92。打開策
少し体調を崩してしまって、投稿がマバラですみません。
背後から強い力を感じて足を止めた。
「セノオ?どうした」
振り返れば、ガラタナが左手で顔を覆っている。
乗り物酔いをしたような吐き気が込み上げて、自然と足はガラタナに向けて動き出す。
「──ガラタナ!!!」
もう少しで手が届く所でガラタナの体の力が抜け、ガクンと地面に膝が落ち、体が傾いていく。
慌てて、抱き締めるように自分の体をぶつけて、ガラタナの体が地面に叩きつけられるのをなんとか阻止した。
──重い……意識が無い?
「ガラタナ目を開けて!ガラタナ!!」
「貸せ!」
アーネスト様が私とガラタナの間に入って、ガラタナを背負うと、手がブラリと垂れ下がる。
咄嗟にその手を握った。
「──っ」
僅かに握り返したような反応があり、こんな場面でも心は喜びを感じる。
「厄介だよな」
「え?」
すぐ横にあるアーネスト様に視線をずらすと、真っ直ぐに私を見ていた。
「諦めるなんて無理だろう?」
──もう潮時……なのかな──
ついさっき自分で確かに言った。思った。
でも今、この手を振り払うなんて到底できない。
コロコロ コロコロと……
「本当に、厄介」
困ったように笑えば、アーネスト様は同じように返してくれた。
「行くぞ。家は近いんだよな」
「うん」
アーネスト様とガラタナの荷物を持って、誘導しながら家まで小走りで向かうと、私達が家の敷地に入ったタイミングで、ジエンタさんが勢い良く飛び出してきた。
「良かった! ジエンタさん帰っていたのね!」
「セノオ!今、何かの術の力が──っえ!? ガラタナ!?」
「貴女がジエンタさんか、俺はアーネスト。こんな挨拶な上、不躾ですまないが、医者を呼んで欲しい。兄上が倒れたんだ」
ジエンタさんは無言のまま、アーネストの横へ行きガラタナを眺めた。
「ジエンタさん、強い力を感じたの」
「えぇ。双方の術が強く発動したのね。アーネスト、そこのソファに寝かせて」
双方? って??
ジエンタさんの言葉に引っ掛かっていると、アーネスト様が半端に開いた玄関ドアを開けてガラタナをリビングのソファに寝かせた。
未だ意識の無いガラタナを前にしても、落ち着き払ったジエンタさんの態度に安心感を覚える。
「兄上は大丈夫なのか?」
「大丈夫と言われれば大丈夫よ。セノオ、ガラタナの術式が読める?」
「術式なんて読んだことな……あ。もしかしてお父さんとガラタナを切り離したときのアレ?」
「そう。でもあのときと違って触れてはダメよ。術が壊れたら台無しだから」
私はソファの横に膝をついてガラタナの手を握り、目を瞑った。意識をガラタナの中に集中させると、少しして強い光が見えた。
お父さんとガラタナの時は紐のようなモノだったけれど、今度は術を使ったときに現れる陣だった。そしてその陣のまわりを弱い光が伺うように漂っている。
ジエンタさんの忠告通り、何もせずに意識を戻して目を開けた。
「強い光の陣と弱い光が見えたよ」
「そうね。陣は記憶操作の術式よ」
「弱いのは?」
ジエンタさんはボスンと一人掛けソファに勢い良く腰かけ、床に座っている私を呆れたように眺めた。
「セノオ、あの夜、記憶操作の術を掛けるとき、別のこと考えてなかった?」
あの夜……カノイ王国の人から私の記憶を消した夜だよね。確か……
「────忘れないでって……思って、え? まさか」
「まさかよ。記憶操作の力に押し負けたセノオの力。セリナの力を使った記憶操作の術が強いから、セノオの術が行き場を無くして燻ってるの」
「反対の効果を持つ術が2つ入ってるってことか。兄上はどうなるんだ?倒れたってことは良くないものなんだろう?」
「良くはないけど……放っておけばセノオの術は消えるし……このままでも問題はない……」
ジエンタさんにしては珍しく歯切れが悪い。
