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死刑1-15 親友とその友人たち

グレーテに連れられて酒場の前へ来ました。


「ここは昼間はパブで、深夜はバーになるんですよ。雰囲気がごっちゃになっちゃうんで、静かにやりたい人はあんまり利用しません」

 小路に面した石造りの店舗は、看板を見逃してしまうと民家と区別がつきません。おそらくこのパブも二階は店の持ち主の住まいでしょう。

 ソソンの城下町には無数にパブがあります。

 それぞれのお店は小さく、ふた家族くらいしかお客さんを受け入れられないそうです。そしてお互いが家族のように気さくに関わるといいます。


「酒場はいっぱいあるけど、どうしてここに?」

「前にお話ししませんでしたっけ? 私たち給仕室の者には、いきつけのお店がひとつやふたつあるんです。だいたいは知り合いだとか自分の実家だったりします。ここは幼馴染みの実家で、今日は“ボルシチの秘密兵器”が切れたのでそれを頼みに来たんです」

「秘密兵器?」

「そう、隠し味に入れてるワインです。ここじゃなきゃ同じものが手に入らなくって。そのワインも実はお友達のうちの果樹園で作ってるんですよ!」

 グレーテは胸を張って笑顔です。

「じゃあ、あなたの自慢のお店がどんななのか、さっそく見に行きましょう」

 わたくしは扉へと近付きます。

「駄目ですよ。私たちは今、お城のおつかいなんですから、裏から入らなくっちゃ!」

 グレーテに手を引かれて酒場の裏手へ回ります。

 

「おじさーん!」

 わたくしは思わず吹き出してしまいました。グレーテが急に子供っぽい声を出すものだから。それでも、手ではしっかりとドアベルで三回ノックです。

「やあ、グレーテ。お城のおつかいかい?」

 店主でしょうか。中年の男性が出てきました。毛皮を着こんでいても分かる恰幅の良さ。以前、グレーテのおしゃべりの中に登場した「なにか作るたびにつまみ食いするパブのマスター」がすぐに思い出されました。

「“いつもの”を」

 グレーテは気取って指を立てて言いました。

「あいよ。紙袋に包んでやるから。ちょうどアキムたちが来てるから、上がって行ったらどうだ? その後ろのべっぴんさんを紹介したら、連中は喜ぶだろう」

 そう言うと店主らしきかたは扉を開けたまま奥へと引っ込んで行きました。

「やっぱりみんな居るんだ。なんだか恥ずかしいなあ。サ……ルフィナ。私の知り合いに会ってみます?」

「是非」

 グレーテの知り合い。話には聞いたことがあります。

 いたずら好きなかたや、気立ての良いかた、若き腕利きドクターさんもいらっしゃるんだとか。


 彼女について勝手口からお店の中へ。一般のご家庭やお店に入るのは産まれて初めてです。踏み込んでみると木の床が軋む音がしました。

「キッチン? 倉庫かしら」

 わたくしは首を傾げます。鍋がいくつかとまな板と包丁、それにたくさんのビンや木箱は見当たるのに、かまどやグリルが見当たりませんでした。

「キッチンがないタイプのお店ですねえ。客間にグリルと暖炉があって、みんなでいっしょに支度して食べるんですよ」

「素敵。お城とはずいぶん違うのね」


 お城の厨房は覗いたことがあります。広い部屋に長い作業用テーブルやかまど、鉄棒を渡したグリルなどがあり、大きな真鍮の雪冷式食料保管庫が鎮座しています。

 そこで料理室と給仕室のかたがたは毎日お鍋と戦争(!)をしているのです。

 早朝から、外回りの公務のかたのためにお弁当を仕込み、昼までに王室の昼食を。それから自分たちの食事をとって、続いてお茶菓子を焼きます。それが済んだらまた夕食の仕度……と、とても大変な職場です。

