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ホントのカラダを探しています  作者: keitas
カノイ王国編
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76。愚弄と侮辱

※読みに来て頂きありがとうございます。

今回の話の中で職業や人を差別するような文言があります。苦手な方は戻ってください。

 執事さんに促されて夫人に続き屋敷に入る。

 案内されたのはエントランスの中央階段をのぼった正面の部屋。


「奥様、アメリア様とセノオ様がいらっしゃいました」


 執事さんがノックし、声をかけると「アメリアが来たわ! どうぞ!」という抑揚のついた美しい声が室内から聞こえた。


 執事さんが扉を開けると、目に入ってきたのは大きな窓だった。天井から床まである大きな窓は40畳程の部屋全体を明るく照らし、美しい中庭がよく見える。

 きっと自慢の部屋なんだろう。


 部屋の中央には曲線を描いた脚が美しい、白い大きな長テーブル。

 その上にはフルーツサンド、ケーキやクッキー、マカロンにチョコレートなど、色とりどりのお菓子が並ぶ。


 事前に聞いていたお茶会のメンバーを眺める。

 ご婦人方は学生時代の同窓生で、元々は皆、子爵令嬢だったそうだ。


 私たちの入室と共に立ち上がったのが、茶の髪を夜会巻きに上げた、深い青の瞳のポートマン子爵夫人。


 その向かいに座っているのがブルーム侯爵夫人とその娘、17歳のレベッカ様。

 柔らかそうな赤髪を編み込んでお揃いにしている。おっとりした優しそうな顔つきも似ているからこの2人が親子だろう。

 あとはケイシィ伯爵夫人と私なのだけれど……1人多い。



 プラチナブロンドの緩やかなウェーブの髪。青みの強いグレーの大きな目。キリッと上がった眉。通った鼻筋。ポテッとした小さな唇。背が高く、出るとこでて締まるところは絞まっている。

 鮮やかなピンクの体に添うようなドレスが良く似合う。

 レベッカ様の隣に座る、美人の代名詞のような少女……いや。カノイでは成人したてくらいかも。

 誰だろう。


 貴族様をマジマジと見るわけにもいかないので、早々に視線をホストのポートマン夫人に移した。

 ブルーム夫人とレベッカ様、ブロンド美女も立ち上がる。


「ようこそアメリア! セノオさん!」


「ごきげんよう。お招きありがとうルイーザ。イザベラ、レベッカもごきげんよう。そちらは確か……」


 夫人を伺うように、おどおどとブルーム夫人が口を開く。

「ごきげんようアメリア。突然でごめんなさいね。この子は姪のスカーレット。どうしても来たいと言われて」


「あぁ、イザベラの実家の……ごきげんようスカーレットさん」

「初めましてケイシィ伯爵夫人。スミス子爵が三女、スカーレットと申します」


 何故か苦笑いを見せた夫人に対し、スカーレット様が極上の微笑みを浮かべ美しいカーテシーを見せる。


「アメリア、そちらの可愛らしい方を紹介して下さいな」


 ポートマン夫人がそう言うと、全員の視線が私へと注がれる。とても優しい視線で、確かに身分で人を判断しない方々のようだ。

 スカーレット様一人を除いて。


「そうね! こちらはトルネオ王国からいらしたセノオさん。テオドールの婚約者よ」


 ちらりと夫人がこちらを見て私の背中に手を当てた。


「お初にお目にかかります。トルネオ王国から来ました、セノオと申します。よろしくお願いいたします。急なお願いにもかかわらず、お茶会にご招待頂きありがとうございます」


 スカートの裾をつまみ、軽く持ち上げて軽く腰を折った。

 スカーレット様のような美しいカーテシーは庶民の私には無理だ。バランスを崩すのが目に見えている。


 無難に挨拶を終えたが、スカーレット様の視線が痛い。

 まるでゴミでも見るようなそんな視線。ここまでくると(いさぎよ)過ぎて笑ってしまいそうだ。


「さぁさ皆さんお座りになって! 本日の主役はアメリアよ!」

「あら、(わたくし)?」

 ポートマン夫人の隣に夫人が座り、私がその隣。

 スカーレット様の前になった。嫌そうな視線が刺さる。


 いや、私だって嫌だよ。大人しくしているからせめて道端の石ころくらいに、気にしないでもらえないだろうか。


「それはそうよ! テオドールが帰って来たのたでしょう? 一報を聞いたときはそれはもう自分の事のように嬉しくて! 本当に良かったわねアメリア!」


 ポートマン夫人の言葉に、赤髪のブルーム夫人が今にも泣きそうな笑みを浮かべ、レベッカ様がウンウンと頷く。


「ありがとう。主人似のいい男に育っていて、しかもお嫁さんまで連れてきてくれて、最高に幸せなの」


 膝に重ねてあった手の上に夫人の手が重なりドキリとしてしまった。優しく微笑まれ……ほ、惚れてしまう!

