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力がすべて


 腰に剣を携えた男が複雑な模様の刻まれた大きな扉をノックした。


「フレークです。シルバー団の者を連れて参りました」

「……ああ」


 短い返答だが、相手の深層心理に恐怖を与えるような、そんな声だった。


 フレークは、失礼します、と言いながら、大きく重そうな扉をゆっくりと開く。

 リャオ達に入るよう促し、入ったのを見届けると、恭しく頭を下げ、部屋の外へと出て行った。


 扉がバタンと音を立てて閉じた。


 部屋の中は昼だと言うのに薄暗かった。


 広い部屋の中央に来客用のテーブルとソファーが置いてあり、壁には高貴な雰囲気の漂う肖像画と色んな種類の大鎌がかけられている。

 部屋の奥の壁にはこの部屋唯一の窓があり、その窓の前にある机に誰かがいた。


 逆光で表情は全く見えない。


 しかし、大柄のはずのヴァイスですら小さく見えるほどの巨体から醸し出されるオーラは、盗族団のボスであることをはっきり示していた。


 リャオは、躊躇うことなくソファーに座り、長棒を横に置くと、寛ぐように足を組んだ。

 ヴァイスはビビりながら、おずおずと部屋を進み、リャオの座るソファーの少し後ろで立ち止まった。


 リャオも盗族団のボスも話さない。


 あまりにも張り詰めた空気で、ヴァイスは居心地が悪そうに何を見るでもなくキョロキョロとしていた。


「ーー例の女は、捕らえて男爵に引き渡した」


 ピリリとした空気を破り、言葉を発したのはリャオだった。


「報酬はヴァイスが背負ってる。依頼を受けた時にも話したが、分け前はこっちが7、そっちが3だ。……ヴァイス」


 急に名を呼ばれたヴァイスは、慌てたように頷くと、ゆっくりと担いでいたモナを下ろし、背負っていた荷物からパンパンに詰まった大きな袋を取り出した。


「ーーその女は、なんだ……?」


 鋭い視線を向けながら話を聞いていた盗賊団のボスのプラウィが、リャオから床に横たわるモナに視線を移し言った。


「ここに来る途中で会った。“能力持ち(スペシャル)”かもしれないが、種族は不明だ。お気に召すなら売るが……、どうする?」

能力持ち(スペシャル)……?」


 プラウィは怪しむようにモナを見ていた。


 ヴァイスは取り出した袋の扱いに困り、カバンに戻そうかと悩むも思いとどまり、そのまま地面に置いた。

 そして、不安そうにリャオとプラウィの顔を交互に見るのだった。


「まあ、あんたには必要ないだろうけどな。金を渡すついでがあったからいるか聞いただけだ……。売るあてはいくらでもある」


 そう言うと、リャオはヴァイスに金の一部をプラウィに渡すように指示した。

 ヴァイスはいそいそと小分けの金袋をボスの机の上に置きに行く。


 金を机に置くときに、チラとプラウィの方を見る。

 しかし、プラウィがリャオから目を逸らすことはなかった。


(こ、これが大鎌のプラウィかぁ……。近くで見ると怖すぎるよ……)


 ヴァイスは、プラウィと壁の大鎌たちを交互に見ながら後退(あとずさ)っていった。


「俺はなーー」


 立ち去ろうと、ヴァイスが荷物を背負ったとき、プラウィが口を開いた。

 椅子から立ち上がり、壁際の鎌へと歩いていく。


「俺の血に誇りをもっている。そこらへんのちんけな能力持ち(スペシャル)とは格が違う。ーー過去に囚われる同族ともな……」


 プラウィは鎌を撫でながら言った。


 リャオとプラウィは鎌の刃の反射を介して睨み合う。


「ーー何が言いたい……」


 静かにリャオが言った。


 プラウィは何も言わずに、壁から鎌を取り外し、感触を確かめるように何度も握り直していた。


 ヴァイスはまるで空気と一体化したかのように気配を殺し、そっとモナを担いだ。


 少しでも物音を立てれば、すぐさま戦闘が始まりそうな空気だった。

 ヴァイスは縋るようにリャオに視線を送るが、リャオはプラウィから目を離さない。


 ーー困ったら動くな。


 過去に言われたリャオの言葉をヴァイスは頭の中で反芻しながら、ただ立ち尽くすことしかできないのであった。


「ああ、これを握ると、俺の血が滾っていけない……」


 プラウィが大鎌を強く握り持つ。


「くくく……、くははははは!!!」


 プラウィが高揚し大声で笑い出す。


 鎌を握っただけで大笑いできるなんて、なんとめでたいやつなんだと言わんばかりにリャオは冷ややかにその様子を見ていた。


「この世界は力が全てだ!! そうだろう!!?」


 プラウィが高らかに言った。


「俺は、この血だけで、この力だけでここまできた! 俺をバカにした奴らを、俺の欲しいモノを持った奴を、この鎌で貫き、手にしてきた! ーー俺は今、その金が欲しい……」


 プラウィが大鎌でヴァイスを指す。

 ヴァイスはヒッと小さく声を漏らした。


「ーー俺が『はいどーぞ』と、差し出すと思ってるのか……?」


 リャオが嘲笑うように言った。


 ピキと音が聞こえそうなほどくっきりとプラウィの額に青筋が立った。


 プラウィが大鎌を威嚇するように一振りした。

 ブオンを大きな音を立てて空が裂かれる。


 リャオは傍らに置いた長棒に手をかける。


「うわ!」


 ヴァイスが叫んだ。


 リャオとプラウィの視線がヴァイスへと向けられた。

 そこには、縄に絡まりながら尻もちをついたヴァイスがいた。

 そして、その奥にはヴァイスの肩から飛び上がり、綺麗に着地し決めポーズをとったモナ。


「ありゃ、タイミング、間違えたかも……??」


 刺すような2人の視線を感じ取り、少したじろいだ。

 しかし、すぐさま気を取り直し、不敵に笑うと軽やかに扉まで行き、取手に手をかけた。

 そして、リャオの方を向くと、ペロと舌を出しあっという間に姿を消したのだった。


 リャオとプラウィは目の前で逃げゆくモナを睨むだけで、すぐに捕らえようとしなかった。

 目の前で起きたことに現実味がなく、咄嗟に体が動かなかったのである。


 ーー物音が、全くしなかった……?


 リャオは自分の目と耳を疑った。

 だが、ヴァイスは尻もちをつき、女の姿はないというのは紛れもない事実なのだ。


「ーーやられたっ……!」


 時間差で状況を理解したリャオは、慌ててモナを追おうとする。

 しかし、その眼前に鎌が振り下ろされ、ソファーを切り裂いた。


「逃げととっていいんだな?」


 プラウィが言った。


 リャオはプラウィの方へゆっくりと向き直り、明らかな嫌悪を顔に表す。


「逃げる……? 簡単に倒せる相手から、俺が()()()と思うか? ()()を取り戻すために、見逃してやろうと思ってたが……、気が変わった」


 リャオはそう言うと、長棒を構えた。


 プラウィはニッと笑うと、ソファーから鎌を引き抜く。


「そうこなくっちゃなあ! くははは! 血が滾る!!」

「俺たちを舐めるなよ……、配下貴族の犬が」


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