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死刑姫サーシャは今日も執行する  作者: 鳥遠かめ
第一章 死刑姫

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死刑1-12 受容と拒絶の天秤

 今回の処刑は、ある意味で成功。ある意味で失敗でした。


 “なにか”を知ってから、わたくしはいたく恥じ入り、反省をしなければなりませんでした。これは愛や正義の業ではなかったのです。

 その正体は、身体が頂点に達したときに、本能で理解しました。

 慌てて公開されている動画のチェックを行いました。腰抜けの死刑姫は、はた目には苦しんでいるようにしか見えません。いやらしいコメントもついていましたが、たんに茶化しているだけでしょう。

 それから、この自身の中に潜んでいた悪癖についての検索。該当しそうなものがいくつかありましたが……回りくどいですね。


 ようは、わたくしは異常性癖だったということです。


 処刑の記憶を呼び起こすたびにそれが裏付けられ、胃の腑が抜かれたかのような絶望に襲われます。

 でも、気付けば正すことができます。その点では“なにか”にはっきりと出逢えたのは成功と言わせてください。


 不道徳的(インモラル)なわたくし。まさか王女、ソソンの君主たる女が処刑を見るたびに性的興奮を覚えていたなんて。

 この複雑で歪んだ(バロックな)事実を、たった独りで抱え込むのは不可能でした。

 友人は励ましてくれました。「あの場の空気に触れれば、誰だっておかしくなってしまいます」と。本当に優しい子。

 でも、自分でよく分かっています。話をちゃんと聞いてくれただけでも嬉しい。

 千回のキスの続きをとっておいたのですが、これももしかしたら感謝ではなく淫らな情動なのかもしれないと思うと、打ち切るほかにありませんでした。


 自分はどれほど歪んでいるのか、歪みはこれだけなのか、そして快感の源泉はどこなのか。

 実感がないのです。そういった気持ちや反応がおとずれるのは、壇上に立って“かれ”らの悲鳴を聞いたときで、処刑なら何でも良いわけではありません。

 処刑以外では……すこしオトナな外国のロマンス小説に目を通したときくらいです。小説にはまったく普通の愛情しか書かれていませんでしたし、これは正常でしょう。

 もちろん、グレーテと服を交換したり、ふたりで深夜にお風呂に不法侵入して肌をくっつけあったって、楽しいイタズラの範疇を超えたものは感じませんでしたし。


 こうして日記に記してみても、いまいち整理がつきませんね。


 ともかく、その後の公務からは、わたくしは“なにか”が来るのをいっそう恐れるようになりました。できればまったく姿を見せないことを願わなければならなくなりました。

 しかし、処刑の任務からは逃げられません。となれば、“なにか”に征服(マステリー)されるのではなく、克服(マステリー)しなければなりません。

 ソソンの君主であり国民の代弁者であるわたくしが、倒錯しているなんてことがあってはならないのですから!