 料理室はその名の通り、城内の食事まわりを支配する役割を持っています。いちおう、巡検室や星室、交通室などと並んだ扱いなので、料理長は大臣ということになります。

 料理大臣は気の弱いおじさんなのですが料理の腕は確かで、エプロンと包丁を装着すると別人に変わります。厨房の中に限っては、あのスヴェトラーナさえもお手伝いさんのひとりに過ぎなくなるのです。


 厨房を抜けると、暖かで広い部屋に出ました。

 カウンターこそはありますが、やはりお店というよりは広い客間という印象。調度品の数々は木製で、石造りの暖炉では何かのお肉が火にかけられています。見た目も素敵ですが、香りもなかなかのものです。

 少し話がそれますが、わたくしがインターネットを使えるようになったその日に検索したのは、おもに中世から近世のヨーロッパのことです。それも一般家庭の様子についての画像を調べました。

 ソソンには写真もビデオもありません。王室と一般家庭は互いに憧れの対象ですが、普通はそれを目で見るには絵画や本の挿絵くらいしか手段がないのです。

 実物がこんなに暖かで素晴らしいのなら、前情報は無しに見たかったと少し後悔をしました。


「おっ、ソソンのお騒がせ者の登場だ」

 若い男のかたの声。テーブルにはわたくしたちと同年代の男性が二名と女性が一名いらっしゃります。

「よう、グレーテ。王女陛下とねんごろになったメイドなんて前代未聞だぜ?」

 頭に包帯を巻いている青年が愉し気に続けました。

「あたしもサーシャさまとお友達になりたいな-」

 こちらはとても美人な女の子。綺麗なダークブロンドの巻き毛が胸の下まで伸びていて、とても暖かそうです。

 服装は毛皮でしたが、そのファーメイクはドレス風でナイスセンスです。

「お友達以上の関係って噂もあるよ。僕はそっちに一杯賭けよう」

 こっちは知的で眼鏡の似合う雰囲気の青年です。お城にいれば人気が出そうな顔立ちです。

「モテないミス・マルガリータなら、さもありなんだな。俺もそっちだ」

「じゃ、あたしもそっち!」

「それじゃ、賭けにならないじゃないか」

 楽し気に笑うグレーテの知人たち。テーブルの上には無くなりかけの梨のワインのボトルがあります。

「ねえ、アキムは何で怪我してるの?」

 グレーテは包帯の青年の頭を指差しました。

「飲んで階段から落ちたんだって! 夜中にうちに来るからびっくりしちゃったわ!」

 巻き毛の娘は愉快そうです。


「……」

 グレーテはこちらを振り返り、何とも言えない表情で見つめてきています。きっと、心の中で謝っているのでしょう。


「ところで、そっちのメイドさんはどちら様かな?」

 眼鏡の青年がたずねました。

「うお、マジだ。すげえ美人じゃん。グレーテ、こんな子がいるならどうして今まで紹介してくれなかったんだよ!」

 アキムさんが立ち上がります。

「この子はルフィナ。最近になって配属された子なの。今日は買い出しのことを教えるために一緒に……」

 説明するグレーテ。彼女を押し退けるように包帯の青年がこちらに近付いて来ました。

「俺はアキムだ。ルフィナ、俺と一緒に世界を変えないかい?」

 彼はそう言うと、片腕を広げて躊躇なくわたくしへ接近しようとしました。

「こら、アキム!」

 巻き毛の女の子が割って入り、アキムを押し退けました。

「いいじゃんか。“王室かぶれ”になってないメイドなんて貴重だぜ。今のうちにツバつけとかなきゃな」

「油断も隙もないんだから。ごめんなさいね、ルフィナさん。あたしはニーナ。あれは馬鹿のアキムで、そっちは賢いセルゲイ」

「セルゲイ・キリーロヴィチ・アサエムです」

 眼鏡の青年が席を立って会釈をします。

「さあさあ、自己紹介が済んだら互いをもっと深く知らねえとな。ルフィナ、こっちに座りな」

