51。入国
今日は2本投稿しています。
後半は、前話「三男アーネスト」のセノオ視点です。少し前の時間軸から始まり、話は前には進みません。
国境を越える日、空は気持ちいいくらいの快晴。
食堂に集まる1時間前に私はガラタナの部屋を訪ねた。
「……お、はよ……う?」
急いで着替えてくれたのかスラックスとシャツを辛うじて引っ掻けただけのガラタナがかなり眠そうに出てきた。ボタンは掛かっておらず、見事な腹筋がチラチラと見えて盛大に目をそらした。
「そっそそ!そうだよね!!!寝てたよね!ごめん!」
テンパって大分気の利かない女になっていた。
行くことを事前に言っておけば良かったと後悔し、部屋に戻ろうとしたら腕を捕まれた。
「いいよ……もう起きたし。これで行かれたら起き損。おいで」
「えっ!? おいでって!」
そのままズルズルと引き込まれた。
部屋の中にはさっきまで寝ていただろう荒れたベッドと寝巻きが放り投げてあった。
……そういえば、ガラタナの寝起きを見るのは初めてかもしれない。
「で?どうしたの?」
ベッドに座りボタンを閉じながら、いつもより表情なく聞いてくる。ガラタナは寝起きlow発進なのか。
あ。ボタン掛け違えてる。
「あの、これを……」
私が差し出したのはガラタナから貰ったヘアコーム。
良かった。ガラタナが完全に起きた。
「───……要らなくなった?」
更に表情が無くなるガラタナを見てハッとした。
「いや! 違くて!! 私の髪を結って付けて欲しいの」
咄嗟に差し出したコームを握って胸元に戻す。危ない。とんでもない勘違いを生むところだった。
「……今日も夜まで馬車移動だと思うけど、平気?」
「うん。今日は会うでしょ??ご両親に。気合い入れたくて」
「……服もそれなんだ」
私が着ているのは以前、貴族街に来ていった白襟がついた薄桃のワンピース。
抵抗が無くなったわけでは無いけど2度目だから幾分すんなり着ることが出来た。
「うん。髪、お願いできる?」
「よろこんで」
部屋に備え付けのドレッサーに向かうとガラタナが後ろに立った。この感じ懐かしい。
「どんな感じにする?」
「ハーフアップで可愛い感じに」
「了解」
頭に当たる手は大きい。でも、壊れ物を扱うような触れ方は一緒。
鏡の中のガラタナと目があった。
「どうした?」
唇が弧を描き優しい眼差しが落ちてくる。
───あぁ。うん。この状態の心が一番シンプル。
「好き」
「──────っ」
ガラタナの頬にさっと朱がさした。
「……今か」
「タイミングおかしい?」
「うん……でもセノオらしい」
「元気出た」
「そりゃよかった。出来たよ」
ポンポンと頭を軽く叩かれ、コームの重さをしっかり感じる。
振り返って鏡で軽く見れば、複雑な編み込みが入っていた。
よくまぁあの短時間で。
「可愛い……本当にカフェ店長にするには惜しいなぁ」
「光栄です」
お店ではないとはいえ、懐かしい感じと共に店にいた時の気持ちを思い出すと、このところ大分気持ちがウジウジと弱っていたことがわかった。
「じゃあまた食堂でね!」
「えっ」
ニッと笑い、ガラタナの部屋を後にした。
「……初めて好きだと言われたな」
顔を赤くしたガラタナのそんな言葉も知らず、憑き物が落ちたようにスッキリした私は揚々と部屋に戻った。
4人で朝食をとり少しの休憩後、全員の体調は万全で国境検問所に向けて出発し、昼頃に到着した。
ジーギスさんは馬車を通して貰う為の手続きに向かった。
検問所はレンガ造りの建物で横にかなり長い。その中央には、30段くらいの横幅が大きな豪華な階段。その両脇に5段ほどの半地下に入る階段があった。
階段を上る人は殆ど無く、みんな半地下の方に入っていく。
「ところで国境ってどうやって越えるんですか? 音楽グループの人たちは書類がどうとか言ってましたけど」
私は国外に出たことがないのでかなり不安だ。
「ジーギスさんがちゃんと手続きしてくれているよ。ほら。これセノオちゃんの書類」
「身分証明書と通行許可申請書……これを出せば良いんですか?」
教授から手渡された数枚の紙にはカイズ村村長と領主様のサインが入っていた。
