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ホントのカラダを探しています  作者: keitas
トルネオ王国編
42/101

39。月暈

前半セノオ視点

後半ガラタナ視点です。


前半、イチャイチャさせたかったので長くなってます。

 嵐のようにやって来て、去っていったディアナさんを見送った。


 ディアナさんに煽られていたとはいえ「邪魔」とか「私の」とか……冷静になると凄いことを言ってしまい、恥ずかしさから私は後ろのガラタナを振り返り見ることができない。


「セノオ」

「──────はっいっ!!」

 後ろからスルッとガラタナに手を取られた。

 おっ!お父さんも見てるのに!!!!


「ケルトさん大学に寄っていっても良いですか?」

「え?」

「はい。研究室に薬箱があるのでどうぞ。医務室よりは近いですし手当てしてから行ってください」

「は? 何? 二人とも」

「気づいてないの?口と掌。怪我してる」

「へ???」


 掌を見ると爪の跡に沿って血が滲んでいて、唇を触ると指先に血がついた。

 さっき力を入れたときかな……興奮していたからか、全く気付かなかった。


 理容師をしているので、お客さんに触ることになる爪の手入れはしっかりやっていたんだけれど、旅立ってから数日。そんなことをしている暇は無く、この8年で最長に伸びていた。


「意外と簡単に爪で皮膚って切れるものなのね……気を付けないと…」

「ディアナは武器としても伸ばしてるよ。叩かれたときに切れるとダブルで結構痛い」 

 叩かれたことがあるのか……本当にハードな生活送ってたんだなとガラタナを不憫に感じながら、ディアナさんに絡まれていた守衛さんに挨拶をして南門を通り、研修室に向かう。


 扉を開けると、

「あっ! だめ! テオさん! 開けないで!!!」

 キャロルさんが箒片手に大立回りをしていた。


 急いで中に入り、扉を閉める

「おはようございます。どうかしましたか?」

「ネズミが一匹いたのよ!本が噛られる前に何とかしなきゃ!!」

「……キャロルさんには無理じゃないでしょうか。事務室に言って業者を呼んでもらうように手配してきます」

「お願い!!」

そう言ってキャロルさんは箒を頭上に持ち上げたまま、本の森へ、お父さんは薬箱を取りに部屋の奥へと消えていき、ジエンタさんは『ネズミって見たことないのよね』とキャロルさんを追っていった。


 私は水で傷口を綺麗にさせて貰い、廊下に出た。


 医務室前とは違って、特に見るものが何もない研究棟。

 廊下は赤茶の絨毯敷で4、5人横に並べるほどの広さがある。

 所々に、座るのに丁度良い高さに設計された出窓があり、クッションが置いてあった。


 私達はそこに座ってお父さんを待つことにした。




「はい!薬箱です。僕は事務室に行きますが、ガラタナ君任せて大丈夫ですよね?」

「はい」

 ガラタナが30センチくらいの薬箱を受け取り、私との間に置いてガサゴソと物色する。

「そこまで深い傷じゃないし、血はもう止まってるけど一応ね」


 ガラタナは、左足を片足あぐらにして出窓に乗り、私の方に向いて座った。スカートで隠れているとはいえ、誰かに見られたら女子ならちょっと恥ずかしい雑な体勢。

 それですら何だかカッコ良く見えてしまって困る。


 戸惑っていたら手を取られ、ガーゼを当てて包帯を巻いてくれた。その手付きはかなり慣れていて見入ってしまった。


 包帯が巻かれた手が珍しく、マジマジと見ていると、ガラタナの手が伸びてきて「こっちは大丈夫だね」と左親指で唇を撫でられた。

「─────っ!」


 親指は離れること無くフニフニと感触を楽しむように動いている。

 ガラタナの顔が真剣なので何をどうしたらいいのか……とりあえず恥ずかしい。

 頭に血が上りすぎて鼻からも血が出そうだ。

 心臓がいくつあっても足りないのでそろそろ止めて欲しいが、ガラタナの顔は変わらず真剣だ。

 もしかしてこれは怪我の確認なのだろうか……




────いやいや。そんな筈ない。

 脳内突っ込みを入れたところで、“ガラタナ止めて欲しい”という言葉を言おうと、口を開けた。

 その瞬間、口内にガラタナの指が入ってきた。

「!?」


 そのまま舌を触り、指が抜かれるとき下唇の粘膜が指にくっつき、プルっと揺れた。

 ほんの一瞬の出来事だけど、ウッカリ入ってしまったにしては長い時間。

 唖然としていると、ガラタナはその指に自分の口を当てた。


 私はヒュッと空気を吸った。確信犯!!


 くっ……………………どぉ! どおしたらいい!!

