64。溺れる
前半ガラタナ視点。
後半セノオ視点です。
トルネオ王国の貴族街に行く途中でセノオが手を離そうかと言ってきたときの気持ちが「あぁこういうことか」と少しわかった気がした。
俺と関係のあったディアナをセノオは知っている。
ディアナと俺が並んだ姿を想像すれば、セノオがあぁ言い出すのは、今なら簡単に想像が付いた。
セノオの見た目と同じ年齢の男と、セノオが仲良さげに並んだのを見たのは初めてだ。
アーネストと出会った時に言われた「似合わない」が今さら響く。確かに……俺よりは絵になっている。
俺はそちらを見ずに目を伏せた。
あぁ。あぁ。あぁ。あぁ。あぁ。あぁ。あぁ。あぁ。
もう。ダメだ。
「ひゃぁ!!!」
アーネストに笑いかけるセノオの目を後ろから覆った。
「兄様!?」
「テオドール! 何をしているの! やめなさい!!」
声をあげるアーネストと母を無視してセノオを持ち上げた。
「ガっラタナ!?」
「ちょっと休憩で。すぐ戻ってくるのでついてこないで下さい」
「「はぁ!?」」
真顔でそう言い、セノオを俵担ぎにして談話室をでた。
談話室からは、オースティン叔父の爆笑が聞こえてくる。アーネストが叫ぶ内容から、アーネストを叔父が羽交い締めにしているようだ。
父も母をなだめているらしい。
彼らは俺を観察していたんだなと思うと微妙な気持ちになるが、とりあえずはナイス父。叔父。
談話室を出てエントランスを通り、階段を上って少し廊下を歩くとセノオの部屋となっている客間だ。
部屋に入り、鍵を閉めセノオを降ろした。
「あ……の、ガラタ──ん」
すぐに深いキスをした。
角度を変えて何度も何度も。
息つく暇なんて与えないほど。
似合う似合わない?未成年に見える?そんなの知るか。
俺はセノオが好きでセノオも応えてくれる。
俺の他には誰もセノオの気持ちに入り込む隙なんて許さないくらい溺れさせる。
キスを繰り返すとセノオの体の力が抜けてきた。
唇をわずかに離し、ゼロ距離でその目を見る。
蕩けるようなブラウンの瞳に体の奥が疼いた。
「好きだよ」
自然と言葉が漏れた。
途端にそのブラウンはハッキリとした色を持ち、奥から涙が滲んできた。
「────っ!?」
「……ごめん、ごめんちがうの」
泣き顔を見せたくないのか、セノオは俺の胸に額を当てて両腕を背中に回してきた。
「好きって……初めて言われたから。嬉しかったの」
「────」
グッと。心臓が止まった。
そうか……言ってなかったか。
大したことのない力で背中を掴まれる。
それすらも可愛く感じて……。
「なぁ、セノオ。隣にいるのは俺でいい?」
「ガラタナがいいよ?」
結局溺れているのは俺なんだ。
グリグリと額を押し付けてくるセノオを抱き締めながら、俺が勝てることは二度と無いんだろうと天を仰いだ。
──────
「わぁ……可愛い街ですね」
午後はイーサン様、アーネスト様、ガラタナ、私の4人で馬車に乗り街へ出た。
伯爵邸を出て、教会を下る道に合流すると、昨夜見た街並みが一望できた。
街の真ん中よりを流れる大きな川。その回りにはビッチリと細かい家が建っている。
夜はわからなかったけれど、屋根の瓦がいろいろな種類の土でできているらしく、薄いピンクや黄色などが並び、とても可愛らしい。
「あれはなんの作物ですか?」
街から視線をはずすと、緑の作物が延々広がっていた。
「ブドウだ。ケイシィ領では葡萄酒造りが盛んなんだ。
冬は寒くて、土は水捌けがよく、あまり強くなくて何かを育てるには難しい環境なんだが、ブドウは良くとれる。ケイシィ領で作られる葡萄酒はブランド化されていて他の領からも一目おかれている」
