62。三男アーネスト2
アーネスト視点です。
「5つ上……」
全くの予想外。
夕食が終わり、俺は自室に下がった。
既に風呂の準備がされていて、温い湯に浸かりながらもう長いこと呆然と天井を見上げている。
今日の夕食はテオドール兄様が物心ついた頃から、ジーギスが兄様を見つけるまでの話を聞きながらのものだった。
兄様の人生もかなりのものだったが、それ以上に同じ年くらいだと思っていたセノオが実は5つも上だったということが一番ショックだった。
24歳と20歳か。
年齢で言えば俺の方がセノオには合っているなんて思っていたから……それすらテオドール兄様には敵わなかった。
っていうか、あんなに可愛い20歳がいるのか……詐欺だろ……見た目だけなら俺の方が似合ってる。
いやでも今夜のセノオは17、8くらいには見えたな。
「綺麗……だったな」
何で俺が先に会わなかったんだろうなぁ。
セノオとテオドール兄様はどうみても相思相愛なのに……考えても仕方がないことばかり頭をよぎる。
ナイトウェアに着替えてゴロゴロとしていると、廊下から微かに声がが聞こえた気がして、耳を澄ました。
「──タ………ャ」
「────っ」
か細い女の泣き声
何度も繰り返されるその声に、全身に鳥肌が立ち、血の気がひいた。
だが本邸に幽霊が出るなんて聞いたこともない。
ドアに耳をつけて廊下を伺っていると、その声は屋敷の奥の方へと消えていった。
何なんだよもう……勘弁してくれ。今はそれどころじゃないんだよ。
そう思ったら段々とイライラしてきた。
セノオは言うなれば初恋だぞ……それが兄様の彼女でしかも5つも年上で……泣きたいのは俺の方だ。
ベッドから立ちあがり、廊下に出て声が消えた方向に歩くと、直ぐにまた声が聞こえてきた。
ランプにボンヤリと照らされた人影がみえた。
「おい! お前何をしている!」
「っ!──あっアーネスト様!!」
「────え?」
まさかのセノオだった。
セノオは俺を見るなり、目に涙を浮かべて嬉しそうに走ってきた。
やめてくれ。ちょっと嬉しくなってしまうからやめてくれ。
「何をしていたんだ? そっちは父様の書斎の方だぞ?」
「……似たような廊下とドアばかりで迷ってしまって。
使用人の方とも会わず、その……ターニャさんを呼びながら客間を探していたんです」
20歳にもなって迷子……とは思ったが、セノオは俯き、かなり落ち込んでいる。本人もそう思っているのだろう。
「夜はランプだけだし、初めてきた屋敷だ仕方がないだろう。使用人も下がる時間だしな。気にするな。送っていく」
「……すみません。えっと」
「ん?」
セノオの狼狽える様子を見て、俺は自分がセノオに手を差し出している事に気付いた。
「──っいや! 不安そうだなと思っただけだ! 嫌なら別に繋がなくても一向に構わない!!」
何をしているんだ俺は!年上の女性にすることじゃない!!
「あ!お!お気遣いありがとうございます。ちゃんと後を付いていきます!」
構わないと言いながらも、手を取らずにニコニコと笑うセノオを見て、何だかイライラして無理に手を握った。
「また迷子になられたら困る」
俺自身が意味不明で困る。
驚いた様だったが「すみません」とセノオは力なくヘニャリと笑った。
ぐっ……可愛い……。
「セノオは兄様の前に付き合いがあった人などはいるのか?」
「えっ!? あ……いえ、私はその……男の人にはモテないようで、ガラタナが初めてです」
尻すぼみに声が小さくなっていく。
初めてなのか……兄様が本気で羨ましい。
にしてもモテないことは決してないと思うが……トルネオ王国の男はどうなっているんだ?
「セノオは兄様のどこが好きで付き合い始めたんだ?」
そう問うと、セノオは少し考えた様に斜め上を見つめた。
「……よくわかりません」
意外な答えだった。兄様は背も高いし、顔もいい。セノオを想っているのは丸わかりだし、好きな要素なんていくらでもあるだろう。
「じゃあ何となく付き合っているのか?」
「何となく……いえ、魅力的な所は沢山有るんですでもそれが付き合う切っ掛けかと言えば……そうではなく……」
セノオは自分の気持ちを探るように思考を巡らせているようだった。
「隣に……いるのは私であってほしいと思ったんです。それだけではだめですかね?」
セノオは焦ったように微笑んだ。
「いや、良いんじゃないか?」
それはあまりにもシンプルで、俺にもわかる気持ちだった。
握る手に力が入る。
「明日の予定を聞いているか?」
「あ。えっと、伯爵の弟様にご挨拶のあと、イーサン様に街を案内してもらい、伯爵が寄付をしている孤児院に伺う筈だったと思います」
「──街には俺も同行しようと思うが良いか?」
楽しみですと笑うセノオ。引き寄せれば抱き締められる距離にいる兄様の彼女。
「ほら、着いたぞ」
「ありがとうございました。アーネスト様」
「……アーネストでいい。様はいらない」
「そっそれは無理です! 私は平民ですし!」
「兄様と結婚の意思があるのだろう? だったら構わないし、敬語もいらない」
「───で、でも……」
「それに俺は年下だ。ほら呼んでみろ」
「……ア、アーネスト。ありがとう」
申し訳なさそうに名をよび、困ったように微笑んだ。
思わず手が出そうになるのを堪えた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
あれだけ気にした自分の立ち位置を利用したことに、自分が意外とタフだったと驚く。
諦めるつもりだったのに、知れば知るほど拗らせていく。
初恋とは実に厄介な代物だった。
読んでいただきありがとうございました。
誤字脱字ありましたら申し訳ありません。
また読みに来て頂けたら嬉しいです(*^^*)
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