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未知との遭遇


 木々が鬱蒼と生い茂る森の中。

 赤い髪を2つにくくった女ーーモナが倒れていた。


 意識のないモナのカバンがポッコリと不自然に膨らんでいる。

 膨らみはガサゴソと揺れ動き、何か話しながら、上から下へと移動する。

 微かに漏れ出る声は「シケてやがるチュー」などと言っているようである。


 「変なものばかりだなぁ」なんて言いながら、膨らみは下から右端へと移っていく。


 柔らかな風がそよぎ、赤毛を揺らす。うーん、と唸りながらモナが微かに動いた。


「……んにゃ……、気を、失ってた……?」


 モナは額に手を当て、ゆっくり起き上がり、辺りを見回した。


 見渡す限りの木々。

 鳥のさえずる声。

 青々と茂る葉の隙間から太陽の光が零れ落ちている。

 葉々の間から見える空には薄い雲と青い空。

 どこにもドアの破片はなく、もちろん、散乱した本もなければ、剣も縄もない。


「ここ、どこだろ?」


 腕を組み、不思議そうに首をかしげる。


 耐えきれなくなったのか、しばらく静かだった膨らみがモゾリと動いた。


「ムムム??」


 カバンの異変に気付き、中に手を突っ込んだ。


「んにゃあ! すばしっこいっ!」


 カバンの中を動き回る物体と、それを追い回すモナの右手。


 数十秒の格闘の末、モナは物体の端を捕らえ、暴れるそれをカバンから引きずり出した。


「……んぅうん?」


 摘み上げたものを見て、モナは首を90度かしげる。


「ねずみ……の、小人??」


 両方の掌ほどの大きさで、太陽の光を浴びて輝く金髪からは、ねずみの耳がのぞいている。モナが(つま)んでいるのは、小人のお尻から生えたねずみのしっぽだった。しかし、耳としっぽがねずみである以外は、ただ小さいヒト、という容姿をしていた。


 モナにしっぽを摘まれた小人は、賢明に体をバタつかせ逃れようとするが、努力虚しく空を切る手足。


 じーっと小人を観察するモナ。体をよじって逃げようとする小人。じーーっと見るモナ。手足振り回すーーーー。


「長いっ!! どんだけ見れば気が済むんだチュー!」


 プンスコ怒りながら小人が言った。


「んにゃ!? しゃべれるの!」


 モナは驚いたようにそう言った。

 ごめんごめん、なんて言いながら小人を地面に降ろそうとする。


 風が木々を揺らし、葉がカサカサと鳴っている。遠くで聞こえていた鳥の声は、いつの間にか消え去っていた。


 モナは何かに気づき、小人を降ろそうとしていた手を止める。降り立つすんでのところで止められた小人がムキーッと怒りモナを睨んだ。


 「しーっ」と言いながらモナが小人の口を塞ぐ。目を瞑り、耳をすます。葉と葉が擦れる音に混ざって、複数の足音が微かに聞こえる。


 静かに立ち上がると、あたりを警戒しながらカバンに手をかけた。


 ムゴムゴフガフガ言いながら抵抗する小人。


「小人さん、静かにね……。何があっても、絶対にカバンから出ないで。アタシが、いいって言うまで……」


 全く状況を理解できていない小人を無視して、カバンに小人をそっとしまいボタンを閉じた。


 ゴオオという音と共に風が吹き抜け、葉や草が舞い上がる。雲が太陽を覆い、あたりが暗くなる。


 モナの背後の茂みが揺れる。腰を落とし、振り返り、茂みから現れた男らを素早く観察する。


 男は3人。

 短刀を持った小柄な男。

 細く長い棒を構えた細長い男。

 大きな荷物を背負った巨体の男。


 3人とも同じ模様の入った服を着て、ローブのフードを深く被っている。


 モナは3人の様子を見て少し考え込む。


 モナは17年生きてきた中でローブを着ている人なんてもちろん見たことがなかった。せいぜい漫画やファンタジー映画の中くらいである。といっても、今時コスプレをする人はたくさんいるわけで、あの短刀もコスプレ道具のおもちゃの可能性だってある。