アーネスト様もジエンタさんの様子に違和感を感じたようで、オットマンに座ってジエンタさんに視線を合わせた。
「何か思い当たることがあるの?」
「えぇ……アーネストから通信具で話を聞いていたときから違和感があったのよ」
ジエンタさんは右手の人差し指を唇に当てて軽くなぞり、考えを巡らせるように目を細めた。
「あの夜、忘れるように指定した記憶は、あの夜までのセノオに関する事なの。
アーネストがセノオの情報を与えても、セノオを思い出すことがないだけで、アーネストが話した事を忘れることはない筈なんだけど、ガラタナはセノオのことを話すと耳鳴りがして聞き取れないと言っていたのよね?」
「あぁ。呆けたような顔をして、耳にも頭にも入ってこないようだった」
ジエンタさんはガラタナをチラリと見てニヤリと笑う。
「セノオの術がアーネストが語る過去に反応して、ガラタナを戻そうとしているのかもしれない。
その度に記憶操作の術がガラタナの体に不具合を起こして、押さえ込んでいる可能性があるわ。
ガラタナへは記憶操作の術が掛かりきっていないかもしれない」
「本当か!?」
2人がこちらを見るけれど……よくわからない。とは言い出せない雰囲気だ。ガラタナからの詳しい解説が欲しいが彼は今寝ている……。
ジエンタさんとアーネスト様の表情から内容を適当に言ってみる。
「ガ、ガラタナが思い出すかもしれないってこと?」
「えぇ」
良かった!!! 当たった!!
「だが、その場合は術全体に綻びが出来てしまうんじゃないのか?」
「掛かりきっていないなら出来ないわ。現にアーネストあなたがそうよ」
「お、俺?」
「そこに入っているものを出しなさい」
ジエンタさんが指差したのはアーネスト様の胸辺り。驚いたようにアーネスト様が内ポケットに手を入れると、中からは見慣れた柄の巾着が出てきた。
「あっそれ!」
「あぁ、セノオに返そうと思って持っていた」
巾着を開けて逆さにすると、ガラタナから貰ったヘアコームと指輪がコロンと手の上に乗った。
たった半年そこらでかなり懐かしく感じた。ヘアコームは綺麗に元通りになっている。
「ありがとうアーネスト」
ガラタナが私を好きでいてくれた証。強く握りしめた。
「礼を言われる筋合いはない。俺が再び見たとき、髪飾りは既に直っていたし、セノオが術を使ったんだろ?」
「……そんな術を掛けた覚え無いんだよね。それに直そうとして色々情報を集めてくれたんでしょう? やっぱりありがとうだよ」
そういうと、アーネスト様は照れたように視線を外してジエンタさんを見た。
「俺が術に掛からなかった理由が髪飾りなのか?」
アーネスト様が私の持つ髪飾りを見つめるので、私もヘアコームを摘まみ、何かあるのかと訝しげに仰ぎ見たが術がかかった跡は見当たらない。
「そっちじゃないわ」
「え?」
ジエンタさんが指差したのはテーブルの上の巾着だった。
「一針一針、元に戻って欲しいと願いを込めて作ったんでしょう? その巾着。
ただ願いを込めて術を掛けるよりもかなり強い術がかかっていたはずよ。その巾着を常に携帯していたんじゃない?」
「……あぁ。腕のいい銀細工師が見つかったらすぐに行けるようにと」
「アーネストが術を回避できたのはそのせいよ。髪飾りを直して余った力がアーネストにかかろうとした術を消していた」
「“元に戻していた”ということか。では巾着を持っていたのが兄上ならばこんなことにはなっていなかったのか……」
アーネスト様は目を伏せる。
カノイの情報をくれて、わざわざトルネオまで来てくれて、面倒なこと色々押し付けちゃって……本当に申し訳無い。
「ごめんね、アーネストの好意に甘えなければ、アーネストを巻き込まなくて済んだのに」
ガタッとアーネスト様が音をたててオットマンから立ち上がった。
