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ホントのカラダを探しています  作者: keitas
カノイ王国編
74/101

70。7色の感謝

 孤児院で青空散髪をやってから3日が過ぎた。


 イーサン様、アーネスト様は王都に戻り、ガラタナは、朝食後から昼食前までは家庭教師に座学を学び、昼食休憩後はオースティン叔父様に付いて表に出なくても良いようなケイシィ領の事務仕事を学んでいる。

 ガラタナに会えるのは1日3回の食事の時と、その後の休憩くらい。

 ガラタナの部屋には人目も気になるから何となく行き辛く、基本紳士なガラタナは、私の部屋に来て話をするなんてのもない。

 出会ってからほぼ一緒の生活だったから、ガラタナ不足が否めない。具体的にはティーカップに伸びる自分の手を見て“手を繋ぎたいな”と思う程だ……煩悩がヤバイ。


 食事時に見るガラタナは新しいことを覚えるのが楽しいのかイキイキとしてみえる。

 このままカノイに居たいとか言われたらどうしようかと本気で悩む。それに鳥のジエンタさんに言われた力のことも未だに話せていないから、どこかで一度きちんと話をしたい。


「セノオちゃん、来週王都で私の友人のお茶会に出てみない?」

「えっ?!」


 少し青が見える曇り空。美味しいお昼を食べて、夫人と私はガーデンの四阿で紅茶を飲みながら会話を楽しんでいた。

 ターニャさんと夫人付きのメイドさんも端に控えている。


 仕事を覚えるわけでもない私の滞在。寝る前にカノイ王国についてターニャさんに教えてもらい勉強はしているものの、内容は専ら夫人とのお茶会。


「私が出て大丈夫なのでしょうか……」

 貴族の茶会に平民が出る……想像だけでも肩身が狭い。

 気分を害する人もいるだろうし。


 眉尻を下げた私を、夫人はにこやかに受け止める。

「大丈夫よ。来週のお茶会を開くのは私の友人なの。招かれているのは私ともう一人。2人だけなのよ。それに基本的に身分については、彼女達等も無頓着だから安心してね」

「……あと、その、恥ずかしながらお茶の作法などもわからず」

「あら、そうだったの?」


 夫人は美しく揃えた指を口許に当て僅かに瞠目した。


「大丈夫! 一緒に行きましょう! 友人の娘も参加することもあるから、羨ましかったのよね」


 胸の前で手を合わせ少女のように頬笑む夫人を見て、ここまで言われて断るのも不敬かと思い、恐る恐る了承する。

 夫人は優雅に立ち上がった。

「そうと決まれば参加する旨の手紙を書かなければいけないわね!」


 後片付けに残ったターニャさんに頭を下げ、屋敷に向かって歩く夫人の後に続く。


 うちの娘も可愛い所を自慢しないと……とブツブツと独り言つ夫人。思わず顔が引き吊るが恥をかかせることのないよう礼儀作法をしっかりしなければと胸に固く誓った。


 玄関につきメイドさんが扉を開けると、家令のジェームスさんが外に出るところだった。

「あら。ジェームス出掛けるの?」

「いえ。旦那様がセノオ様をお呼びになっております」

「セノオちゃんを? 何かしら」

 夫人が不思議そうに私を見るけれど、私には呼び出されるような事をした覚えはない。

 夫人の目を見て首を傾げると、頭をポンポンと軽く叩かれた。

 え、何で??


「私も行くわ。いいでしょう? ジェームス」

 ジェームスさんは目を瞑り頭を軽く下げた。

 見た目は50代前半。オールバックでしっかり固められた白髪混じりの髪の毛。狐目。笑ったところをまだ見たことがなくて、隙がなくて少し怖い。

 失礼な話だと思うけれど、トルネオの貴族街でジーギスさんではなく、ジェームスさんに見付かっていたら……カノイには来なかったかもしれない。


 夫人がメイドさんに下がるように言い付け、3人で伯爵の書斎に向かった。


「旦那様、奥様とセノオ様をお連れ致しました」

「あぁ。入りなさい」

 ジェームスさんが扉をノックすると、すぐに中から返事が返ってきた。


 入室すると手前には立派な応接セットが置いてあり、その奥には、書類が沢山積まれた、これまた重厚感のある立派な机がある。

「座りなさい」

 伯爵がデスクから立ちあがり、ソファーに腰を下ろした。

 続いて夫人も伯爵の向かいに。

 ジーギスさんは扉横に立っている。


 私は……夫人の横だろうか。


 このソファー高そう。いや。全てが高そう。屋敷の調度品全て高そうだけれど、この部屋は更に……。

 一瞬本気で空気椅子を考えたが止めておいた。


「失礼します」

 ペコリと頭を下げ夫人の隣に座る。

 予想以上のフワフワソファーにバランスを崩しそうになるのを必死で耐えた。


「セノオさんにね、手紙が届いているんだ」

「手紙ですか?」


 伯爵が飾り気のない封筒をテーブルにおき、私の方に差し出した。表にはミミズが這ったようなカノイ文字で「セノオさま」と書いてあり、受け取って封筒の裏を見ても名前はない。


 チラリと伯爵をみれば、微笑んで孤児院からだよと教えてくれた。

「読んでみても……」

「どうぞ。君への手紙だ」


 封を開け、四つ折りにされた紙を開くと、虹色で書かれた文字、文字、文字。


「ありがとう」

「髪が伸びたらまたよろしく」

「お兄ちゃんお姉ちゃん大好き」

「私も髪を切る人になりたい」

など、子どもの字が散りばめられていた。


 青空散髪の可愛いお礼に自然と口許が弛む。


 一番下に小さく鉛筆で「がんばる」と書かれていた。

 誰だかはすぐわかった。もし次の手紙があるならいい報告が聞きたい。


「テオドールにも同じものが届いていてね。院長からもお礼の手紙を頂いたよ」

「セノオちゃんよければ見せてもらっても?」


 夫人に手紙を渡すと、すぐに嬉しそうに微笑んでくれた。

 「良かったわね。大事にするのよ」と手紙が戻され、頭を撫でられる。夫人は人を触るのが好きらしい。


「──はい。お義母様」

「あら!あらあらあら!!セノオちゃん可愛い」

 ぎゅうぎゅうと抱き締められ、懐かしい感覚がくすぐったくて、嬉しかった。

 ふと横を見れば……はくしゃくが なかまになりたそうに こちらをみている。


 ど、どうしよう。




「何をしているんですか?」


「あ」


 いつの間にか書斎の扉が開いていて、そこにオースティン叔父様とガラタナが笑顔で立っていた。



読んでいただきありがとうございました。

誤字脱字ありましたら申し訳ありません。


次はガラタナのターンです。


また読みに来て頂けると嬉しいです(*^^*)

評価、ブックマークも嬉しいです!

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