戦場
鬨の声。
防壁へ突撃を繰り返す将兵の波。
防壁から降り注ぐ矢の群れと、防壁を狙う矢の群れ。
絶叫。
射抜かれて馬上から転げ落ちる騎士。
泥まみれになりながら防壁へ兵達が梯子を運ぶ。
矢に射たれ仲間の数を減らしながらも兵達は梯子を運ぶ。
鬨の声。
防壁から煮え湯がぶちまけられる。
絶叫。絶叫。
立て掛けられた梯子を斧で折ろうとする防壁の兵。
攻め手の矢がそれを阻止する。
防壁から落下する兵。
絶叫。絶叫。絶叫。
踏み潰された雪。
踏み潰された死の色。
……そして陽はまた落ちる。
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──今朝、城壁から外を眺めたら久方ぶりに青空だったわ。
一面の白い雪景色に抜ける様な青い空、そして塹壕で流れた貴方の血。
素敵なコントラストだと思わない?
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「長引き過ぎだ」
この戦は電撃的に攻め、素早く撤収するはずだった。
それが緒戦で大戦果を得て引き際を見誤った。レスター将軍はそう感じている。
若くして将軍に任じられたラウルの、将軍として初の戦である。戦功をあげさせて更なる励みとなれば、と思い王都まで攻めのぼってしまった。
レスター将軍のつぶやきにバーモント伯爵が口を開いた。
「ならばここらで和睦を打診すべきではないかな?君はどう思うラウル将軍」
「しかし陛下が補給品を送ってくださるというではありませんかバーモント卿。つまり陛下は王都陥落をお望みという事ですよ」
「まぁ……それはそうだが」
なにぶん将兵の士気が下がっている。
理由は温かい食事を配給するのが難しいからだ。冬、毎日の様に雪が降り寒風にさらされて食事はすぐに冷めてしまうのだ。
身体を暖める為とは云え、あまり酒を呑ませる訳にもいかない。
その時、通信宝珠から女の声が流れた。
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──補給品が明日届くそうね、でも兵は補充しないんですって。
悪いけど補給品はこちらでいただくわ、可哀想だから槍は残してあげる。
食べ物は……燃やしてあげるわね。
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「なんだと!?」
「な……何故」
王都に立て籠っている敵が、補給品の到着日を知っている。
しかも阻止すると予告してきたのだ。
「いけない!補給隊が襲われる」
補給隊は武装などしていない馬飼い達が主で、少数の護衛が随伴するだけだ。
奇襲されればひとたまりもない。
補給隊への援護を命令しようとしたラウル将軍に、レスター将軍が吠えた。
「無駄だラウル!」
「し、しかしみすみす……」
「この雪です……援護の兵が遭難しかねません。それに」
バーモント伯爵が沈痛な面持ちで告げる。
『彼女』が補給隊の情報を口にしたという事は、既に襲われた後なのだとレスター将軍もバーモント伯爵も気付いていた。