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ホントのカラダを探しています  作者: keitas
カノイ王国編
59/101

55。目覚め

 体が……動かない。


 私はずっと白い世界に立っている。

 上から舞うようにキラキラとした何かが落ちてきては私に入っていく。


 キレイ……ガラタナにも見せてあげたい。



 ガラ、タナ。

 ガラタナはどうしたんだろう。何で隣に居てくれないんだろう。




 次の瞬間、私は崖がそびえ立つ森にいた。

 ガラタナを襲う鈍く光る剣、赤色、叫び、焦り

「───っ!!!」


 やめて!お願い!やめてよ!!!じゃないと────


 剣が振り下ろされ、赤色が飛ぶ。



「きゃぁぁぁぁ!!」

「!セノオ!!」

「いやぁあ!ガラタナが!死んじゃう!!」


「大丈夫!!目を開けて!」


 目なら開いているでしょ!?

 ガラタナが崩れ落ちる姿が嫌でも入ってくる。


 誰かが私の腕を掴んだ。

 その腕を握り引き離そうとするけど全く動かない。



「離して!ガラタナが──」

「セノオ!!!俺はここにいる!!」

「────っ」

 抱き締められた様な重さが体にかかり、倒れたガラタナの姿は消え、黒が一面に広がった。

「目を開けて」


 導くような声に、重い……瞼を上げると光が少しだけ入った。


「セノオ」

「ガ、ラタ、ナ……?」


 すぐ前にある顔に手を伸ばし撫でると、くすぐったそうに目を細め、その手を取られた。


「みんな無事だよ。大丈夫」

「っふっうぅうぁぁ……」


 涙が止めどなく流れてくる。

 子どもの様に声をあげ泣きじゃくる私をガラタナはゆっくりと起こし抱き締めた。

 ガラタナの胸に顔を埋めると背中を撫でてくれた。

 「大丈夫」そう繰り返し降ってくる言葉に安心を覚え、肩で息をしなくなる頃、そっと離れてガラタナの顔をちゃんと見た。


「良かっ……」

「うん」

「危ないことしないで」

「うん」

「いやだからね」

「うん」

「離れないでね」

「うん」


 もっともっと沢山心配の言葉を告げたかったのに、回らない頭はこれが精一杯で、もどかしくなり、私から触れるくらいのキスをした。


 少し驚き照れた表情のガラタナを見て、愛おしさと安堵が広がり目を瞑る。

 ベッドに腰かけていたガラタナの体重が更に増し、小さく軋む音をたてた。




────コンコン


「テオドール、セノオは大丈夫か」

「「────っ!!」」


 ノック音とイーサン様の声が響いた。

「悲鳴が聞こえたが……落ち着いたか?」

 私の悲鳴で駆けつけ、声が無くなるまで廊下で待っていてくれたのだろう……。


「く……そ……」

 悔しそうに私の腹部あたりに崩れ落ちるガラタナ。

 私はといえば一瞬にして頭が冷え、自分からキスをし強請(ねだ)った事に頭を再加熱させた。


「テオドール? セノオ?」

 ドアの向こうでは変わらずにイーサン様が心配そうな声を出しているし、ガラタナは崩れ落ちている。

「はっはい!!起きました!!ガラタナ、早く行かな──ふっ!」

 返事をしないガラタナの代わりにそう言えば、突然ガラタナが起き上がり、絡めとるような深いキスをしてきた。


 目を見開くと黄色味の強いグレーの瞳と視線が交わった。

 ニヤリと笑みを浮かべながらガラタナが離れると


「今行きます」


 部屋からでていった。


「~~~~~~!!!」


 思わず顔を手で覆う。

 キスはして欲しかったけどこんな “夜100%のヤツ” をして欲しいわけではなかった!!!!

 違う!と否定したくても恥ずかしくて何と言っていいのかわからない!!もっと可愛いやつをしてください!?

 言えるわけがない!!


 ベッドに倒れ唸っていると、外で鐘が鳴った。

「……ん?」


 外は明るいから夕刻の鐘ではない……まさか……朝まで寝てたの!?

 というか、ここはどこ!?

 白い壁に乱張りのフローリング。カーテンのない木枠の小さな窓が2つに簡易ベッド。かなり窓殺風景な部屋。

 ガラタナもいたし、危険な場所ではないんだろう。


 自分の服を見れば、いつも着ている寝間着姿。

 デ……デシャヴ。


 着替えさせたのは誰……。


 考えちゃだめだ。と、ととととりあえず、ちゃんとした服を着よう。

 ベッドに隠れながら寝間着を脱ぎ、旅行カバンを開ける。

 薄桃色の服以外にお父さんが買った服を2、3着持ってきている。唯一あった寒色系。白いラッフル襟で茶色の花柄が一面に入ったミント色ワンピース。

 フリルとリボンとレースがふんだんに使われ甘々の仕上がりになっている……。


 両肩のところを両手で持ち上げる。

 持ってきたはいいが、これを着るには勇気がいる。

 ゴクリと喉をならしたときドアがノックされた。


「セノオ。入るよ」

「ひゃ!えっ!まって!今着替えてる!!」


 覚悟なんてしている暇なく、慌ててワンピースを着た。

 着心地はとてもいい……複雑だ。


 手鏡と櫛を出して軽く整える。

「あ……れ?ない」


 ガラタナから貰ったヘアコーム……鞄の中やベッドの下、部屋をあちらこちら探すが全く見当たらない。


 血の気が引き、冷や汗が出てきた。


「あのっガラタナ!」

 勢いよくドアを開けると、ガラタナは私を頭から爪先まで眺めて微笑んだ。

「似合うね。可愛い」


 キュン……とかしている場合じゃない!

