4。ガラタナの過去1
ガラタナ目線です。
トルネオ王国よりかなり南にある別の国で俺は生まれた。
物心ついたときには親という存在は無く、同じような境遇の子供、20人のグループで生きていた。
盗み等の犯罪を繰り返しながら生活の糧を獲ていくグループもあったが、俺のグループは皿洗いや草むしり、花売りなど子供でもできる仕事をみつけ、日銭を稼ぐ健全なグループだった。
20人のうち、数人は本当に小さなチビ達。それに少しばかりだがまとまった金もあるので、残りの全員が住み処から働きに出ることは出来ない。年長組は腕っぷしを鍛え、ローテーションでチビ達と住み処を守っていた。
そんなことをしながら年月は過ぎ、15歳になっていた。
俺は貰った賃金を握りしめ住み処へと、暗い裏路地を急いでいた。
「有り金全部置いていきな」
「ひっ……ごっご勘弁ください!これは今日の売り上げで……これが無くなったら」
「うるせぇ!」
先の路地を曲がろうとしたとき聞こえてきた若い男の声と少し歳いった感じの女の声。
手入れをしていなさそうなナイフがみえた。
(素人か?……共犯は居なさそうだな)
気が付いたときには体が動き、男の後頭部に上段回し蹴りがキレイに決まり、女が背にしていた壁の横に男の顔がメリ込んでいた。
そのまま女の手を引き大通りに出る。
「ここまでくれば安全だと思うけど」
「ありがとう。本当に助かったわ。私はメアリー。貴方名前は?」
「ガラタナ」
「私は二つ向こうの大通りでレストランを経営しているの。今日の売り上げを盗られていたら本当に大変だったわ。お家は?ご両親にも是非お礼を」
「必要ない。俺は孤児だから。じゃあ気を付けなよおばさん」
俺はまた住み処へと急ぐ。「ちょっと待って!」と、後ろで聞こえたが振り返らなかった。
華やかな大通りにあるレストランのオーナーなんて今後一切関わらないと思ったからだ。
数日後、どう調べたのか住み処におばさんの姿があった。
俺を含めたグループの数人を新しくオープンさせるカフェに従業員兼用心棒として雇いたいとのことだった。
今までとは比べ物にならない安定した収入。
グループがもっと楽に暮らせる。そう思い、おばさんの提案に飛び付いた。
見目を整えられ、一般常識と教養、一般マナー、接客マナーをシゴキ同然で叩き込まれる。
裏路地でキレイとは言えない服を着て、マナーとは程遠い生活を送っていた俺達にはかなりキツかったが何とか耐えた。
正直、教養や一般マナーなど、そこまでやらなくてもと疑問に思うこともあったが多分これはオーナーなりの御礼なんだと感じていた。知識はあって困るものではないし。
カフェの方はブランチが評判で客足が絶えなかった。自分で言うのも何だが、俺のグループは磨けば光る顔面偏差値のやつらが多かったので、固定客もかなり付いた。
オーナーと俺らは、まさにwin-winの関係で仲も良かった。
そんな居心地の良い生活が4年続き、住み処も少し良いところに移ることができた。俺は19歳になっていた。
チビ達もカフェのバックヤードやホールで働けるくらいの年齢になっていたので、元チビ達にカフェは譲って、俺はオーナーとも相談して他の店に移ろうかと考えていた。
オーナーとの相談の帰りに、目の前で乗り合い馬車の接触横転事故を目撃した。
辺りが騒然となり、俺も救助に向かった。
歪んだ馬車の扉をこじ開けると、打ち所が悪かったのか意識のない中年男性のとなりに、真っ青な顔をして頭から血を流した30代くらいの女性が座っていた。
「大丈夫ですか!!」
そう声をかけると女性はこちらを向き、俺の手を掴んだ。
小さく「ごめんなさい」という声が聞こえ、グルンと視界が回り、崩れ落ちる女性と『俺』が見えた。
意識の無い男女は他の救助者の手によって外へと運ばれ、『俺』は俺を見ることもなく、その場を去っていった。
そして俺はガラスに写った自分を見て、人ではないモノになっていることがわかった。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字等ありましたら申し訳ありません。