卒の集落では、私のような獄卒の血を持ちながら力がない者は、半端者と呼び、蔑まれる。静流様からは強い力を感じるから、もしかしたら私のことなどお見通しなのかもしれない。


でも、私が話すのを待っていてくれる。優しいお方だと思う。


「雪、行ってきなさい」


「え?」


「好きな着物を選びなさい」


「あ、あの」


「いいから、さあ」


「は、はい……」


人間の住まう世界、現世に来て私は着物とは違う服を、行きかう人たちが着ているのがずっと気になっていた。静流様にこっそりと聞けば、着物ではなく洋服というのだそうで。静流様には、私が戸惑っているのがわかったのだろう。


私に馴染み深い、呉服店にわざわざ連れてきてくれた。高級な雰囲気が漂っていて、尻込みしていると静流様にそっと背を押されて中に入れられる。



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