表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホントのカラダを探しています  作者: keitas
その先の運命
93/101

89。潮時

「なん……」

 声にならない声が零れた。


 何でガラタナが。


 確か180cm超えのトールに引けを取らない身長。切れ長で黄色みの強いグレーの目に、通った鼻筋、薄い唇にシャープな顎。


 相変わらずかっこいい。心臓、落ち着け!


 アッシュグレーのサラサラしたストレートの髪は私の記憶より少し短くなってる。誰に切って貰ったんだろう。いいなぁ。

 結局私がガラタナの髪を切ることは無かったなぁ。


 少し胸をズキズキとさせてぼんやり考えていたら、あっという間に、あちらとの距離は40m。


いや、もう30m。


 状況を整理する必要があるのに、全員足が長いから考える時間がどんどん減ってく!!


 急いで其々の対応をどうしたものかと頭をフル稼働する。


 アーネスト様はすべてを知っているから完全に味方。万一、ガラタナが同行したときの打ち合わせ通りでいい。


 ガラタナへは初対面の貴族への対応。名前はテオドール様呼び。もちろんアーネスト様から紹介があるか、ガラタナ本人が名乗った後でだ。


 トールは影セノオ時代のガラタナを知っている。万一ガラタナの話題を出されたらどう誤魔化せば……口を開く前に町に追い返すか。

 いや。誤魔化す必要もないか。ガラタナ本人は覚えてないんだし同名の別人と思うだろう。

 もしかしたら術のせいでガラタナの耳には聞こえないかもしれない。


 イケる! イケるぞ!

 急いで笑顔を作り、軽く手を振った。

「「セノオ」」


 トールとアーネスト様が同時に私を呼び、同時にお互いを睨んだ。

 え~と、このタイミングだと乗り合い馬車できっと一緒になったんだよね?

 町から村までは30分そこらなんだけど、何でこんなに険悪なムードになってるんだろう。トールは職人だけど商売人だしそこまで人当たり悪いわけでは無いと思うんだけど。

 ガラタナとも関係微妙だったし、ケイシィ家とは合わないのかな……ってトールのことはどうでもいい。


 そんなことよりなぜガラタナが居るのかだ。


「久しぶりだねアーネスト」

「あぁ。少し髪が伸びたなセノオ。よく似合っている」

「え?えへへ。少しは大人っぽくなるかと思って伸ばしてるの」

 今の私の髪は肩甲骨くらいまで伸びている。

 そういうのに疎そうなアーネスト様が気付くくらいにまで伸びたのかと思うと嬉しい。


じゃ、な、く、て!


 ガラタナを見れば、完全に猫を被った笑顔を浮かべた。覚悟はしていたけど本当に覚えてないんだな。

 私はちゃんと演技出来るかな。前のガラタナなら私の下手くそ演技なんて簡単に見破るだろうけど、今は私に興味もないしな。


 あ~ダメだ。マイナス思考のドツボにはまりそう。


「セノオ、すぐ上の兄のテオドールだ。母上の差し金で今朝突然現れたんだ。1人で来ると言ったのにすまないな。

 兄上、こちらはセノオ。俺の大切な友人です」


 アーネスト様の紹介と共にガラタナが一歩前に出た。


「初めまして。テオドール・ケイシィといいます。弟がよくトルネオに行きたいと騒いでいた意味がわかりました」

「兄上」

「こんな可愛らしい方がいたなら納得です」

「兄上!!!!」


 似非臭い笑顔。ガラタナを何も知らなければキャアキャアとミーハー心で楽しめただろう。

 思わず口角がひきつってしまった。“テオドール様”はこんな感じなのか。


「お初に御目にかかります。セノオと申します」

 

 恭しく頭を下げると、トールが焦ったように私の隣に並び、耳打ちしてきた。

「セッセノオ! まさかこの2人」

「まさかの伯爵子息様ズ」

どんどん顔色が青くなる。いや、あんた、どんだけ失礼な態度とったのよ。


「何でそんなのと知り合いなんだよ! 通りで良い生地の服着てると思っ──」


 顔の横にいたトールが仰け反った。


 後ろから引っ張られたようなトールを何事かと驚いて見れば、ガラタナが怖い顔で襟首を掴んでいた。


「えっガ──っ」

「兄上! なにを!」


 思わず名前を呼びそうになり、すぐ口を押さえた。

 アーネスト様が大きな声を出したので私の声は多分届いていないと思う。危ない……。

「あぁ失礼。女性と会話する距離ではないと思ったのでつい」


 ガラタナはトールの襟首をから手を離して、掌をこちらに向けて無罪だと言うようにヒラヒラと振った。


「じょ女性って! セノオとはガキの頃から一緒なんです! 今更女としてなんて見れません!!」

「トールはそういうんじゃないですよ。小等科の時からの腐れ縁なんです」

 真っ赤になって反論するトール。そんな興奮しなくてもちゃーんとわかってるよ。

 ポンポンとトールの二の腕を叩くと3人から冷たい視線が送られてきた。なんだこのデジャ・ビュ。


 