イーサン様は自慢するような口調でそう説明してくれる。
「それは、一度飲んでみたいですね」
ガラタナが楽しそうにそう言えば、
「昨日は旅の疲れもあるだろうとアルコールは出なかったからな。今晩辺り出ると思うぞ。楽しみにしておくといい」
イーサン様も嬉しそうに笑みを見せる。
イーサン様もガラタナのようにザルなんだろうかと少し怖くなる。私にはきっと付き合いきれない。
「アーネストもお酒は強いの?」
そう問えば、向かいに座っていたアーネスト様の眉間に深いシワが刻まれた。
「アーネストは下戸だ」
「イーサン兄様!!」
「しかも絡み酒で質が悪い」
「余計なことを吹き込まないで下さい!」
楽しそうに兄弟喧嘩をしているが……。
絡み酒か。
チラリとガラタナをみれば、ばつの悪そうな顔をしていた。
この2人は酔ったときのタイプも似ているのか。
「セノオ。俺はこの体では酔わないからね」
何も言っていないのだけれど。良くも悪くもガラタナは私の表情を読むのが上手い。
「イーサン、葡萄酒のブドウは普通のものとは違うんですか?」
耐えられなくなったのか、ガラタナが話を変えた。
「あぁ……アルコールが出来るだけあって、普通に食べられているブドウより糖分も多いから食べても旨いが、皮が厚いし種も多いし酸味もあるから、好き嫌いは個々による」
そうイーサン様が言った後「面倒だから俺は食べない」とアーネスト様は付け足した。
「へぇ。そのまま食べるものは作ってはいないんですか?」
「食用のブドウも少しだが品種改良を続けている農家もある。その手のブドウは皮が薄くて実も大きい。その年一番のものは王家への献上品にもなるぞ」
突然出てきた王家という言葉に少し驚いた。
そんな大それたものうちの村にはない。
そんな他愛もない会話をしていると馬車が止まった。
「降りるぞ。ここから少し歩けば繁華街だ。孤児院には街を見ながら向かおう」
御者の方がドアを開けてくれ、イーサン様が降り、ガラタナが続く。ガラタナの手を借りて私が降りると、後ろからアーネスト様が降りてきて「昼はガレットを食べよう」と提案してきた。
「「ガレット?」」
私もガラタナも首を捻る。
「何だ。テオドール兄様もセノオも知らないのか? 何か……の粉を水? で薄く伸ばして焼いて、ハムとかチーズとか野菜とか半熟卵とかを包んで食べるんだよ」
すごい。すごいザックリとした説明だ。
「何かの粉ってなんだよ」
「俺がわかるわけが無いじゃないですかテオドール兄様。でもケイシィ領ではかなり昔から食べられている食事ですよ」
「そば粉だアーネスト。お前はもう少し領の事を覚えろ」
私の後ろにいたアーネスト様は呆れた顔の兄2人の元に小走りで行き、何やらキャンキャンと2人に食いついていた。
「わっ!」
兄弟仲良さげな様子を突っ立って見ていたら人がぶつかってきた。
「あ。すみません」
「あっいえ! こちらこそすみません。邪魔でしたよね」
私より少し高いくらいのやせ形の……男? 女の子?
前髪が目にかかるくらいのボブヘア……いや、おかっぱ。
その子は私が避けると、急いでいたのか、謝るやいなや駆け出した。
そして、同時に走り出したガラタナに捕まった。
読んで頂きありがとうございます。
セノオが呼ぶ、アーネスト等の呼び名ですが、呼べと言われているだけなので素直に従っていますが、ナレーション(?)での呼び名は様付けにしています。
ガラタナの名前もテオドールしか知らない目上の人がいる場合はテオドール様と呼んでいます。
また読みに来て頂ければ嬉しいです(*^^*)
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