 そう言ってアキムは隣の椅子を引きました。しかし、そこへすかさずグレーテが腰を下ろします。

「ルフィナはこっちに座ってね」

 グレーテは向かいの椅子を差します。セルゲイさんのおとなりです。ニーナはアキムの頭を叩きました。

「ちぇっ。まあいいや、ルフィナはどこの出身だい? 城下じゃないよな? あんたみたいな美人は一度見たら忘れないし、学校では見かけなかった。同年代だろ?」

「北の断崖の出です。王室や城下の暮らしに憧れてこちらへ出てきました。今は王城住まいです」

 これは即興のでっちあげです。

「北の出か。あの辺りは何にもねえよな。ギザギザの岩山くらいだ。同じ岩山でも、南のほうは氷湖の掘削計画で少しテコ入れがあったんだぜ。北はソソンじゃいちばんの田舎だね」

「人の故郷を田舎呼ばわりして。あたしの親戚もそっちに住んでるんですけど」

 ニーナが口を尖らせます。

「ま、田舎なんて言ったら、ソソンは全部田舎だけどな。俺が城に務めてりゃ、もっと近代化させるんだけどな。ルカ王は何をモタモタやってたんだか」

 そう言ってアキムは残っていた梨ワインのボトルをそのまま咥えました。

「名誉国王の事業は未完だけど、それでも評価はされるべきだよ。石油や石炭は有限だし、計画に時間が掛かるとしても、新たな資源の開発はソソンの未来のためになる。今はちょっと国がごたついちゃってるけど」

 セルゲイさんが言いました。

「あんたたち、初対面の女の子相手に政治の話する気?」

 ニーナは露骨にイヤそうな顔をしています。

「険しい山なんか無きゃ良かったのによ。そうすりゃ、こんなつまんねえ国にゃならなかったぜ」


 ……つまんねえ国ですって!


「その山の石がソソンの恵みになっているので、何も無いと言ったら少々失礼ではありませんか? それにこの立地ゆえにソソンという国があるのですから」

 わたくしの発言です。アキムの言い草にすこし“カチン”ときましたから。


「まーね。でも、原始的だぜ。今は二十一世紀なんだ。我らがルカ王陛下様が生きてりゃ、今ごろもっと面白い世界になってたんだろうになー」

 国民の中にも、ソソンを世界に開いたほうが良いと考えるものがいるようです。

 でもそれは、即物的で先の見通しのできていない愚かな考え。それと彼には、王室に対して不敬なところがあるようです。


「ソソンは永久に凍り付いたままだぜ。あんな……“死刑姫(シケイキ)”が君主じゃあな」


 今度は心臓が跳ねあがりました。それから、とても悲しくなりました。

 文字では何度もその名を見ています。メイドたちの噂にも聞こえた忌み名でしたが、それは彼女たちがラジオから知ったもので、そのまま城内に留めておいてくれていると信じていたからです。


「アキム。ルフィナさんに嫌われるぞ」

 セルゲイさんが溜め息をつきます。もう手遅れです。

「分かんねえぞ。まだ城に務めて短いんだろ? なあ、俺とソソンを変えようぜ」

 アキムはテーブルへ身を乗り出して、わたくしの顔を覗き込みました。

 ……ここまで馴れ馴れしくされたのは、父親を除けばローベルトとこいつの二人くらいです。


「ソソンを変える? ソソンは幸せです。間違っているのは世界のほうでしょう。世界が変わるべきです。変革には大きな力が必要です。一個人や小国に手に負える話ではありません」

「へえ、良いね。思ったよりキツい感じだけど嫌いじゃないね。自分の考えが持てるソソンの女は珍しい。あんたは今の死刑制度についてどう思う?」

 失礼な包帯男はニヤリと笑います。

「……人が人を殺すのは罪でしょう。国主導の処刑であっても。それでも、即興の死刑停止よりは遥かにマシです。人道的かどうかと議論の的にはなりますが、もとより、罪を犯さない人には関わりあいのない話です!」

