8。街へ一緒に。
ガラタナ視点です。
村の集会所に来る乗り合いの馬車に乗り、30分ほど走れば隣町につく。
カイヅ村には教育機関が無く、子ども達は小等科と中等科に通うために毎日馬車に乗りこの町に来る。セノオもかつてその一人だったそうで、勝手知ったる人の街とばかりにスタスタと歩みを進める。
この街に来れば大抵の物は揃うが、王都での流行最先端が届くような栄え方の街ではないらしい。
あくまでもカイズ村よりは栄えている程度の町と強調して教えてくれた。
「随分と俺の町を扱き下ろしてくれるじゃねぇかセノオ!」
セノオと共に俺の服を買うために衣料店に向かっていた。
古い煉瓦造りの家が両側にビッチリと建つ細い裏路地を、隣町の説明を受けながら歩いていたのだが、突然背後から声をかけられた。長身で短髪で茶髪の青年だった。
セノオはその声だけで誰だかわかっていたようで、振り向き様に彼の名前を読んだ。
「トール! 丁度良かった。今トールの家に行くところだったの。どこかいっていたの?」
「オーダーメイドのお客の採寸。俺の話は無視か。」
「ぁいたっ」
仲良さげにセノオに強めのデコピンをかまし、セノオに構うことが嬉しいとばかりに頬を染めたトールという男を、俺は(随分と初だなぁ)と見ていた。
トールは二十歳そこらに見える。
俺は19歳までしかまともな人間として暮らしていなかったが、気になる女にはもうすこし積極的に色気を出して迫っていた気がする。
今朝のセノオの反応も初々しかったし、田舎だと純粋に育つもんなんだなぁと一人で納得していた。
「彼女は?? 何となくセノオに似てるけど……あ。俺、トールって言います」
「私?どちらかと言えばお母さんに似てない?」
「──そうか? まぁどっちでもいいけど。にしても美人さんですね。黒髪に黒目、肌の色だってエキゾチックだ。綺麗な二重に、スッと通った鼻筋に……やっぱりパーツがセノオに似てる」
「そこまで誉めちぎってからこっちに振られても反応にこまるんだけど」
「────っ」
トールは俺の容姿を誉めてからセノオに似てると言うことが、つまりはセノオが美人だということに繋がるとは思ってなかったらしい。
アホの子と認定しよう。
セノオも自分ではわかってなさそうだが、美少女の部類に入ると思う。
アッシュブロンドの細い髪。ブラウンのパッチリとした眼に長いまつげ。鼻筋も通ってるし、小ぶりでピンクの唇も愛らしい。
今日は髪を1つにまとめ高い位置に結っている為、凛とした雰囲気を醸し出している。
セノオもトールも赤い顔で微妙な空気を出している。
付き合ってはいないようだが……大分仲がいい。
二人について考えを巡らせていると何だかイライラしてきた。
「ガラタナ!────と、申します。セノオの親戚です。今日は私の服を1、2着見繕って貰おうと思いまして。よろしくお願いしますね」
突然大きな声で名乗った俺に、セノオとトールは2人して目を向け驚くが、その後続いた優しげな大人っぽい笑顔での挨拶にトールは赤くなり、セノオは恐怖を感じたのか青くなった。
「ガラタナさん……何か怒って」
伺うように俺に話しかけてきたセノオに畳み掛けるように質問する。
「そちらのトールさんとはどういうご関係で?」
「ハッ!ハイ!小等科時代の同級生デス!」
小等科の……同級生?
ちょっとまて? え? だって。
「セノオ……トルネオ王国の小等科の入学年齢は一律ではないの? どうみてもトールさんはセノオより歳上に……」
『ぷっ』と、トールの口から空気の漏れる音がした。
「ガラタナさん、セノオは二十歳だよ……くくっ」
眼球が落ちそうなくらい俺は目を見開いた。
笑い崩れ落ちたトールと、言ってなかったっけ?と顔にかいてあるセノオをマジマジと眺めた。
「あれ? でも親戚なのに知らなかった??」
「……遠縁、なんです。会ったのも昨日が初めてで」
「そうなんだ。かなり似てるのに」
トールの発言に思わず眉を寄せたがすぐに戻した。そして、スススっとトールに近づき、耳元で、
「似てますか? セノオは美少女ですよね」
「~~~~っ! 俺は! 先に! 店に戻ってる! ガラタナさんに似合いそうなの見繕っとくから、セノオは街案内でもしてろ!」
純情ボーイめ。
顔を真っ赤にして走り去るトールを冷めた目で眺める。
「トールに何て言ったの?ガラタナさん」
「……ガラタナ」
「へ?」
「年齢そんな変わんないし。呼び捨てでいいよ」
「わかった。ガラタナ。ガラタナか」
名前を連呼し慣らしているセノオを見ながら小さくため息をつく。
4つ差は結構上だと思うが、セノオが突っ込みを入れることはなくて安堵した。
セノオにどうこうしたいとは思わないが、5年もセノオの事を考えて生きてきたんだ。そんじょそこらの誰かにとられるのはシャクだ。
自分の独占欲が案外強かったことに自分で驚いた。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字ありましたら申し訳ありません。
次回も街ブラが続きます。
また読んで頂けたら嬉しいです(^^)