 改めて自分が『ケイシィ家』に弱い事を実感する。


 夫人の幸せ話から始まり、話題は段々とカノイ貴族社会の噂話や派閥の話になっていった。

 平民のお茶会とは違い、貴族のお茶会とは生き残るための情報収集の場らしい。


 なのだけれど……ブルーム夫人だけ話に集中できていない気がする。チラチラと娘のレベッカ様と姪のスカーレット様を見遣る。


 不思議に思ったけれど、婦人達の話もわからないのでお茶とケーキを無心で食べていると、「ふふっ」と笑い声がきこえ、

穏やかに頬笑むレベッカ様と目が合った。とりあえず、合わせて微笑んでおく。


「セノオさん、母達の話は詰まらないでしょう? 私もなの。あちらでお話しませんか?」

「あら! レベッカ、大切なことなのよ!?」

「でもアメリア様、大体のことは学園でも話しているし頭に入っていますわ。それよりセノオさんとお話がしたいの。普段話せない方と話すのはワクワクするわ! セノオさんをお借りしても?」


 夫人はちらりとこちらを見る。まぁいいかと頷けば「何かあったら言って」と小声で言われた。


 レベッカ様と窓際にあるソファに座ると、当然のようにスカーレット様も付いてきて、メイドさんがローテーブルにお菓子とお茶を準備してくれた。


「私は一度トルネオ王国に行ったことがあるの。セノオさんはトルネオ王国のどこのご出身なの?」

「私は西部のカイヅ村というところです。気候も穏やかでとても大きくて綺麗な湖があるんです」

「素敵! 機会があればバカンスで行ってみたいわ」

「その際は是非ご案内させてください」


 社交辞令だとは思うけれど、レベッカ様は心からそう思ってくれている表情で話す。


「テオドール様とはどのように知り合ったのです?」


 それまで黙っていたスカーレット様が口を開いた。

「私も気になるわセノオさん!」


 レベッカ様までが乗り気になった。恋バナは貴族女性も好きらしい。


「テオドール様とは、その……写真で私を見初めてくださって、私を探して村まで会いに来てくれたんです」

 確かそういう設定だった、筈。


「まぁ! 素敵ですわね! まるで王子様のようですわ!」

 レベッカ様は少し赤らめた頬に手を当ててうっとりしている。実際は球体で現れたガラタナを箒で叩き落とすという色気なんて欠片もない出会いだったのだけれどな。


 興奮しているレベッカ様の隣でスカーレット様の眉間には深いシワが刻まれた。

「セノオさんはお仕事はしていらっしゃるの? それとも高等科?」

「理容師をしています」

「職業婦人でいらっしゃるのね。その歳でしっかりしているわ」


 私の歳で高等科に行っている人も居なくもないけれど、また年齢ギャップが発生している気がする。


「女性ですのに理容師?」


 鈴の鳴るようなスカーレット様の美しい声がはっきりとそう言った。クスクスと楽しそうに笑っているけれど、その内容に一瞬思考が止まった。


「……カノイでは理容師は男性の仕事なのでしょうか」

「居ないとはいいませんけど、人に刃物を向ける行為を女性がするものではないも思うの。

 客とはいえ、男性にも触れるのでしょう? テオドール様の婚約者として……今後カノイの貴族になるおつもりなら直ぐに辞めることをお薦め致しますわ」

「────っ」


「スカーレット! 何を言うの失礼でしょう! トルネオ王国は男女の雇用差別が少ない国なのよ」

「差別ではないわお姉様。区別よ」


 レベッカ様はサッと顔色を青くし、私と婦人方をチラチラと見て小声でスカーレット様を諌めるけれと、効き目はない。


 反論したいけれど、相手は貴族……階級差が頭をよぎる。

 夫人に迷惑が掛かるのは本意じゃない。


「でもレベッカお姉様。セノオさんはケイシィ家に来て孤児院の子供の散髪なんてしたらしいのよ?」

「……どこでそんな話を」

「学園でアーネスト様が話しているのを聞いたのよ。ただの平民ならいざ知らず、孤児の髪に触れるなんて……ねぇセノオさん」

「?……孤児だから……何なのですか?」


 鋭い視線がこちらに向けられ、スカーレット様の口許がグニャリと弧を描いた。


 今までの不快なものを見る目ではなく


「何って……孤児は汚いでしょう?」

「?」


 憐れなものを(あざけ)る。


「仕事でそんなことをしなければならないなんて貴女を尊敬するわ」

「───っ」


そんなものだった。


「不潔だと虫がわくというし」と、スカーレット様はコロコロ笑う。



──この人は……何を言ってるのだろう



 ガタガタガタと大きな窓が音を立てて揺れた。


「何? 風かしら?」

「木の葉は揺れていないけれど」

 目の前の2人は不思議そうな顔で、大きな音を立てた窓に向いた。



──あの子たちは汚くなんて無かった。皆、素敵な笑顔で「ありがとう」と笑って。



 窓は更にガタガタと今にも割れそうな音を立てる。


「セノオさん、スカーレット。向こうの席に戻りましょう。何だか怖いわ」



──キラキラした目。結った髪を揺らし、お姫様みたいと喜ぶ子ども。ガラタナも弟や妹を見るように懐かしそうに笑っていた。



「きゃあ!!」

 1枚の窓に斜めに小さく亀裂が走り、悲鳴が上がった。



──どれだけ美しく整えても着飾っても、あの子達の方が魅力的に笑う。


 その亀裂はバシッという音と共に蜘蛛の巣のように大きく広がった。



読んでいただきありがとうございました。

誤字脱字ありましたら申し訳ありません。


スカーレットが言ったことは、作者は全く思っておりません(≡人≡;)

次回はザマァ回というモノになるかと思います。


また読みに来て頂けたら嬉しいです(*^^*)

評価、ブックマーク等も嬉しいです!

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