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ホントのカラダを探しています  作者: keitas
トルネオ王国編
5/101

5。ガラタナの過去2

引き続きガラタナ視点です。

 女性に掴まれ視界がおかしくなったとき、俺の中に映像が流れ込んできた、ポツポツと家が建つ水辺。見たことのない少女の笑顔。

 誰かに教えられたわけでもないのにその子の名前は『セノオ』だということを理解していた。


 だがそんな映像ことは、自分の置かれた現状の異常さから頭からぬけおちていた。


 『俺』を追わなくてはいけない。と、ハッとしたときには既に遅かった。

 辺りを見渡してもどこにも姿は見えず、意識の無かった男性と倒れた女性は亡くなったと聞こえてきた。

 自分の姿に戻れる手掛かりが無くなり途方に暮れた。


 頼れる人は居ないかと住み処(すみか)に戻るが俺の姿は誰にも見えないらしい。

 次第に俺が戻ってこないことで騒ぎになっていった。


 しばらく住み処に居た。声を出しても皆が俺に気づくことはなかった。

 何も言わずに消えた仲間はあまりいなかったが、元々バラバラだった孤児の集りのため、居なくなることは珍しいことでもなく、1ヶ月、2ヶ月と経つ頃には段々と俺についての話は減っていった。その様子を目の前で見せられ気が狂いそうだった。


 俺は住み処を出た。

 行くあてもなくフワフワと街を移動していると、公園の噴水で子どもたちが楽しそうに遊んでいる姿が目に入り、馬車で女性に掴まれたときに頭に流れてきた風景と女の子を思い出した。



 元の姿に戻れるかもしれない。

 あの風景は……セノオは俺の希望になった。

 彼女を探そう。


 幸い……というのは微妙だが疲れる体などない。それに元の体で走るよりもかなり速い速度で移動できた。


 建物の感じやセノオの服装からして違う国のモノだとわかる。

 対岸の見えない水辺だったので海だろうと、大陸の海岸線をまわる。

 1年、2年と過ぎて、目的の土地は一向に見つからず3年目に入った。

 稀に俺のことが見える人が居るが、皆一様に悲鳴をあげて逃げていく。自分が幽霊のようなものなんだと理解した。


 セノオを見つけたとしても会話になるのだろうかと不安に思う気持ちを閉じ込め、あの風景を探すが4年目に入る前にスタートした海岸まで戻ってきてしまった。


 他の大陸なのだろうか。だが俺が育った国は内陸にある上、同大陸の他国との交易でさえあまり盛んではない。あの女性が他の大陸から来たなんて考えにくい。

 そもそもあの風景の場所にセノオは居るのだろうか。もしかしたらあの風景もセノオも存在しないではないだろうかとマイナス思考になりかけたとき、スタートの街の道案内板に湖の文字を見付けた。


 それからは、何だか情けないが駅などで地図を広げている人の後ろからこっそりと地図を眺めて、大きな湖を探す旅になった。


 また1年が経ち、ようやく似た景色を見つけた。

 だが夜だったのでイマイチ同じ場所だと断定できない。

 建物も少し増えている気がする。


 朝になるまで散策しながら待とうと、明かりが灯る家々の横の道をフワフワと漂っていると、風に煽られガタガタと鳴る釣り看板の店があり、何の店だろうと近付いてみた。


 その時、扉が空いた。



 セノオだった。

 すこし成長して大きくなっている。

 夢だろうか……信じられなかった。


『……あなたは、セノオ?』


 見えてないかもしれない。聞こえないかもしれない。

 でも話しかけずにはいられなかった。


 フワフワと近付くと、悲鳴をあげられ凄い勢いでブッ叩かれた。

 叩くのか!叩かれたのは初めてだ!そもそも今の俺に物理攻撃が効くという衝撃と、セノオに認識してもらえた喜びで、久しぶりに笑いたくなった。


 完全に拒絶されたが、ここで諦めてたまるかとセノオの方を向き、腕を伸ばすように意識したら本当に腕があった。

 5年ぶりの感覚。指をニギニギと動かして叫んでしまった。


 だが俺の胸には二つの膨らみ。どう考えても俺の体ではない。


「セノオ!!この体じゃなくて元の俺の体に戻してくれ!」

 セノオの両手を取り、そう話したときにはセノオは気を失っていた。



 それから怒濤だった。

 悲鳴を聞いた隣人エレナさんが駆け付けてきた。

 扉を開けたら『黒光りするアイツ』がぶつかってきて悲鳴をあげ、卒倒したと説明した。

 彼女は「セノオちゃん虫嫌いだものねぇ」と苦笑いし、倒れているセノオを一緒に部屋まで運び、一応エレナさんに頼んで医者を連れてきてもらった。


 俺は自己紹介する暇もなく「親戚の人でしょう」と決めつけられ、彼女はホッとした顔をしていた。


 久しぶりに人と触れ合えた喜びと、長い間求めていたセノオをついに見つけた安堵。


 自然に涙が落ちていた。


 明日からの期待を胸に、眠るセノオを眺めながら、一晩枕元に寄り添っていた。

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字等ありましたら申し訳ありません。

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