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皇帝陛下の旧式戦艦   作者: 夕月
海路一万五千余里
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四面海もて

 海軍の艦艇と言えばやたら急な階段ラッタルが名物である。

 いきなり舷梯でその洗礼を浴びた橘花であったが、段差の急さ自体は実家のいわゆる「ウナギの寝床」のおかげで問題はなかった。ただ段の下から海面が覗いているのは新鮮であった。

「怖くないんですね」

「職業柄高い所には慣れてるのよ」

 先導する茅子の膝は若干震えていた。今まで何回もこの船に乗った事があるという割には、いつまでたっても慣れないらしい。

 

 私物入れの柳行李を抱えつつ、舷梯を登り切った先に居た水平に挨拶をする。三八式歩兵銃はそれなりの重さのはずだが、彼は身動き一つせず「気をつけ」の姿勢で立ったままだった。一般人がイメージする頼もしい兵隊さんの姿である。

「艦長および調査団長は只今会議中です。先に船室に案内いたしますので、荷物を置いてから後であいさつに向かいましょう」

 そういう茅子の足取りはすっかり軽くなっていた。波の静かな湾内とはいえ、既に両脚には小さな波の揺れが伝わっている。このまま外洋に出て、およそ一か月海の上である。シベリア鉄道が使えれば良かったのだが、どうもロシア国内は革命による混乱の真っ最中であり使い物にならない。どうにかマルセイユから鉄道を使わせてもらえることにはなっているが、それでも長旅の大部分を船旅が占めるのは変わらない。どうせ船内でも仕事はあるだろうから退屈はしないだろうが、船酔いが心配である。

 というか、40日の行程か…それはひょっとして、

「私たちがたどり着く前に向こうで調査が済んじゃってるんじゃないか、って思ってますね?」

 …心を読まれた。と同時に、茅子が一気に物理的な距離を縮める。

「ええ分かってますとも、その疑念は当然のものでしょうよ。この派遣が日英両国による対外的な宣伝行為なのは疑いようのない事実です」

 ここだけの話ね、と付け加える茅子。その声は周囲をはばかるようなものだった。

 なおさら旅に付き合う意味が見いだせなくなった橘花に茅子は気づかないふりをし、「それはともかく」とばかりに歩み出した。

「ついでに艦内を案内します。迷子にならないように一回で覚えて下さい」


 船室は茅子と相部屋であった。多数の隔壁により細分化された艦内は迷路のような配置であり、当たり前だが閉塞感を覚える。ハンモック生活を覚悟していたのだが、意外な事に3段ベッドであった。しかしものすごく狭い。寝返りを打てば床に真っ逆さまになることは避けられそうにない。

「…あとは簡素な机と物入れと衣紋掛けだけか。無機質な部屋ねぇ」

「これでも軍の船にしちゃ破格に上等ですよ。そりゃ日本郵船とかの貨客船には及びませんけど…」

 聞くところによると、元あった艦の一部からは大幅に改造され、この部屋もその工事の賜物だという。改造、と言われても、橘花はもとのこの船の出所を知らないのだが…

 柳行李を置いてふと見ると、よほど艦内を案内したいのか茅子がそわそわ落ち着きのない様子である。

「さて、他の場所も見て回りましょう。まずどこに行きます?私はお手洗いなんかお勧めしますよ。軍艦では本来ありえない婦人用のお手洗い。どうです、興味ありません?」

 やたら厠を推している。もしかすると厠に見学以外の用事があるのかもしれない。

「せっかくだし、見せてもらいましょかね」

「そおですか、ではいざ、艦内旅行へ!」

 元気よく茅子に連れて行かれた婦人用厠は、無機質ながらそれなりの配慮がなされていた(到着するなり茅子はしばらく案内を放棄したが)。


 艦内旅行は、まだまだ続く。




前回の投稿から少し空いてしまいました。申し訳ない。今後も以前のような高頻度投稿は望めそうにないので、おそれいりますが気長にお待ちください。

「茅子」とは前回の最後にちょっと出た陰陽師の女の子です。年齢は18とか。どれだけなり手が少ないのでしょう陰陽師。

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