「ところでトールは村に何しに来たの?仕事?」


 テーラー(仕立て屋)のトールは、採寸に行くときの鞄をもち、服もしっかりとしたスーツを着ている。


「村長のとこ。冬に転んで膝と腰やったろ? いつも来店してたんだけど無理そうだって連絡来たからこうしてきた」


 理髪店()に来てくれたというのなら申し訳なさを感じるところだけれど、良かった。さっさと村長のところに行かせよう。


「そっか。じゃあがんばって」

「あ。夕方、ジエンタさんも連れてうち来ないか? 母さんが夕飯一緒にって」

「あ~今日は……」

「セノオは俺と約束している」


 アーネスト様はトールを軽く見上げ睨み付け、トールは不機嫌そうに横目でアーネスト様を見た。


「だから何で2人は喧嘩腰なの」

「「だってコイツが!!」」


 双方が双方に人差し指を立てて差し、こちらを向いた。思わず2人を目を細めて見てしまった。私は学校の先生か何かか。


 小等科の時トールはよく友達と喧嘩をしていたことを思い出す。本当にまさにこんな感じだった。2人は権力を振りかざすタイプではないとしても、貴族相手に同じ対応とは……恐ろしい奴だ。



「トールごめん。アーネストとは1か月前から予定組んでて、わざわざカノイから来てくれたの。おばさんにもごめんなさいって伝えて貰える?」

「カノイってあの?」

「あのカノイ王国」


 トールはポカーンと私を見ている。

 それもそうだろう。ほんの半年前までは新しい出会いを拒否して生きてきたんだ。

 隣国貴族がわざわざ辺鄙な村まで平民を訪ねてくるなんて、半年前の私が見てもポカーンとしてしまう。


「ガラタナさんの影響は本当に凄いな」

「「────っ」」


 突然のトールの発言に私とアーネスト様が息を飲む。

 咄嗟にガラタナの方を見なかった自分を誉めてあげたい。


 ちなみにアーネスト様は思いっきりガラタナを見ていた。

 視界の端では、俺ではないと首を振るガラタナが見え、安堵と寂しさがまた溢れた。


「そう、だね。()()の存在は大きいよ」

 ガラタナとは別人だというように“彼女”を強調する。



「セノ」

「ほら、早く仕事いきなよ! 村長待ってるよ!」

 これ以上爆弾を落とされたくないし、辛気くさくなりそうな雰囲気回避のため、トールの背をグイグイ押す。

 肩口からこちらを見ているトールと目があって溜め息をつかれた。なんだそれは。

「──本当に変なのに好かれんなお前」

「え?」

「なんでもねぇよ。あいつらお前んち泊まるんだろ? ジエンタさんもいるから大丈夫だろうけど、部屋の鍵ちゃんと閉めて寝ろよ」

「お母さんか──いてっ」


 軽いデコピンを私の額に当てて「じゃあな」と手を振りトールはいなくなった。

 思ったよりあっさりと引いてくれて助かった。

 

「じゃあ行きましょうか、アーネスト、テオドール様。ここからだと歩いて10分もかかりません」


 トールを見送り、3人で家に向かい歩き出す。

 アーネスト様が隣でガラタナは後ろ。全神経が後ろに行ってしまうのは致し方ないことだろう。

 

「ジエンタさんは家にいるのか?」

「会うのは初めてだったよね。今朝から漁に出てるよ」

「本当に漁師になったのか。凄いな。男でも大変だろうに」

「うん。でもまぁ……ね? 彼女は(術で)どうとでもなるし」

「あぁ、そうか。そうだな」


 アーネストとジエンタさんは通信具で既に会話しているので、彼女がどういう人かは知っている。あの上からの態度で降り注ぐ言葉の数々にも慣れたようだ。

 

「セノオさんはその方とご両親と住まれているんですか?」

「いえ。両親は5年前に他界して、今は友人と住んでいるんです」

「──すみません」

「もう昔のことですから。気になさらないで下さい」


 半月くらい前に1回した会話だな。あのときはリビングの写真を見ながらだったんだっけ。


「セノオは人気の理容師らしいですよ」

「そうなのか? トルネオに来る前に切ってしまって、それなら止めとけば良かったな」

「次回は是非」


 社交辞令。


 作られた笑顔。


 丁寧な口調。


 もう……やだな。


 今のガラタナと接していると嫌でもわかってしまう。


「セノオ? どうした大丈夫か?」

「ご、ごめん……ちょっとまって休憩」

「きゅ、休憩って……」



 私はガラタナに愛されてた。


 それはもう過去の話だ。


 最後にした約束通りガラタナは、ここに来てくれた。


「アーネスト、もう潮時……なのかな」

「────っ」


 目の奥、鼻にグッと力をいれて堪えるけれど、勝手に涙が溢れてくる。

 突然泣き出した変な女だと引かれるかもしれない。

 心配かけないようにせめて笑おうと口角を上げてみたけれど逆効果だったようで、アーネスト様が背中を撫でてくれた。


「兄上、セノオは調子が悪いようなので、兄上は町のカナエ婆さんの宿をとっておいて貰って良いですか? 俺は彼女を送っていきます。夕方までには行きますから」

「あ、あぁ。大丈夫なのか?」


「……すみませんテオドール様。今日が楽しみであまり眠れていなかったんです」


 みっともないけれど、鼻をすすりながら真っ直ぐガラタナを見つめる。

 だってきっとこれが最後。


「そうか。お大事に」

「はい。ありがとうございます。では、お元気で」

「じゃあ兄上、また後で」


 アーネスト様に背中を支えられて、ガラタナの視線を感じながら背を向けた。




これが本当に最後のサヨナラだ。










読んでいただきありがとうございました。

誤字脱字、後程修正すると思います。


次回は久しぶりにガラタナのターンになるかと思います。


また読みに来ていただければ嬉しいです。

評価、ブックマーク等も嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