 わたくしが勢いで意見を述べると、アキムは口笛を吹きました。

「惚れたね。ルフィナ、俺といっしょに来いよ。給仕室に入ったってことは、王室に幻想を抱いてるんだろうけど、今や世間知らずのお姫様が一人いるだけだ。仮に王室が尊く、アレクサンドラが国のためを思っていようとも、あれは……」


「アキム!!」

 となりで大声をあげたのはセルゲイさんです。

「……ここにはグレーテも居るのを忘れたのか? いい加減にしろ!」

 アキムが席に戻ると、下を向いたグレーテの姿が現れました。


「おっと、悪い悪いミス・マルガリータ。自分の恋人を悪く言われちゃ腹も立つよな」

「ほんと、あんたって酒が入ると最低なんだから。もう政治の話は禁止。あたし、お父さんに言って何か作ってきてもらうよ。奢るからさ。ルフィナさんも、グレーテも機嫌を直してね」

 ニーナが立ち上がりました。

「酒も、もう一本頼むぜ」

「いい加減にしなさい。あんたには氷の張った桶の水を用意してあげる」

「いや、料理も酒も無しだ。ふたりは仕事中なんだよ。彼女たちまで噂のメイド長から凍った水を浴びせられることになってしまうよ」

氷のメイド長(リョート)ねえ。そういう封建的なやつが組織を悪くするんだ」

 アキムがまた毒づきました。スヴェトラーナの噂も城下に届いているのは少し驚きです。

「ルフィナさん。僕の友人が、たいへん失礼をしました。どうか、彼の王室への無礼を秘密にしておいていただけませんか?」

 セルゲイは席を立ち、わざわざ椅子をどかしてひざまずきました。

「え、ええ……」

 また心臓が跳ねます。セルゲイのふるまいは、臣下が君主へとる態度と相違ないものに見えましたから。


「ありがとうございます、ルフィナさん」

 わたくしを見上げる眼鏡の下は優しく微笑んでいました。


「グレーテ、ごめんね。アキム、二度とやらないで。もう、うちではあんたにお酒だしてやらないから」

 ニーナはグレーテへ肩掛けを掛けてやりながら言います。アキムは返事をしませんでした。


 やれやれ……。

 わたくしたちはセルゲイとニーナに送られてパブをあとにしました。


「ごめんなさい。ほんとうにごめんなさい」

 雪の路地。親友が泣いています。霜焼けでもないのに顔を赤くして、凍ることのない雫を流して。

「いいのよ。世間にはああいうタイプのかたが居るのも知ってますから」

「でも、あんなに、失礼なこと。アキムが飲んでるって知ってたら、絶対にサーシャさまに会わせなかった!」

「かの有名な酔っ払いだったのね。初めて見た! お城には居ませんから!」

 わたくしは努めて明るく言います。

「ごめんなさい。ほんとうに……ほんとうに……」

「いいの。良い勉強になりました。彼は無礼だったかもしれないけど、王女だって知らなかったのだし」

 それに、王室に仕えるメイドとしてすらも扱わなかった点は評価ができます。


「もう、泣かないで」

 小さく震える身体を暖めてやります。通行人が見ていましたが、大したことではありません。ルフィナは存在しないメイドですし、“王女の恋人”は顔を覆っているので、浮気者の噂が流れることもないでしょう。


 ブーツの下が痛くなってきたころに、ようやくグレーテは泣き止みました。

「ごめんなさい、サーシャさま。今度は、ちゃんと、楽しいところに案内しますから」

「もう帰りましょう。憧れは憧れのままに留めておきましょう。本当のわたくしなんてものも、初めから居なかったのです。わたくしはわたくしですから。アキムもまた、アキムなのです」