 ……失敗のほうへ目を向けましょう。


 ローベルトの処刑では、わたくしは終了の合図も出せませんでした。思い出すと今も処刑が続いている気がします。

 わたくしが退避する前に石が投げられたのは由々しき事態ですが、投石による後始末自体は正当性のあるものです。

 局部の完全なる破壊が達成された時点で『石打ちの刑』が決行される予定でしたから、あの場にへたり込んでいたわたくしのほうが拙かったとしておきましょう。


 問題はその後です。ローベルトがどのくらいまで生存していたかはわかりませんが、群衆の混乱は石と言葉をぶつけるだけでは済まなかったのです。


 勝手に壇上へ上がり、正しくない方法で死刑囚へ手を下す者が多くありました。

 誰かが“ロブを咥えたままの”血塗れの梨を空へ掲げたという話もあります。王の権力を民の無法が超えてしまったのです。


 儀式や礼節的な問題だけではありません。

 悲しいことに、混乱のさなかに罪無き死者が五名もでました。

 老人が圧し潰され、刑の残酷さに気絶した男性が踏まれ、理由の分からない喧嘩が起こり……。


 この点は大いに反省すべきでしょう。わたくしだけでなく、国民を叱る必要性も感じます。

 君主は罪に寄り添うだけでなく、秩序を維持するための(タガ)でもあるのです。しかし、その箍は緩んでそのあたりに転がってしまっていました。

 やはり、わたくしがもっと毅然としていれば防げていたのでしょうか……。


 ローベルトの事件から、休止されていた公務も再開されました。半ば暴徒と化した群衆。わたくしたちはこれへの対策へ頭を悩ませます。

 ニコライ将軍は「儀式的な処刑を穢すものは罰するべきだ。壇上に上った犯人を捜して刑罰も重くしましょう」と太い眉を寄せました。

 その場に居合わせた他の臣下も、腰を抜かしたわたくしが危険に晒されたのを見ていましたので、これに頷きます。


 ですが、久しぶりの処刑だったうえに、王室への愛と勇者への落胆も重なったわけですし、厳罰化や犯人捜しには反対です。

 わたくしは「しばらくは民衆のヘイトを集めにくい死刑囚を使って、毒抜きをするべきです」と提案しました。

 この発言は、それまで“被害者”や“子供”として扱われていたわたくしが君主の力を取り戻すきっかけになりました。


 死罪を犯す人間は、悪人や狂人ばかりではありません。

 たとえば、誇り高き死刑囚ザハール。ザハールと言っても、初代君主のザハールではありません。ソソンでは彼と同じ名前を付けられる男性は多いのです。


 こちらのザハール青年は、評判の親孝行ものでした。両親の身体の具合が悪く、ふたりの世話に加えて、自身の紙業(この国では樹皮を加工した紙が一般的なので、林業のことをこう呼びます)をこなしつつ、家事のいっさいも引き受けていました。

 当然、巡検室の者から支援の提案があったのですが、彼は頑としてこれを拒み、父親のほうが亡くなるまでは自分独りの力でやり抜いたのです。


 では、そんな親孝行者がどのようにして“かれ”となったか。

 お分かりでしょう。残った大切な母親へ最大の侮辱をうけ、その凶賊へ仕返しをしたからです。

 雪山で木々の相手をする過酷な仕事から帰った彼は、その晩も母の「おかえりなさい」を楽しみにしていました。

 しかし、家には見知らぬ誰かが一人おり、ほんらいは生きた若い女性へすべき行為が、冷たくなった老女へ行われているのを目撃したのです。


 ソソンでは、誰しもが毛皮をまとうため、世界のような肌色を露出する扇情の文化はありません。

 顔もよく霜焼けてしまいますから、パートナーになる切っ掛けは見てくれよりも“ひととなり”ということが多く、愛のいとなみの始まりもまた、互いを暖炉代わりにしているうちに……という温かなシチュエーションが多いようです。


 そして、毛皮に覆い隠された高潔な性風俗は、酷い反動を生むようで、ときおり偏執的な性犯罪を起こします。これはソソンの恥ずべき傾向です。


 ザハール青年はその誰かへ復讐を果たしました。殺人罪。

 それだけなら情状酌量の余地も、世論の味方もあるので再出発のチャンスがあったでしょう。

 まずかったのは、犯人が未成年であったことと、処刑を模して、殺害後に陰部を死後に激しく損壊したことです。


 ソソンでは未成年への犯罪行為は、成人へのそれよりも罪が重くなります。

 大人同士の殺人なら死刑に至らないケースもありますが、子供への故意の加虐は死に至らしめずとも死刑になり得るのです。

 また、遺体の損壊も罪です。


 ザハール青年は清く正しい男でした。

 通報者は彼本人。

 倫理と殺意を乗せた天秤へ、自らの意思で義憤をベットしたこともはっきりと認めました。

 親のかたきうちを国の助けなしで達成し、断罪したかったのだと。


 死刑を待つ身にはなりましたが、刑務所内での生活に影響する格付けの基準変更を行ったのちの事件でしたので、彼は本来ならば執行は後回しですし、しばらくは国の庇護を受けて、比較的豊かな囚人生活を送るはずでした。

