ナンパの達人
世間ではナンパをする男を嫌う傾向がある。
しかし、何でもそうだが、その分野を極めている人には
見習うべき点が多々あるし、そういう人は見ていて気持ちがいい。
あるところに、ナンパの達人がいたそうだ。
彼は、生まれながらの程よいルックス、人を楽しませる話術、
それに加えて戦略的な頭脳を持ち合わせていた。
出没するのはいつも夏。
なぜなら、ほっといても開放的になる暑さとエメラルドグリーンの海という
シチュエーションがナンパ成功の必須条件になっていたからだという。
その彼がいつも口にしていたのが、
「ビジネスでビッグになろうと思っている人間が、女の子のひとりやふたり、振り向かせることができないでどうする。
ナンパとビジネスは通じるものがある。だから俺はナンパをするのだ。」
と、わかるような、わからないような理屈をこね、
「最後は女の子をどれだけ笑わせたかで勝負は決まる」
という関西人独特のポリシーを持っていた。
そしていつも何かしらの小道具を持って、ナンパにのぞんだそうだ。
ある暑い夏の日のことだった。
その日も彼はいつものように薬局と文房具屋で買い物を済ませ、ナンパに向かった。
今日のターゲットはなかなか手強そうなお嬢様タイプ。さぁ、腕の見せ所だ。
「一緒にお茶でも飲まない?」
「いや」
「そんな硬いこと言わずに」
「私、あなたみたいな軽そうな人、嫌いなの」
まぁ、確かに軽い部分があることは事実。返す言葉がない。
しかし、こんなところで簡単に引き下がっていては達人の名がすたる。
「お茶だけでいいから」
「いや、遊び人と遊んでいるヒマはないの」
「絶対、楽しいから。保証するよ。」
「ダメ。あなたと付き合っても、あとで後悔するだけだから」
「そんなことないよ。絶対、青春の1ページとして思い出に残るから。」
「それは、消したくても消えないツラい思い出になるってことでしょ。
そういうのは『思い出』じゃなくて『傷痕』というのよ。」
「消したくないような思い出にするから。それでもダメ?」
「そんなの、結果がどうなるかわからないじゃないの」
「じゃ、こうしようよ。もし、僕らの思い出を消したくなったらコレをあげる。
万が一、傷痕になったらコレをあげる・・・。」
そして、さっき買ったばかりのカットバンと修正液、それに砂消しゴムを手渡した。
彼女は思わず微笑んだ。
月日が流れた。
数々の武勇伝を残した彼も人並みに就職し、今では立派な課長に昇進したらしい。
漏れ聞くところによると、就職活動ではナンパ必勝テクニックを披露し、一発内定。
営業マンとなってからは、受付嬢から担当者まで全て口説き落とし、破竹の勢いでトップセールスを続けたらしい。
今では、もっぱら後進の指導に当たっているというが、時々銀座や六本木で見かけるという噂も聞く。
やっぱり、一芸に秀でるってスゴイ。
どうせ、ナンパされるなら、こんな人にナンパされたいと思いませんか?
あなたの近くにも探せばきっといるはず。
「ひょっとして、あの人も?」と心あたりがある人は、
そーっとその人の机の引き出しを開けてみてください。
カットバン、修正液、そして砂消しゴムの3点セットが出てくるはず・・・。




