41。許せない
長かったので半分に割りました。
今日はこの後にもう一本投稿します。
「教授タオル使ってください」
「あ。ありがとうセノオちゃん」
教授は大きな箱の荷物を慎重に廊下に置き、着ていたレインコートを脱いでタオルで髪や顔を拭いた。
「カルロ、一体どうして……何で今日だとわかったんだ」
「どうしたもこうしたもあるか。本当に友達甲斐の無い奴だな。盗み聞きしてたんだよ。前にカフェテリアで話してたろ?」
全く気付かなかった。お父さんも同じらしく、苦い顔をしている。ガラタナを見れば……あぁ。知ってたのね。真顔だけど少し演技臭い。
「試しに来たら窓から明かりが一切漏れていなかったから、当たりだろうと押し掛けたのさ」
「お父さんには教授にお伝えするように言ったんですが……」
冷たい目でお父さんを一瞥する。
「ちっ違いますよセノオさん!カルロはあの日から研究室には来ませんでしたから言えなかったんです!」
「まぁ、そうだが。授業には出ていたから言おうと思えば言えただろう」
「───っ」
教授は飄々とそう答え、濡れたズボンの裾で廊下を濡らさないようになのか、クルクルと巻いている。
「……すまないが、カルロを今夜家にあげるつもりはない。帰ってくれ」
お父さんは踵を返しリビングへと歩きだした。
「お父さん!?」
「──またお前は!!」
バタバタと教授は足音を立ててお父さんを追いかけ、肩をつかんだ。
「このまま魂になってしまったら永遠に1人で彷徨う事になるんだぞ!? そんなの俺は認めない!!!」
「教授、落ち着いてください!」
今にも手が出そうな教授の腕をガラタナが押さえた。
私は教授が「永遠に1人」と言ったことが耳に残った。
私とは会話も出来るし触れることも出来るのに……
視界の端にジエンタさんが写り、あぁ。そういうことかと納得した。私と居られるのはほんの一瞬で、気が遠くなるほどの永遠の時間を1人過ごさなきゃいけなくなるのか……
教授はお父さんを本当に大事に思ってくれている。
きっとそれは……
「ちゃんと言ったら?お父さん」
お父さんも一緒だ。
「何を……言うんですかセノオさん」
「来るもの拒まずな、お父さんが教授を拒むのは理由があるんでしょ?」
言い逃れが出来ないようにお父さんを正面から見据えた。
「───っ……本当にセノオさんはどんどんセリナさんに似てくる……敵いませんね」
苦笑いを浮かべた後、お父さんは教授に向き直った。
「僕がテオとしてこの国に戻り、カルロに会った時、カルロはかなり疲れた顔をしていただろう」
「……仕事が立て込んでたんだ」
「嘘をつかないでくれ。僕が危惧しているのはそれだよ」
「意味がわからない」
「……再会から少ししてカルロの家で夕飯を食べたことを覚えているか?」
頷きながら「あぁ」と言った教授は、それがどうしたというような怪訝な表情を浮かべ、腕を組んだ。
「帰り際、カーラさんが僕を追いかけてきて“ありがとう”と涙を流したんだよ。中身がケルトとは知らず、初めて会ったテオにだ」
「カーラが……そんなこと聞いたことがない」
「カーラさんって……教授の??」
「奥さんです。とても明るくて、涙とはあまり繋がらない印象の方なんですよ。
彼女は、カルロが僕の死後、仕事で家に殆んど帰ってこなくなり、過労死でもしてしまうんじゃないかと気が気ではなかったそうです。それくらいあの時のカルロは危うかった」
「それじゃあお父さんは……」
「その……僕の事を忘れて欲しかった。嫌って欲しかったのですが」
お父さんは言葉に詰まり、視線を落とした。
「僕はこんな性格ですから、友人は定着しませんし、実家の家族も上辺だけの付き合いしか出来ませんでした。でもカルロは違いました。
本当の……兄のように思うようになりました。そんな人がまた僕のせいで壊れてしまうのを、僕は許せない」
教授はガラタナの手を払った。
「……正直、またお前が居なくなって、前のようにならないかと言われれば自信はない。だが、見くびるなよケルト。俺は策を練ってきた」
「策?」
「あれだ」
教授は廊下に置かれた大きな箱を指差した。
……丁度、成人男性が入りそうなサイズ──ゴクリ──と喉がなった。まさか……
「───っ……カルロ。いくら僕の為とはいえ、犯罪は受け入れられないよ……その人を出してあげて欲しい」
お父さんは教授の肩に手を置き諭した。
「は!? 違う! これは!」
教授が箱に駆け寄り蓋を開けると、人の髪の毛が見えた。
「ひっ」
小さく悲鳴をあげてしまい、ガラタナが私を後ろに引いた。
教授は笑いながらソレの脇の下に腕をいれて引っ張りあげた。
「大丈夫。人形だよ」
「にん……ぎょう……って! この顔!」
壁を背にして丁寧に座らされたその人形はお父さんと同じ顔をしていた。まるで生きているように精巧に作られている。
「知り合いの人形師に頼んで急いで作って貰ったんだ。セノオちゃんにケルトの魂を入れて貰おうと思って。俺が死ぬとき、燃やして一緒にちゃんとあの世に連れていってやるよ」
お父さんは人形に近寄りマジマジと呆れたように眺めた。
私は微妙に怖くて近寄れない。
「人形師ってリカルドのところだろう? 嫌がったろ」
「……あぁ。ケルトの人形を作って欲しいと言ったときに精神科を薦められた」
「幼くして亡くなった子どもとかの人形注文ならあるだろうけど、友人のオッサンを作れと言われたらそうなるだろうな」
そう言いながら、お父さんの指が人形の肩に触れたとき、人形が傾き床に倒れた。
その衝撃で人形の目と口がカパッとクルミ割り人形のように開いた。
「「「「───────っ!!!!」」」」
戦慄が走った!!!こっ!恐すぎる!!
ガラタナの警戒も強まった!!
お父さんも同じだったのか直ぐ様距離をとって固まった!
今までのピリピリした空気が嫌だったのか存在を消すようにしていたジエンタさんもさすがに後ろに飛んだ!!
「カカッカルロ。これは……?」
「影でも話せるなら人形でも話せるだろうと口を開けられるようにしてもらった。目も瞬き可能だ」
教授はとても満足そうに仁王立ちしている。
「嫌だ! 僕はこれには入らない!!」
「何だと!? 折角作ってやったのに無駄にする気か!!」
「絶対嫌だ!! こんな口をカパカパ開けて喋る自分なんて恐すぎる!!」
申し訳ないがこれに関してはお父さんと同意見だ。
「─────っ! じゃあ最終手段だ! とりあえず俺の影に入れ! 他に方法が見つかったらまたセノオちゃんに入れてもらおう!」
「嫌だ!!! そんなタップリした腹を僕の体とは認めない!!!」
「何だと!!!!!!」
多分この言い合いは堂々巡りな気がする。
「俺の影にどうぞ」
呆れて眺めていると苦笑いしながら、ガラタナが名乗りをあげた。
読んでいただきありがとうございました。
誤字脱字ありましたら申し訳ありません。
どうしようもないオジサンたちを書くのが割りと好きなんだとわかってしまいました…
また読みに来ていただけると嬉しいです。
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