「違う! そういうことじゃない!! 巾着を兄上が持っていたならセノオのことを忘れなかったということだ! 俺がセノオを忘れたかったとかそういう意味じゃない!! むしろ俺でラッキーとさえ思った! すまん!!」
真っ赤な顔で捲し立てるようにそう言ってくれる。
そこまで私のことを思っていてくれたと思うと素直に嬉しい。
「ありがとうアーネスト、嬉しい。これからもいい友人でいてね」
「──あ。あぁ」
アーネスト様は静かにオットマンに座り直した。
「アーネスト、セノオにはガラタナみたいにガンガン行かないと駄目よ」
「……尊敬するよ兄上」
ガラタナがどこにガンガン行ったのだろう。なんとなく聞ける雰囲気でもなく、2人の視線が眠るガラタナに集まったので合わせてみた。
幾分顔色も良くなって、心なしか気持ち良さそうだ。
ユルユルとガラタナの髪を撫でる。
「私の小さな光が記憶操作に勝つためにはどうしたらいいの?」
お母さんの力を使った術はその光の強さからいってもかなり強かった。
「そうね。ガラタナが目覚めたら過去の記憶を引き出すような忘れられないくらいのインパクトを与えられれば最高ね」
「物理なのか。弱い力に向けて力を送るとかではなく」
「離れてしまった術に術で干渉することは出来ないの。
今、ガラタナが倒れたのは、村に来てセノオの小さな光が活発に動いた可能性があるわ。ガラタナの気持ちを借りて大きくさせて記憶操作の術を打ち破る。やってみる価値はあると思うけど、どうする?」
ガラタナにインパクトを残す……か。どうすればいいんだろう。よく2人でしていたことと言えば、散髪、買い物、食事らへんだけど、インパクトが残せるかと言えば……うーん。
「失敗したら…?」
「弱い光はそのうち消えて、術が完成してしまうわね」
「でも新しく私を記憶することは出来るんだよね?」
「えぇ」
「頑張って親しくなって、告白したら受けてくれると思う?」
「厳しいかもね。この顔で貴族なら女には困ってないでしょうし、ガラタナはメリハリがついた体の派手系美人が好きそうよね」
「そう、だよね」
メリハリボディの派手系美人……悲しいくらい真逆だという自信がある。
本当になんでガラタナは私を選んでくれたんだろう。5年間求め続けた刷り込み?
「セッ、セノオ! スレンダーも素敵だと思うぞ!!
ジエンタさん! もうちょっと柔らかい言い回しは出来ないのか!!」
アーネストのフォローが辛い。
「まぁ、ガラタナの好みは知らないけど女に困らないっていうのはアーネストが一番わかってるんじゃない?」
「ぐ……」
馬車事故を目撃した後の記憶が無いってアーネスト様に聞いたから、19歳くらいの精神年齢なんだよね。来るもの拒まずな女性関係だったらしいし、貴族なんて肩書きもついて、私なんかわざわざ選ばなくて好みの女性はいくらでも……
「愛人くらいにはしてもらえるんじゃないかしら」
「あ、愛人……」
予想外の単語にゴクリと唾を飲んだ。
「だっ! ダメだダメだダメだ!」
アーネストがオットマンから勢い良く立ち上り、ガラタナの寝ているソファの後ろに立ち、バシーン!!!と結構な力でガラタナの頭を叩いた。
「兄上!! あんたはいつまで寝て──」
その瞬間、目の前で寝ていた筈のガラタナの両足が素早く上がり、一気に跳ね起きた。
寝起きとは思えない一連の見事な動きに惚けていると、ガラタナは肩口から枕元にいた私を睨んだ。
見たことのない冷たい目に背筋が寒くなる。
咄嗟に立ち上り一歩下がると、ガラタナは物凄く大きく目を見開いた。
読んでいただきありがとうございました。
誤字脱字ありましたら後程直します。
内容が変わらない程度に文章を追加するかもしれません(-人-;)
また読みに来ていただければ嬉しいです。
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