 じっさい、事件があってから数か月が経過しており、ローベルトが罪を犯して処刑されるまでのあいだも彼の刑は執行されていませんでした。


 ですが、暴徒の件によって事情が変わりました。

 わたくし自らが彼へ、「国民の暴走を止める頸木(クビキ)の役を買って欲しい」と手紙を書いたのです。

 彼は「もっと長く苦しむつもりだったけれど、これならば両親に顔向けができます」と喜んでこの依頼を受けました。


 親孝行者の名前は、市井でも噂になっています。予想外の執行の早さと、判決が覆るのをわずかに期待されていたことから、見物に集まった国民からは戸惑いの声が聞こえました。

 罪と同じ罰を。彼は屈強な刑吏たちの繰り出す斧にて何度も痛めつけられて死にました。彼は叫びましたが、それはわたくしの胎ではなく、胸へ響きました。

 なぜなら彼の口から出た絶叫は、先に逝った両親への感謝と謝罪。それから、自身が手に掛けた少年へ赦しを乞う言葉だったからです。

 彼は一度たりとも、“自分のためだけの叫び”は上げなかったのです。


 群衆は固唾をのんで見守ります。誰一人とも刑の執行を妨げようとする者はいませんでした。国民たちも、無秩序と暴力よりも秩序とプライドを選びたいはずなのです。

 誇り高き青年の死後、わたくしは斧を取り“かれ”へ近づきます。

 “かれ”の罪は殺人だけではありません。死後に局部の損壊を行ったことも含まれます。わたくしは、血の海に沈む“かれ”の前に立つと、またも“なにか”の気配を感じました。

 “かれ”は最後まで誇り高き息子であり続けたというのに、君主であるわたくしは、なんて無様なことでしょうか!


 淫らな欲望を断ち切るために、わたくしはわたくしの仕事をこなしました。斧を突き立てると“なにか”が逃げるように離れていきました。

 それから国民へ向き直り、肘を直角に挙手。


執行完了!(オンナコンチェン)

 完了の合図は刑吏長ではなく、わたくしが叫びました。終わった“かれ”に恥じぬように、ソソンの代表として、声高らかに。

執行完了!!(オンナコンチェン)

 我が臣民たちもこれに応えてくれて、とても安堵したのは忘れられません。処刑は快楽の遊びではありません。人間の誇りのかけひきなのです。


 ザハール青年のおかげで憂いの一つは去りました。

 それから先の順当な処刑では、国民からの不当な行為や妨害は起こりませんでした。

 しかし、誇り高き儀式の音頭を取り続けたのが、はなはだ相応しくない感情を身に宿したわたくしであったのが気掛かりです。


「そうだったんですか? 私には、そうは見えませんでしたけど。お風呂に付き添った先輩たちも、何も言ってませんでしたよ?」

 お茶用のテーブルで向かい合うグレーテ。彼女はこの部屋をたずねるのに、今やこそこそする必要がなくなっていました。

 ソソン中のひとびとが、わたくしとグレーテの特別な関係を許しています。

 引き換えに、わたくしのほうがたまに給仕たちの休憩室をたずねに行くことでバランスをとっています。

 メイドたちとのおしゃべりもなかなか楽しいです。ローベルトの一件がわたくしと城の者、とりわけ女性陣との絆を強くしたように思えます。

「見えなかったのなら良かった。でも、血の海を見るとどうしてもいやらしい感情が沸いてきてしまうの……」

 わたくしはカップのローズティーを見つめます。血のような色をしていますが、良い香りがするだけで何の情動もありません。

「どう考えてもおかしい……そんな王女を君主に頂くなんて誰だって嫌でしょう? 相応しくない」

「そうでしょうかねえ? だったら、どうしてみんなは処刑を見に来てるんでしょうかね?」

 グレーテは梨のコンポート入りのクグロフを咥えながら言います。

「国民のみなさまもわたくしと同じって?」

「そこまでは言いませんけどう。……多かれ少なかれ、公開処刑はお楽しみですよ。パブでのおはなしや噂話でも“そういうの”のほうが受けが良いですし」

 確かにそうです。歴史上の公開処刑にだって娯楽としての側面があったと聞きます。

 ですがそれは冬眠の王国(スリープキングダム)と揶揄されるソソンの倫理から見ても、不適切にカテゴライズされます。きっと当時でも大っぴらに肯定しなかっただけで、インモラルだったでしょう。


