66。疼きと提案
アーネスト様がメイソン君を殴るシーンが遠目に見えた。
「───っえ!?」
つい脚がそちらに一歩進むとガラタナが後ろから両腕でお腹回りを抱き締めてきた。
「まだ行っちゃダメだよ呼ばれてない。イーサンもいるし大丈夫だよ」
「でも!──ちょっ!! ガラタナ外!! 何して」
うなじに温かいものが当たり刺激が走った。
思わず肩をすくめて身をよじり、ガラタナのアゴを抑えて必死で抵抗するけれど、お腹のホールドはキツくなるばかり。
「俺もかまってほしい」
「~~~~~~!!」
甘えるような瞳を向けられ思わずキュンと胸が締まった。
か……わいい……。
前髪を軽く触ると気持ち良さそうに目を細めた。
「テオドール、セノオ。その辺でいいか?」
「っ!?」
いつの間にか、アーネスト様達のいざこざは解決していたようで3人は私たちの真後ろまで来ていた。
「……見事なバカップル。本当に可哀想だなアーネスト」
「黙れメイソン」
アーネスト様の眉間には変わらずに深いシワが刻まれていたけれど、軽口を叩く2人の間にはもう殺伐とした空気は流れていなかった。
良かったと微笑むとメイソン君と視線が合ったが、何も話さない。
……相変わらず目付きが悪いな。
あ。もしかして。
「私はセノオといいます。私も平民なので気にせず会話をしてもらえると嬉しいです」
「え? あ。そうなんだ」
あからさまにメイソン君はホッとしたようだ。
位が上の人相手に先に話し掛けることは出来ない。国は関係ない常識だ。
「その……すまなかった。ありがとう」
ペコッと頭を下げるその様子からはスリをするような人にはもう見えなかった。
「セノオは感動すら覚えていたみたいだからそこまで気にしなくてもいいと思うよ。まぁ次はないと思うけど」
ガラタナが頭の上からフォローをいれてくれた。お腹のホールドはまだ外れない……。
「テオドール様、本当に帰っていらしたんですね。みんな喜びます」
ガラタナが伯爵家から拐われた当時は大々的に捜索が行われたと聞いた。生まれていなかった筈のメイソン君がその口調ということは街の……領のほとんどの人が知っていることなんだろう。
メイソン君の発言にガラタナは苦笑いを浮かべた。
「にしても腹が減った。俺達はガレットを食いに行くんだがメイソンもどうだ。イーサン兄様の奢りだ」
「え……俺もいいのか?」
アーネスト様の誘いにメイソン君は私達を見た。
私とガラタナは微笑み、イーサン様は「アーネストとセノオの友人なら仕方がない」と呆れ顔だ。
「本当に……おかしな奴等だ」
そう言いながらもメイソン君は初めて笑みを浮かべた。
私たちはガレットのお店に向かいながら繁華街を見て回った。あちらこちらから、イーサン様とアーネスト様、そして伯爵様にそっくりなガラタナを見て驚きの声があがった。
中には涙を流す人もいて、伯爵家がいかに領民に愛されているかを目の当たりにした。
ガレットのお店につく頃には両手一杯のお土産と、あちらこちらから勧められる試食で私はかなりお腹が膨れていた。
そんな状態で、何事もなくガレットのお店に入っていく4人。
「……セノオ、どうしたの?」
ドアの前に立ちっぱなしの私を不審がり、ガラタナがドアの途中で振り向いた。その隣ではアーネスト様もこちらを見ていた。
「……いや。あの、まだ食べれるの? 皆」
「なんだ? セノオは何か食べたのか?」
アーネスト様が首をかしげながら聞いてくる。
うん。可愛い。じゃなくて!!
「食べたよね!? アーネストも試食で結構食べてたよね!?」
「……セノオはあれで腹が膨れるのか」
凄いなぁとアーネストが目を丸くした後ろで、ガラタナが笑っていた。
「女性はそんなもんだと思うよ。昨日の今朝もセノオと母の食事の盛り付けは少なかっただろう?」
「!?」
まるで初耳だという顔をしたアーネスト様。
まさか15年生きてきて気づかなかったのか。
「確かに……夜会や舞踏会では女性は殆ど食べない……」
多分それはそんな場で食べたら淑女としてのなんやかんやの問題だと思う。
「あっははは!」
「笑うなメイソン!お前は知っていたのか!?」
「当たり前だろ!体のサイズも違うんだ同じ量が入ると思う方がどうかしている」
「まぁ例外もいるがな」とイーサン様が何かを思い出しながら付け加えた。沢山食べる女性騎士の方でもいるのだろうか。
「……入るぞ!」
メイソン君に揶揄われプリプリと怒るアーネスト様に腕を引かれて店に入った。
店内は腰板の代わりに煉瓦が積んであり、その上の壁はくすんだ白の土壁。
床は煉瓦タイル、奥には2段程下に降りる階段があり、そこからは焦げ茶色のフローリングになっている。
テーブルや椅子は同じく焦げ茶色で、テーブルにはいろんな色の小さなタイルで幾何学模様が、カウンター奥の食器棚にも黄色や青で幾何学模様が描かれた綺麗な皿が飾ってあった。
天井から下がるのは緑色の円柱グラスの様なものが沢山列なるシャンデリア。
トルネオ王国には無いだろう店内に外国を感じた。
「セノオは本当に食べなくても大丈夫なのか?」
先にレジで注文を済ませるらしく、イーサン様がカウンターの所から話し掛けてきた。
「あ。じゃあ紅茶だけお願いします!」
先に席についていた3人に追い付き、ガラタナの隣に座った。向かいでは、アーネスト様とメイソン君が楽しそうに話をしている。
もう数年の時間を埋めた様な2人……男の子って何か凄いなぁ。
そんな2人……いや、メイソン君を見ていると何だかウズウズしてくる。
「セノオどうしたの?」
ガラタナが私の違和感に気付いた。2人も私をみる。
う……やっぱり。
「あの……メイソン君、もしよろしければなんですが」
1度気になったらもうダメだった。
私はメイソン君に1つお願いをした。
読んでいただきありがとうございました。
誤字脱字ありましたら申し訳ありません。
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