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ホントのカラダを探しています  作者: keitas
トルネオ王国編
6/101

6。その体の問題点

前半後半で場面が変わります。

 何も言えなかった。


 励ましの言葉も慰めの言葉もどれも安っぽく感じた。

 ただ涙が流れた。


「……セノオ。君が泣かなくてもいいんだよ」


 ガラタナさんは、食後にと淹れてあったコーヒーをカップに注ぎ、私の前に置いてくれた。


「この5年間、俺が目指したこの場所があって、セノオがちゃんといた。しかも会話もできて、人に戻れた。今俺がどれだけ幸せかわかる?」


 自分の分のコーヒーを注ぎ終えると、クスクスと笑いながら、私の涙を指で(すく)い、全て解決みたいな顔で笑う。


 でも私は昨夜、遠くなる意識の中で確かに聞いた。


『セノオ!!この体じゃなくて元の俺の体に戻してくれ!』


 ガラタナさんは絶対そう言っていた。この笑顔も言ってることも嘘では無いと思うけど…




────ちゃんと笑わせてあげたい。



 同情心か、結果を与えてあげられなかった罪悪感か。

 無意識に、向かいに座るガラタナさんの右手を両手で握っていた。

 視線がしっかり合う。


「もっと幸せになれる」

「────っ」

「ここからは私も一緒に探すから」


 ガラタナさんは目を大きく見開いたあと、顔を伏せた。


「……ありがとう」


 少し間が空き、弱々しくお礼を言われた。

 「こんなに嬉しいと思わなかった」そう言って前を向いたその瞳は少し潤んでいて、安心しきった笑みが浮かんでいた。


 トクンと一度心臓が跳ね上がった。





────────





「ガラタナさん、午後は街に買い物に行こう」


 ガラタナさんには、お母さんが生きていた頃の部屋を使ってもらうことにした。


 店の方は臨時休業にして、午前中を部屋の掃除に当てた。

 寝具類を洗濯して、洗えないものは天日干しする。


 ガラタナさんは、庭の物干し場でシーツをパンパンと両手で引っ張り、シワを伸ばして干していた。


「街へ?」

「うん。ガラタナさんが暮らしていく為の物が足りないでしょう?日用雑貨とか、服とか。家で着る分にはお母さんのでサイズが合いそうだけど、少し年上向けだし外で着るのはちょっとね。あと、隣のエレナさんに昨日のお礼をしに行きたいなって」


「了解」と笑顔が返ってくる。

 私も笑い返し、室内に戻ろうと身を翻したが、伝え忘れに気付いた。

「あ。そうだ。私お昼ご飯作っちゃうからお風呂お先にどうぞ。お湯溜めてあるよ。昨日入ってないでしょ?」


「え?」

キョトンとするガラタナさん。

「あ、もしかしてガラタナさんが育った国は湯槽には入らない?」


 そんな国があるというのは聞いたことがある。


 トルネオ王国は水資源豊富な国で水道等設備は高い水準を誇っていて、さらにこの村の大きな湖の水は、川の水と豊かな湧き水が合わさって出来ており、その湧き水を一部各家庭に引いている為、水の心配をすることなく毎日でもお風呂に入ることができる。


「あ、うん。シャワーくらいで済ませていたけど」

 ガラタナさんは微妙な顔を止めない。

「じゃあシャワーだけでもどうぞ?」


 そう言ったら、ガラタナさんは右手を額に当てて、

「見慣れてない訳じゃないし……いやでも、同意もなく」

 何かブツブツ言っている。


「ガラタナさん?」

 声をかけると真剣な顔でこちらをみた。


「セノオは平気?この体はセノオの影だよ?」

「?」

 ガラタナは体を指差す。


「俺は中身男だよ?」



「「…………。」」


 顔がひきつる。

 ガラタナさんが戸惑う意味をやっと理解した。

 あの体は私のだ!!!


 イヤイヤイヤイヤ!無理無理無理無理無理無理!!

「わ!私が洗う!!!!!」

 全力で挙手した。


 とりあえず頭はお店の洗髪台で済ませ、ガラタナさんを目隠しして脱衣場で服を脱いでもらった。


 キャミソール1枚のガラタナさんを見て今、私は驚愕している。

 いや、ちゃんと服を着ているときから薄々感じてはいたが、サイズが違う。

D……E……?


 私は自分のを見下ろした。

 何の障害もなく足が見える。


 なぜ……なぜ私の影なのに。解せぬ。

 手足が長いのとか大人っぽい顔とかは、長く伸びた影にガラタナさんが入ったからかな?とか思ったけど。

 なぜこのサイズまでちがうのか。長細い影に入ったら、ココも私と対して変わらないんじゃないのか!?


「セノオ?どうした?」

「……ガラタナさん。自分で洗って」


「へ?ちょっセノオ!?」

 パタンっと脱衣場の戸を閉めた。


 アレはもう私の体ではない。私の預かり知らぬ物となった。

 達者で暮らせ元私の影。


 遠い目をして私はお昼の準備を始めた。


 お風呂から上がってきたガラタナさんが「キャベツ料理好きなの?」と聞いて来たことにビクッとしながら無心でキャベツを頬張った。


チクショウ。




昔、キャベツは胸を大きくするというよくわからない噂が流れた記憶が…。




読んで頂きありがとうございました。


誤字脱字ありましたら申し訳ありません。

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