「そう。身分証明書と申請書は係りの人に渡して許可証を貰って。セノオちゃんは階段降りて1階で手続きして。俺とガラタナ君とジーギスさんは2階。ガラタナ君はちょっと特殊パターンだから時間がかかると思う。カノイ側も同じ建物の造りになっているから、通行が許可されたら外に出て階段を上ったところにある椅子に座って待っていて」
「はい」
「じゃあセノオまた後でね。知らない人に付いていかないように」
「うっ……はい」
教授は言わなかったけど、多分1階が平民で2階が貴族なんだろうな……
その差に気持ちが落ちそうになったのを堪えて1階に駆け込んだ。
中ではトルネオ語とカノイ語が飛び交っていてかなり賑やかで窓口も多い。
「こちらへどうぞ」
笑顔が素敵な係りの女性に案内され窓口に向かった。
必要書類は教授に貰ったまま握りしめていたので、手続きはすんなりと終えることが出来た。
「通行許可証はカノイ王国での身分証となりますので常に携帯しておいてください」
「はっはい!」
カノイ側の出入口にいた案内のお姉さんに「良い旅を」とカノイ語で言われ「ありがとう」と返すと微笑まれた。
おぉ、言葉が通じた……小等科レベルしか話せないけど、ちゃんと勉強しといて良かった。
国外に出るんだと気持ちが高揚した。
検問所を出ると、教授が言った通りトルネオ側と同じ作りだった。
貴族ではないのに上って良いのかな……なんて俯いて階段を上っていると、教授に座って待っているように言われた椅子に男の子が座っていた。
────ガ……ガラタナ!
その子はガラタナを小さく……15歳くらいにしたような容姿をしていてかなり心臓が高鳴った。
か、可愛い……。
あのサイズのガラタナを知っているから凄く可愛く見える。こんな感じだったんだろうな。
その子が座る席と1つ席を開けた椅子の前に立った。
……一言、何か言った方がいいよね??
「あの……こちら座ってもよろしいでしょうか」
あ。身なりも良いし貴族の子かもしれない。私から話しかけちゃダメだったかな……というか、通じた?
「えっあ!どうぞ!」
ちゃんと聞き取ってくれた上に、その子は気にしてもいないように椅子を進めてくれた。
少し幼いけど声も似てる。可愛い……。
「……あの」
躊躇いがちに声がかけられ、何か失礼があったかと焦った。心の中では、可愛い可愛いとかなり失礼だったから……もしかして声に出ていた? カノイ王国の成人は15歳だと聞くし……。
ちなみにトルネオは20歳を成人としていて、諸外国と比べてもかなり遅い。
そんな心配も杞憂に終わり、世間話の展開になり私のカノイ語は訛っていると指摘された。恥ずかしい……。
「へぇ学校で習っただけでそこまで話せるのは凄いよ」
おまけにフォローまで頂き……。
年下なのに良くできた良い子だなと、ついつい顔が綻んだ。
その後はカノイ語発音講座を開催してくれ、とても為になった。ガラタナのご両親に訛っていると思われたくなくて必死だ。
人差し指を口の前に出して唇を付き出していると、男の子の後ろの扉が開いて、ガッシリとした体格の長身男性が出てきた。
……格好いい……
え、何? カノイは格好いい人しか居ないの??
「アーネスト、何をしているんだ?」
「いっ!イーサン兄様!」
兄弟だったのね。あまり似ていないけれど髪と目の色は一緒だ。
「かっ!彼女も人を待っていると言うので話をしていただけです!」
ん…?
「───アーネスト様……イーサン様……」
どこかで聞いた気がする。
「どうかした??」
私を覗き込んできた男の子はまるで小さいガラタナ。
「あ、の……ケイシィ伯爵家の……ご子息様で……」
「そうだが。君は?」
やっ!やっぱり!私、気安く話しかけて!!!しまった!やらかした!!!!
慌てて立ち上り、一歩下がって頭を深く下げた。
「申し遅れました!わっ私はケイシィ伯爵家の次男……テオドール様の連れのセノオと申します!!」
怖くて頭を上げられないでいると、背後からガラタナの声がした。
読んでいただきありがとうございました。
誤字脱字ありましたら申し訳ありません。
また読みにきて頂けると嬉しいです(*^^*)
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