36。2回目の遭遇
前々回、(仮)のラスト加筆、修正しました。
私とガラタナは、朝イチで宿をチェックアウトし、荷物をもってお父さんの家に向かった。ジエンタさんは私達の上で楽しそうに浮いている。
ジエンタさんの一族は初代の王が完全に亡くなるまで王城に閉じ込められるように暮らしていて、魂になってからは石盤を見張っていた為、外の世界が珍しく、とても楽しいそう。
でもどこに行っていいかわからないので、会話もできる私にくっついてきているらしい。
お父さんの家は黒いレンガの壁に白い窓枠、赤茶色の鋭角屋根、敷地面積は小さいけれど3階まであるので縦に長い。裏に小さな庭がある。
『シンプルでいい家ね』
「この家はお父さんの趣味らしいよ。村にある家はお母さんの趣味だから全然違うよ。ジエンタさんも今度遊びに来てね」
『ええ! 是非お邪魔させてもらうわ!』
黒いドアのノッカーをコンコンと叩くと、いつもより黒い笑顔のお父さんが出てきた。
「お……おはようお父さん。顔怖いよ?」
「おはようございますケルトさん。どうかされましたか?」
「おはようございます2人とも。ガラタナ君、昨日美女と公衆面前でキスしていたというのは本当ですか?」
チラリと横のガラタナを見ると、突然のお父さんからのプレッシャーに、瞳孔が開いている。
「どうしてそれを……」
「学生が見ていたんですよ。見た目的にガラタナ君はまだしも、セノオさんが大学にいれば目立ちますから顔も知られていたんでしょう。
……昨日の夕方は美(少)女の三角関係で大学の男子学生は大騒ぎでしたよ。あなたは人の娘の影で何をしているんですか」
どうせ……私の見た目は中等科ですよ。
私に失礼なことを言ったお父さんは珍しく怒りをあらわにしている。対するガラタナは、しょんぼりと肩を落とした。
「すみません」
「お父さん、私が庇うのもおかしな話だけどあれはガラタナは悪くないと思う。ディアナさんが一方的に……」
「ディアナ? あぁ。ガラタナ君の彼女だった」
「彼女じゃないで───え?ケルトさん何で知って……」
「知っていますよ。入れ替わる前のことだけですけど、ガラタナ君のことは全部。感情などは汲めませんがガラタナ君が見聞きした記憶はちゃんと残っているので」
お父さんはトントンと人差し指で自分の頭を叩いた。
ガラタナの顔面は青を通り越して白くなった。
瞳孔開いて白くなるとか、いまにも死にそうだなガラタナ。
「それにしても、ディアナさん……ですか。また濃い人に見つかりましたね。あの人では仕方がない──あ。中にどうぞ、何もない家ですが」
それ以上、ガラタナを追及することもなく、苦笑いを浮かべると、脇によって通るスペースを空けてくれた。
いつものお父さんに戻ったのは良かったけれど、ディアナさんの名前を出しただけで「仕方がない」という言葉が出たことに、今度は私の顔が強張った。一体どんな人なの。
家の中は、焦げ茶色の腰板に薄い緑とベージュの細かいストライプの壁紙。家具は殆ど焦げ茶色でまとめられていて、家に入るとコーヒーの香りがした。
10歳より前に1度来た記憶そのまま。
懐かしさを所々に感じながらリビングに着いた。
「1階はリビング、キッチン、お風呂などです。2階は僕の寝室と書斎。3階は客間。2部屋あるのでガラタナ君は階段すぐの部屋を使ってください。掃除しておきました」
「はい。ありがとうございます」
「私は?? まさかガラタナと一緒?」
「まさか! いくら体は女性と言えど、そこまではまだ許しません。セノオさんの部屋にどうぞ」
「……私の部屋?」
案内されたのは屋根裏部屋だった。
屋根裏といっても高さがあるので普通に立つことが出来る。
小さな出窓、白を基調に薄紫と薄ピンクで構成された、10年前ならテンションが上がりそうな可愛らしい部屋。
「ここが私の部屋なの?」
