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ホントのカラダを探しています  作者: keitas
カノイ王国編
46/101

閑話。冷水を下さい。

前半セノオ視点

後半ガラタナ視点です。


 ガラタナの体が戻り、夜が明けた。


 朝食が終わった頃に、自警団の人が村へ帰っても大丈夫だと伝えにきてくれて、出勤前だったお父さんからは「明日休んでちゃんと見送りするので帰らないように!」と念を押された。


 そんな経緯(いきさつ)で、私達は暇を持て余しており、ガラタナはキッチンの後片付けを。私は家の庭の手入れをしようと、勝手口のドアを開けた。


 空は快晴。

 雨が降ったから空気が澄んで日差しが気持ちいい。

 草をむしり、落ち葉を集めて袋に入れ、ブリキのジョウロを見つけ出し、勝手口の側の井戸の手押しポンプをギコギコと上下させる…そして…ふとしたときに思い出す。



 昨日……ガラタナとキスをした。

 抱き締められた後の貪るようなキスとは違って、蕩けるような優しいキスを何度も。


 なん………ど……も…


「──────っう! う! うわぁぁぁぁ!!!!」

 度々思い出される感触とガラタナのキス顔に悲鳴をあげながら、私は過去最高の速さで手押しポンプを動かす。




「精が出るねセノオ」

 その言葉と同時に頭に優しく帽子が被さった。


「───っガラタナ!キッチンは片付いたの?」

 勝手口からガラタナが顔をだした。

 今は……!今はダメだ!!


 平常心平常心と心で唱えながら、ジョボジョボと水道口から出てきた水がジョウロに注がれていくのを眺める。

 水はキラキラと輝いて、今……この煩悩が詰まった頭に被ったら、冷たくて気持ちいいだろう。

「うん。手伝おうか」

「花と芝生に水をあげるだけだから大丈夫」



 自警団の人への対応はガラタナがお父さんの振りをした。

 私からすると、お父さんが入っているガラタナとガラタナ本人では顔つきが結構違うんだけど、自警団の人が気付くことはなかった。


 細身だけどしっかりした体つき。ナヨッとした性格のお父さんが入るよりも、やっぱりしっくりくるし、その……。


 ガラタナをマジマジ見ていたら、ガラタナが“おいでおいで”と手を動かした。

 何事かと側に寄れば、耳元にガラタナの顔が近づき、ボソッと……。


「──エッチ」

「──っ!! 違う!! そういう意味で見てたんじゃない!!」


 ククッとガラタナから人懐こい笑みが零れた。揶揄われてる……。

「じゃあどういう意味で見てたの?」

「お、お父さんが入ってる時とは違って……そ、その……カッコいいなって」

「襲うよ?」

「何で!!!!」


 突然真顔になったガラタナに焦り、水の入ったブリキのジョウロを雑に持ち上げた。

「えっ!?」

 その瞬間、取っ手がポロっと外れ、結構な量の水が入ったジョウロが左足の甲に降ってきて鈍い音をたてた。


 ジョウロ本体は芝の上に虚しく転がった。


「────ぅ……いったぁぁぁ!!」

「セノオ! 大丈夫!? ゴメン!!」

「くぅ~ちょっとまって! とりあえずガラタナは悪くない! ちょっとまってて!!」

 私は踞り必死で左足を抑えた。今何も考えらんない。とにかく痛みが通りすぎるのを待った。


 少しして涙目でガラタナを見れば居るはずの所に姿は無く、

「うわっ!」

 突然、脇の下に手が入って体が浮き、子どものように抱っこされ、咄嗟に首にしがみついた。

 すぐに軒下にあったガーデンベンチに降ろされて靴を脱がされ水の張った樽に左足がつけられた。

 私が踞っている間に準備していてくれたのか……。


 打ったところが冷やされて患部がジーンと響く。

「気持ちいい……ありがとう」

「どういたしまして」


 私が足を冷やしている間に、濡れた靴が影干しにされ、取っ手の取れたジョウロに小さな穴が開けられてそこにネジがハマり、見事に再生し、あっという間に水やりが終了した。

 本当に何でも出来るなぁ。


 「後でちゃんと修理にだそう」と笑いながらガラタナも隣に座り、右手が軽く握られた。

 ……指の間に指を入れる、こ……恋人繋ぎというアレだ。


 少し指を動かして見ると、全体的に骨張ってて硬く、関節が太いのがわかる。大きい手。男の人だなとドキドキする。

 ガラタナの顔をバレない様に横目で覗き見る。

 女性的な感じは受けない綺麗な顔。切れ長の目。鼻筋も通って、もっといい服を着てそれなりの場所に居れば貴族と言っても、きっと誰も疑わない。


 ガラタナは気付いたら孤児だったと言っていた。

 ご両親はどんな人だったんだろう……まぁ綺麗な人だったんだろうな。




───────




 セノオのが横目で凄い見てくる上に、軽く繋いだ左手の人差し指と中指の第2関節あたりをセノオの人差し指が撫でる。


……誘われてる……のか?


 イヤイヤ。そっちの方には関しては今のところセノオに期待していない。珍しい生き物()を愛でていると思った方が良いだろう。


 別にこのままでもいいが、悪戯心が軽く湧いて、応じるように人差し指でセノオの人差し指を撫でたら、ビクリという振動がして動きが止まった。

 横を見れば向こうを向いてしまった。うなじまで真っ赤だ。


 後ろを向いたセノオの髪には、俺があげた髪飾りがセノオを飾っていて、ちっぽけな独占欲が満たされる。


 ……昨日の夜もセノオの頭に回した手にコレが当たって何とか理性を保っていられた。

 女性に対してこんな慎重なのは初めてだ。


 サラサラと風になびく肩ほどの髪をすくうと、セノオは驚いたようにこちらを見た。


「髪は伸ばさないの? 成人女性で短い髪は珍しいよね」

「え? あ……伸ばしたいなとは思ってるんだけど、伸びにくい上に、町に数件理美容室があって、ついフラッと入っちゃうんだよね」

「……研究熱心すぎるでしょ」

「長い方が好き? なら、伸ばそうかな」

「────っ」

 はにかんだ笑顔でセノオが俺を見上げる。


 ダメだ……身長差が出来たせいで、上目遣いになりやすい上に、セノオが俺を意識しすぎてるのが丸わかりで……。


 性に関してはそこまで貪欲ではないけど、我慢なんてしたこと無いから……これ以上この家に二人で居るのは、非常に不味い。


 抱き締めたい……。


 思考をかき消すように頭を振ってセノオの足元を見れば、樽の水がキラキラと光っていて、この煩悩しかない頭にぶっかけたらさぞかし気持ちいいだろうと本気で思った。

読んでいただきありがとうございました。

誤字脱字ありましたら申し訳ありません。


今日はこのあともう一話投稿予定です。


また来ていただけると嬉しいです。

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