 けっきょくは建前なのです。世界の連中もモラリストを気取っていますが、わたくしの公務の映像の再生回数を見れば、それが偽りだということがよく分かりますし。

 ソソンの民もわたくしも、世界中のかたがたもみんな不適切……。


「わたくしの昂ぶりは正義のためだと思ってました。悪いことを罰して、国民の罪の一部を担って、君主として正しくあれることに歓びを感じていたのだと。でもそれが、実は単に悲鳴と血で興奮……いいえ! 発情していただけだなんて!」

 思わず大きくなってしまう声。

「ひとつの行為がひとつの意味しか持たないなんてこと、ありませんよ。お菓子は美味しいし、お腹が膨れます。それにサーシャさまの部屋をたずねる理由にもなります」

「どっちも本当ってこと?」

「そうです。正義と不道徳のどっちもサーシャさまです。年頃の女の子って難しいものなんです。そのうちに落ち着きますって」

「あなただって、わたくしと同い年でしょうに」

 わたくしは溜め息をつきました。

「メイドは耳年増なんです。それに、サーシャさまと同い年なのは半年くらいだけですよ。あとの半年は私がお姉さんです!」

 胸を張るグレーテ。口元にクグロフのかすがついています。

「そそっかしいお姉さんね」

 苦笑して、彼女のたべかすへ指を伸ばしました。いつものやりとり。本当にお姉さんなのはわたしのほうかもしれません。……でも、このときは思わず伸ばした指を引っ込めてしまいました。

「どうして引っ込めたんですか?」

 グレーテは自分でたべかすを取るとそれを口へ運びました。

「なんだか、これもいけないことのような気がして……」

「うーん。それって、女の子にも興奮しちゃうってことですか?」

「……」

 ストレートな表現にわたくしは黙り込んでしまいます。ローベルトの処刑のさい、“なにか”への最後のひと招きとなったのが他でもないグレーテへの抱擁なのです。

 わたくしは、自身のはじめての経験は簡単に打ち明けたくせに、この部分だけはどうしても白状できないままでいました。

「それも、年頃の女の子にはよくある話ですって」

 グレーテはへらへらと笑って言いました。

「でも……」

 グレーテは席を立ち、わたくしの背後へ回り込みました。彼女が何をしようとしたのか察して、わたくしは逃げようと腰を浮かせます。

 ……が後ろから抱きすくめられてしまいました。

「やめて」

 わたくしは首を振りました。

「……どうですか、サーシャさま。興奮しますか?」

「いいえ……」

 もういちど首を振ります。

「……私は、なんだか安心しますよう。興奮とは反対ですねえ」

「うん……」

 わたくしの胸のまえで結ばれる彼女の手へ、手のひらを重ねます。

 いやらしい“なにか”なんて探したってどこにも居ません。背中に伝わるグレーテの音色に耳をすませばすますほど、わたくしの鼓動も穏やかになるのを感じます。

「サーシャさまは、普通の女の子ですよ」

 優しいグレーテのささやき。

「万が一、“そう”だったとしたら、私がお相手に立候補します。一緒に行けるところまで行きましょう」

「ありがとう。そのときは、ふたりで新しい世界に行ってみましょうね」

 ああ、本当に優しいグレーテ。良かった。こんな約束を交わしながらも、お互いの鼓動は穏やかなままです。

「そういえば、世界では同性愛も普通になってきてるらしいって、前に話してくれましたよね」

「でも、血や叫びに発情するのは、さすがに世界でも異常です」

 わたくしはこの汚点が酷く気に入りません。どうしても受け入れられないのです。檀上で振る舞うさいにはとてもエネルギーを使います。正体が分かった今、血の誘惑に耐えるのはさらに大変な仕事となるでしょう。

「そんなところばかり見ていちゃ駄目ですって。別のことに目を向けましょう。死刑姫の変態性癖をおまけみたいなものにしちゃうんです!」

 ストレートな物言い!