 アキムの無礼には思わず声をあげてしまいましたが、ああやってお互いに素直に反応できるのは、すこし面白かったようにも思えます。

 考えは違うものの、国を慮っている臣民をこの目でみれたのも嬉しいことです。

 何よりわたくし自身が、どうやっても立場や国のことが頭から離れないのです。君主としての眼鏡無しに物事を見るのは、やはり不可能なのでしょう。

 大人しく受け入れ、これからも紅き王道を歩み続けることとしましょう。幸い、ひとりぼっちではありませんし。


 ……ところで、アキムのあの妙なプロポーズ? お誘い? に関しては絶対にノーです。

 それに性格も、乱暴な所作も、見てくれも全部が気に入りません。グレーテを泣かせたことも。

 彼はルフィナに感謝をするべきでしょう。これがサーシャ相手の行いであれば……わたくしは黒いドレスに着替えていたでしょうから。


「オトコ漁りは失敗。もうお腹いっぱいです。……恋は探すものじゃない、出会うものなのでしょう」

 なんて言ってみたりして。

「ふふっ、何ですか、それ?」

「アレクサンドラ王女の格言です!」

「出会ってからおっしゃってくださいよう!」

 ようやく笑ってくれた友人。

「ふふ。今日はありがとうね、グレーテ」

「……酔ってないときは、面白くていいヤツなんですよ。セルゲイもニーナも良い人」

「でしょうね。そうでなければ、始めから会わせようなんてしないでしょう」

「みんな近所に住んでいて、物心ついたときから、いっしょに遊んだりしてて……」

「大丈夫よ。知ってるわ。いつも話してくれたでしょう? あなたの大事な世界のこと悪く思ったりしません。ルフィナに君主の権限はありませんから」

「ありがとうございます」

 わたくしたちはもう一度抱き合いました。

 それから手を繋いで白い化粧を始めた帰路へと戻ります。


「グレーテ!」

 後ろから呼び止める声が聞こえました。振り返るとニーナさんです。彼女は紙袋を抱えていました。


「ニーナ。どうしたの?」

「どうしたの、じゃないわよ。あんた、何しにうちの店に来たんだか。ほんと、おっちょこちょいなんだから」

 そう言ってニーナはグレーテへ紙袋を手渡しました。紙袋からは液体の揺れる音が聞こえます。

「あっ!? へへへ……ありがとう」

 グレーテは頭を掻いて、またもそばかすの頬を染めています。

「それと、セルゲイがあんたにちゃんと謝りたいって。それと今度、ふたりきりで食事しようって誘ってたよ」

「えっ、ふたりきりで? どうして?」

「さー、どうしてだろうね? じゃあね、グレーテ。お勤め、しっかりね」

 ニーナはグレーテの背を叩くと、踵を返して雪の路地を駆けてゆきます。それから立ち止まって、こちらを振り返りました。


「ルフィナさん! ……グレーテのことをよろしくお願いします!」

 ニーナが大きな声でお辞儀とともに言いました。それから、まき毛をひるがえして角へ消えて行きました。

 彼女が去るとき、珍しく粉雪とともに陽の光が差し込んでいて、髪がいっしゅん炎のゆらめきのように見えました。


「あの、もしかして、正体がバレたりとか?」

 グレーテが不安げに言います。

「まさか。あなたがおっちょこちょいだから……あ、違うわ。さっき抱き合ってたの見られてたんじゃない?」

「えーっ! どうしよう。また噂になっちゃいますよう!」

 慌てるグレーテ。

「あははは。だったら、別の噂で塗り替えるしかないでしょうね。セルゲイさんからお誘いがあったみたいですし?」

「あ、あれはきっと、お詫びでってことですよう! ずっと一緒だったし、私なんかをそんな目で見てませんってば!」

 と言いながらもグレーテはほっぺたを真っ赤にしています。

「さあ、どうでしょうねー? セルゲイさんはグレーテちゃんにラブなのかもしれませんよ!」

 わたくしはグレーテの腰をぐいと押してやりました。

「くすぐったい! もう、サーシャさま!」

「帰りますよ!」

 怒るグレーテを放って、わたくしは雪の上を駆け出します。


 さようなら。近くて遠い普通の世界。誰しもがそれぞれの世界と物語をもっているのでしょう。わたくしは、わたくしの世界に帰ることとしましょう。

 スパシーバ。ハローシィヒ、ヴィハドゥーニヒゥ。よい週末を。

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