 そう考えれば、目の前の警戒心Maxで殺気漂う3人を森で撮影するマイナーアニメのコスプレイヤーと捉えられなくもない。


 しかし、だ。今カバンの中には手のひらサイズの小人がいるのである。黒い渦に巻き込まれて東京から北海道に飛ばされちゃいました! なんてことでは説明できない。北海道まで行ったって、せいぜい大きめのマリモと対面できる程度だろう。


 そして、モナは海外に行ったことがない。というか、東京から出たこともない。さらに、少し訳ありで、義務教育すらまともに受けてこなかったのである。

 そんな彼女が導きだす答えはーー。


(ここはきっと外国のどこかなんだ!)


 なんて思考を巡らせている間にもじわじわと詰めてくる男ら。

 モナもジリジリと後ろに下がり、距離を保つ。


 落ちた枝を踏み割り、パキッと音が鳴った。

 それを合図とするかのように双方が素早く動き出す。


 小柄な男と巨体な男が左右に分かれてモナを取り囲む。細長い男はモナの頭めがけて棒を振り下ろした。

 モナは小柄の男を一瞥(いちべつ)し、棒をよけて細長い男の背後に回り込む。膝めがけて蹴りを入れると、体勢を崩した男の横をすり抜け、小柄な男へと向き直った。


「こいつ、ちょこまかと! ヴァイス! 取り押さえろ!」


 膝をついた細長い男は巨体な男に向かって言った。

 ヴァイスと呼ばれた男はモナの速さについていけていないらしく、あたふたしていた。


「チッ、あいつには無理か……」


 モナは小柄な男が振り回す短剣をよけ、地面に落ちている太めの木の枝を拾いあげる。


「これ、あげるね」


 いつの間にか小柄な男が握っているのは木の枝に変わっていた。

 唖然とする男に微笑みかけるモナ。


 ゴスッと鈍い音が響くと、モナが前のめりに倒れた。

 背後には息を荒げたヴァイスがいた。

 どうやら、首元を強打しモナを気絶させたらしい。


「何をしてる、早く押さえつけて縄でくくっとけ」


 細長い男が偉そうに言いつける。どうやら3人組のリーダーらしかった。


 ヴァイスはよっこらと背負った荷物を降ろすと、中から縄を取り出し、慣れた手つきでモナの手首と胴を縛った。

 少しきつく縛りすぎたかな、なんて呟きながら結び目を緩めたりしている。


 その様子を見て細長い男はため息交じりにヴァイスに声をかける。


「それで十分だ。行くぞ、ヴァイス」

「あ、ご、ごめん、リャオ。すぐ行くよ」


 軽々とモナを持ち上げると、ノソノソと細長い男ーーリャオの元へ向かう。


 ヴァイスが縛っている間中ずっと手に持った木の枝と不審な赤髪の女の顔を交互に見て呆然と立ちすくんでいた小柄な男が、我に返ったように口を開いた。


「オ、オレの短剣が、消えちまった! リャオさん、どうしよう!」

「武器はなくても大丈夫だろ。基地までもうすぐだ。時間が迫ってる……。早足で向かってギリだな……」


 リャオは雲の向こうで微かに光る太陽の方角を確認しながら言った。

 小柄な男は、お気に入りだったのになあ、と言うと少し悩むように木の枝を見つめ、腰にさした短剣用の鞘に木の棒を入れると、駆け足でリャオを追いかけた。


 相変わらず風が強く吹き続けている。

 微かに光を漏らしていた太陽も今はどこに浮いているのか全く確認できないほどに雲に覆われてしまっていた。


 モナのカバンが少し揺れた。しかし、時間に追われ急ぎ足で進む3人は不自然に動いたカバンに気づくことはなかった。


 小人は、このままこの中にいていいのだろうか、と不安に駆られるも最早時すでに遅しと覚悟を決め、石のように身を固めて息をひそめるのだった。


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