「本当にこの子ったら……」

 思わず口に出してしまいました。

「では、しばらくはデスクワークに打ち込むことにします。せっかく公務に戻してもらえたんですし」


「えーっ! そうじゃないんですってば!」

 グレーテは大声をあげました。わたくしの耳元に顔を寄せたままですよ!

「ど、どういうこと?」

「普通じゃないラブが気になっちゃうなら、普通のラブで埋めちゃえばいいってことです! 恋をしましょう! サーシャさま!」

 本当にこの子は。もう一度、石床に頭をぶつけたほうが良いかも知れません。グレーテはわたくしの正面の席へと戻ります。

「サーシャさまは恋をしたことがないっておっしゃってましたけど、ちょっとくらい“良い”って思ったことくらいはあるでしょう?」

 若いメイドの本領発揮。いつもの噂話のときと同じ調子で言います。

「うーん……」

 質問に答えるために記憶の糸を手繰り寄せてみるものの、さっぱり思い当たりません。無意識に中指を噛んでしまっていたようで、腕を引っ張られてしまいました。

 牙の幽霊(クリーク)といえばおはなし、おはなしといえば文学……。

「“嵐が丘”のヒースクリフとか」

「身分差があるので王女さまらしいといえばらしいですが、もうちょっと明るいのはありませんか?」

「ゲーテの“ウェルテル”」

「それも暗い! っていうか、どっちも外国の小説じゃないですか。ロミオとジュリエットもナシですからね!」

「明るいロマンスはあまり名著にならないようですから……」

 なんたること。わたくしの恋の経験は書庫頼りなのです。それも多くは外国の名著!

「そうじゃなくって、そういうのは“おはなしありきでの良い”じゃないですか。実際に会ったことのある男性でですよ!」

「実際に……」

 ここ数か月で印象的な関わりを持った男性といえば、くだんのローベルトが思い浮かびます。

「ローベルトが“ああなる前”は多少は頼もしく見えました。支えてくれましたし、いちおうソソンや王家への忠誠心も立派でしたし」

「見てくれも悪くない人でしたからねえ。本当に見てくれだけでしたけど。他には?」

「先日のザハールとか?」

「ああ、あれは格好良かったですねえ。……ってどっちも死刑になった人じゃないですか! 土の下ですよ! もうっ!」

 栗色の三つ編みを激しく揺らすグレーテ。

「そんなこと言ったって……」

「じゃあ、好みのタイプとかは? アレクサンドラ・ルキーニシュナ・アシカーギャの理想の男性はこれだっ! っての、絶対流行りますよ」

「流行るって……」

 そう言いながらも、わたくしはある男性の姿が脳裏に浮かびました。彼も土の下です。というか、まったく理想ではありません。愚王です。


 わたくしばかりが聞かれるのは不公平です。ちょっとやりかえしてみましょう。

「そういうグレーテは、良い人はいないのですか? あなたもお年頃でしょう?」

「えっ、私ですかあ!? えーっと、その……」

 勢いはどこへやら、グレーテは赤くなって硬直してしまいました。あまりにも正直な反応なので、なんだか申し訳なくなりました。

「具体的に誰とは聞きませんから」

「そ、そうですねえ。私はそそっかしいし、あまり勉強も得意ではないので、しっかりしてて頭の良い男性が好きですねえ。それでも完璧じゃなくって、やっぱり裏では悩んだりしてる人とか、そそられますねえ」

 栗色の三つ編みをいじくりながら答えるグレーテ。

 何を思いだしているのでしょうか? グレーテは寝惚けたような表情で語っています。


「……はっ!? 私のことは良いんですよう! サーシャさまのおはなしなんですよ! 考え付かないのなら、探しに行きましょう!」

 グレーテは唐突に立ち上がりました。わたくしはソーサーからずれたカップを慌てて押さえました。


「探しに行くって、つまり?」

 わたくしは首を傾げます。


「オトコ漁りですよ! オトコ漁り!」

 そう言ってそばかすの娘は白い歯を見せました。強引に話を変えてきましたね。

 それにオトコ漁りだなんて。わたくしは王女なんですけれど……。

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