「セノオさんがまだこの家に住んでいたとき、ここは遊び場だったんです。「大きくなったらここセノオの部屋ね!」と……可愛いかったので、2人が出ていってから少しずつセノオさんの好きそうな家具を揃えていったんです。前はパパ嫌期と重なったので言い出せませんでした」
「へ、へぇ……」
「無駄にならずに済んで良かったです」とお父さんは蕩けるような微笑みを浮かべ、私は無になった。
ちょっと怖……ガラタナも目をそらしている。
成人女性には少し可愛らしすぎる自室(仮)に荷物を置くと、お父さんは感無量といった風に目頭を押さえた。もう、何も言うまい。
お父さんが作っておいてくれた軽めの朝ご飯を食べて、合鍵を貰い、お父さんは大学へ。私とガラタナは王都で一番人気の美容室へ向かう為に一緒に家を出た。
大学の先に美容室があるため、お父さんとは大学まで一緒だ。
「セノオさんその髪飾り素敵ですね」
後ろを歩いていたお父さんが目ざとく誉めてきて、隣を歩くガラタナはビクッとした。
「ガラタナ君の色ですね」
「「──────っ」」
鋭すぎる。ガラタナに貰ったのもバレてそうな勢いだ……。
振り向けばお父さんはいつものようにニコニコ笑う。
笑顔のポーカーフェイス……ガラタナのは段々読めるようになってきたけどお父さんのは全く読めない。
「どうしました?」と目を開いたその瞳は、髪のヘアコームを連想させ微妙な気持ちになった。
ガラタナが元に戻ったときお父さんを思い出して、ドキドキしなかったらどうしよう。
そんなことをグルグル考えながら歩いているとあっという間に大学南門前の丁字路まできた。
南門は王都のメインストリートにあり、太い丁字路の突き当たりに面している。
人の出入りが多く、他の門より大きく作られていて、馬車用の大きな門を開ければ、2台が余裕で通れる。私達が一昨日、アポなしで来たのも南門。
「あれは何でしょう……」
お父さんが声をあげた。
「「え゛……」」
一昨日、私達に対応した門の守衛に大声で食って掛かる女性が1人。
デ……デシャビュ……。
メインストリートを挟んだこちら側にもギャンギャンと声が届く。
「何て言ってるの?」
「セノオさんは聞かない方がいいですよ」
「『うん。聞かない方がいい』」
ジエンタさんとガラタナからも断言された。
「……今日は東門から入ることにしますね」
お父さんにも彼女の言葉がわかるらしい。
汚ない言葉なのかな。それなら私も聞きたくない。
『丁』字路の縦線のほうから歩いてきた私たちは右に曲がり、東門を目指した。
「ガラタナ!─────!」
その瞬間あっさり見つかり、彼女の国の言葉で何か叫びながら、あろうことか馬車の往来が激しいメインストリートを強引に横切ってきた。
馬の嘶く声と御者の怒号を背に道路を渡りきり、ガラタナの姿をしたお父さんに抱き付き、キスをしようとしたが、お父さんはブックバンドで束ねたノートを間に挟み、寸でで防いだ。見事。
お父さんはディアナさんに向けて口を開いた。
「セリナ─セノオ─────」
また名前しか聞き取れないけれど、多分「セリナさんとセノオさん以外キスはしないようにしてるんです」とかその辺だろう。
ちなみに物心ついてからお父さんにキスをした覚えもされた覚えもない。
怪訝そうな顔をしたディアナさんは、お父さんから手を離しガラタナを見た。
何かを呟いたあと、私を見てニヤリと笑い、言葉を発したとき、ガラタナとお父さんが私の前に出てきた。
表情と2人の対応から確実に悪口な気がするし、ディアナさんはそれを見て声を出して笑っている。
「……何て言ったの?」
コソッと私の横にいたジエンタさんに問う。
ジエンタさんは言いづらそうに教えてくれた。
『……今日はナイトが2人なのね、オヒメサマって……』
読んでいただきありがとうございました。
誤字脱字ありましたら申し訳ありません。
次回はガラタナ目線です。
また読みに来ていただけると嬉しいです(*^^*)
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