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ナンパの達人

作者: 裕介
掲載日:2021/01/30

世間ではナンパをする男を嫌う傾向がある。

しかし、何でもそうだが、その分野を極めている人には

見習うべき点が多々あるし、そういう人は見ていて気持ちがいい。


あるところに、ナンパの達人がいたそうだ。

彼は、生まれながらの程よいルックス、人を楽しませる話術、

それに加えて戦略的な頭脳を持ち合わせていた。

 

出没するのはいつも夏。

なぜなら、ほっといても開放的になる暑さとエメラルドグリーンの海という

シチュエーションがナンパ成功の必須条件になっていたからだという。


その彼がいつも口にしていたのが、

 「ビジネスでビッグになろうと思っている人間が、女の子のひとりやふたり、振り向かせることができないでどうする。

ナンパとビジネスは通じるものがある。だから俺はナンパをするのだ。」

と、わかるような、わからないような理屈をこね、

「最後は女の子をどれだけ笑わせたかで勝負は決まる」

という関西人独特のポリシーを持っていた。

そしていつも何かしらの小道具を持って、ナンパにのぞんだそうだ。


ある暑い夏の日のことだった。

その日も彼はいつものように薬局と文房具屋で買い物を済ませ、ナンパに向かった。

今日のターゲットはなかなか手強そうなお嬢様タイプ。さぁ、腕の見せ所だ。


「一緒にお茶でも飲まない?」

「いや」

「そんな硬いこと言わずに」

「私、あなたみたいな軽そうな人、嫌いなの」


まぁ、確かに軽い部分があることは事実。返す言葉がない。

しかし、こんなところで簡単に引き下がっていては達人の名がすたる。


「お茶だけでいいから」

「いや、遊び人と遊んでいるヒマはないの」

「絶対、楽しいから。保証するよ。」

「ダメ。あなたと付き合っても、あとで後悔するだけだから」

「そんなことないよ。絶対、青春の1ページとして思い出に残るから。」

「それは、消したくても消えないツラい思い出になるってことでしょ。

そういうのは『思い出』じゃなくて『傷痕』というのよ。」

「消したくないような思い出にするから。それでもダメ?」

「そんなの、結果がどうなるかわからないじゃないの」

「じゃ、こうしようよ。もし、僕らの思い出を消したくなったらコレをあげる。

万が一、傷痕になったらコレをあげる・・・。」


そして、さっき買ったばかりのカットバンと修正液、それに砂消しゴムを手渡した。

彼女は思わず微笑んだ。


月日が流れた。

数々の武勇伝を残した彼も人並みに就職し、今では立派な課長に昇進したらしい。

漏れ聞くところによると、就職活動ではナンパ必勝テクニックを披露し、一発内定。

営業マンとなってからは、受付嬢から担当者まで全て口説き落とし、破竹の勢いでトップセールスを続けたらしい。

今では、もっぱら後進の指導に当たっているというが、時々銀座や六本木で見かけるという噂も聞く。


やっぱり、一芸に秀でるってスゴイ。

どうせ、ナンパされるなら、こんな人にナンパされたいと思いませんか?

あなたの近くにも探せばきっといるはず。

「ひょっとして、あの人も?」と心あたりがある人は、

そーっとその人の机の引き出しを開けてみてください。

カットバン、修正液、そして砂消しゴムの3点セットが出てくるはず・・・。




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