 何だこの漏れだす色気は!背景が紫混じりのピンクに見えた!


「なに……してんのよ……」

 私は両手を顔に当て、膝におでこをつけて小さくなった。

 多分いや、きっとガラタナは、これならばセーフだろうと確実に思っている。

 私的には完全アウトだ!


 ニッコリと笑うガラタナを見て行く先がかなり不安になった……レベルが……違いすぎる……




───────





 セノオとディアナの口喧嘩で予期せぬセノオの言葉を聞かせて貰い、少々俺のタガが外れた。


 許容内だと思ったが、その後美容室に到着するまでセノオは何だかよそよそしかった。

 まったく……可愛くて仕方がない。




 王都で1番の美容室。

 セノオの髪は肩ほどしかないので、美容室では俺の髪を揃える程度に切ってもらった。

 「こんなことなら髪伸ばしておくんだった」と、悔しそうにしていたセノオは、店に入るなり目を輝かせ、緊張しながらキョロキョロと待ち合いに座っていた。


 俺を担当した青年に「妹は村で理容師をしているんです。大変失礼かとも思うのですが、折角遠い王都まで来たので、近くで技術を見せてあげたいのですが…よろしいでしょうか」と問うと、快諾してくれた。


 嬉々として近くに来たセノオは、それはそれは食い入るように青年の仕事を見ていた。青年はそんなセノオを微笑ましく思ったのか、セノオにちゃんと説明しながら俺のカットをしてくれた。


 青年はそこそこ顔は良いが、背が低い。

 今の俺と変わらないくらいの身長だから、説明の度に近づく2人の顔に若干複雑な気分になったが、セノオにとっては大事な仕事。さっきの大学でのセノオを反芻しながら我慢した。


 ……何か最近、色々我慢しすぎて発想がヤバイ気がする。意味合いは違うが、変態と言ったディアナの軽蔑の目が浮かんだ。



 その後、美容室の近くに旨くて安いランチを出すカフェがあるらしく、青年を含めたお昼休憩をとる奴等と一緒に、昼を食べに行くことになった。


 食事が来るまでは、同業同士とあって、これから流行りそうなカットや髪型。おすすめの道具のメーカー、今度王都である理美容師の集まりに参加しないか……などなどなど。

 わかってはいたが理容師セノオはよくしゃべる。

 他の美容師達も仕事柄、話すのが苦ではない為か、俺達のテーブルははかなり騒がしった。

 俺はセノオが楽しそうにしているのを見ながら、隣に座った軽そうな美容師のナンパをかわしていた。


 食事を終え、美容師おすすめの道具屋やセノオの母さんが訪れた鍛冶屋などをまわり、夕飯の買い物をして帰路についた。


 夕刻の鐘はとうに鳴り、空には月が出ていた。

 新月には……まだまだかかりそうだな……


「ガラタナ見て!月に(かさ)がかぶってる」

「かさ?」

「知らない?月の回りに白い輪っかが出来るの」


 確かにぼんやりと輪がかかっている。

月暈(げつうん)を見ると幸せになれるんだってさ」

「はじめて聞いた。俺の国では月の物語は悲しいものが多くて、昔は月が見えると恐くて眠れなくなってた」

「へぇ。そんなこと思ったことなかったな。今も怖い?」

「俺はもう おと──な─」


 珍しくセノオが指を絡めてきた。

 応じて繋ぐと、恥ずかしいのかセノオは先を歩いた。


「そうだな……怖いから繋いでて」


 そう言うとセノオは振り返り、笑った。



──────────



 夕飯を食べ終わり、風呂にも入って、さっきセノオとお休みを言い合って部屋に入った。


 少しするとドアが叩かれ、ケルトさんの声がした。

「ガラタナ君。起きていますか?」

「あ。はい」


 慌ててベッドから起き上がり、ドアを開ける。

「ここで構いませんので、少しお話良いですか?」

「はい。何でしょうか」

「今夜の月は見ましたか?」

「あ。はい。暈をかぶっていて、幸せになれるとセノオが言っていました」

 廊下の突き当たりの小窓を見ると、高い建物と木々の上にちょうど月がみえた。

「幸せに……そうですか。昔、僕が教えたことなんですが覚えていたんですね」

 ケルトさんはクスクスと笑った。


「あの……」

「あ。すみません。月暈のことなんです。セノオさんが言ったこととは別に、言われていることがあります」

「?」


「月暈が出ると、かなりの確率で明日雨が降ります」


「え…」

「夜まで雨が続くようなら、明日、この体をお返しします」


読んでいただきありがとうございました。

誤字脱字ありましたら申し訳ありません。


次回は元に戻るまでいけばいいなと思います。

また読みに来ていただければ嬉しいです。

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