「あのね!も…」

 貰ったヘアコームを無くした。

 言える? 言えるわけがない。


「も?」

「もうすぐご飯かな?お腹すいちゃって」

 く、苦し紛れ……。


「あぁ。そうだね。セノオは昨日の昼から食べてないしな……ごめん、もう少し我慢できる?」

「え?」

「応接間に……あ。そうか……あのねセノオ、ここは森を抜けた街の自警団なんだ。盗賊に襲われてからほぼ1日経ってる。今は次の日の昼だよ」

 なんと。朝ですらなかった。

 凄い寝てたんだな。どおりで体がスッキリしてるわけだ。


「それで今、向こうの応接間にケイシィ伯爵とフラメル伯爵が来てる」

「っ!」

 ケイシィ伯爵……つまりガラタナのお父さん。

 伯爵だしお父さんだしでWの緊張に背筋が伸びた。


「自警団とこの領地を治めるフラメル伯爵への報告と聴取はイーサンが昨日のうちに全て終わらせて、今朝着いたケイシィ伯爵に、さっきまでフラメル伯爵から今回の騒動の状況説明や謝罪があったそうだよ。

そこにセノオの悲鳴が聞こえて、イーサンが様子を見に来たんだ」


 表情を変えること無く淡々と話すガラタナ。

「会ったんだよね……大丈夫だった?」

「──あぁ親子の再会とかそっち系?」

「う、うん」

「うーん。こんなもんかって感じ。ケルトさんよりは普通のおじさんだったよ」

「ちょっその比べ方は伯爵に失礼よ」


 フッとお互いに笑みがこぼれた。

 いい感じに肩の力が抜けた。お父さんに感謝だな。


「体調が良ければセノオとも会いたいらしいんだけど、行ける?」

「うん。頑張る」


 ガラタナの手が腰に添えられ、緊張しながら応接間に向かう。

 他の扉とは違う、細やかな模様が彫られた扉をガラタナがノックした。

「テオドールです。セノオを連れてきました」

「入りなさい」

 ガラタナの声と質はすごく似ているけど少し低い声がした。

 扉を開けると豪華な応接セットがあり、おじさんが4人座っている。

 教授。自警団の制服を着たおじさん。良い仕立てのスーツを着た小太りダンディーのおじさん。この人がフラメル伯爵だろう。

 そして、ガラタナと同じ色合いで、似た顔。ケイシィ伯爵は直ぐにわかった。馬で駆け付けたのか身軽な服装だけれど、生地は良いもので、身から出る雰囲気に平民のオーラは一切ない。


 ガラタナが年をとったらこんな感じなんだな。ガラタナは父親似だ。間違いない。

 奥の壁際にはイーサン様とアーネスト様。その手前には伯爵。横にはガラタナ……。


 ガ…ガラタナパラダイスアゲイン!!!


 惚れ惚れしていると腰に添えられたガラタナの手に力が入り我に返った。

 うん。ガラタナの顔を見なくても分かる。気を確かにということだな。慌てて鼻息を整える。



「ノア、それでは私は失礼するよ。今回は巻き込んですまなかった。今後もよい付き合いをしてもらえると嬉しい。

カルロ殿、御父上には改めて謝罪に伺わせていただきたい」


 フラメル伯爵だろう人が立ちながらそう言うと、教授も立ちあがり、無言で軽く頭を下げた。


「こちらこそ力になれたのなら良かったよローガン。しばらく領地に要るつもりだからいつでも顔を出してくれ」

 ケイシィ伯爵は人好きのする笑顔で微笑むと、フラメル伯爵が微笑んだ。そしてガラタナをチラリと見た。

「本当に良かったな……ではな」


 頭を下げる私の横を通りフラメル伯爵は自警団を出ていった。


「セノオさんだね?」


 フラメル伯爵が消えた方を見ているとケイシィ伯爵から声が掛かった。

「はっはい!!トルネオ王国西部のカイヅ村で理容師をしております。セノオと申します!」

 言い終わると深く頭を下げた。


「そう固くならないで。テオドールの大切な方だとジーギスから聞いたよ。なるほど息子2人が入れ込むのもわかるね。とても可愛らしいお嬢さんだ」

「……2人?」

「父様! やめてください!」

「セノオ。聞かなくて良いよ」

 ガラタナとアーネスト様が同時に口を開いた。


「セノオさん、今回は愚息の行いが後手に回ってしまって迷惑をかけてすまなかったね」

「いっいえ!! むしろ私の方が皆様にご迷惑を掛けてしまって……申し訳ありませんでした」

 平民の私に頭まで下げそうな勢いの伯爵に焦り、慌ててこちらから謝罪する。

「……セノオさん、不躾ですまないんだが少し質問していいかい?」

「はい。なんなりと」


 伯爵からは、家族の有無、理髪店のこと、学歴などを聞かれた。

 ガラタナ……いや、伯爵家次男のテオドールには合わないと判断されたらどうしたら良いのだろう……正直、伯爵家の得になるような持ち駒が私には一切ない。



 いや。違うでしょ。


 前で揃えていた手がスカートを握りしめた。


 ガラタナをつれて村に帰る。そう決めたじゃないか。

 弱気になる気持ちを叱咤し、譲れない気持ちを込め伯爵を強く見つめた。


「───可愛いだけのお嬢さんではないようだね。引き離したらとんでもないことをやりそうだ」


 ニヤリと笑ったその顔には見覚えがありすぎた。

 何か良いことを思い付いた時のガラタナそっくりだ。


「テオドール、セノオさん。2人でカノイに住まないかい?」


読んでいただきありがとうございました。

誤字脱字ありましたら申し訳ありません。


また読みに来ていただければ嬉しいです!

評価、ブックマーク等も嬉しいです。

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