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ホントのカラダを探しています  作者: keitas
トルネオ王国編
35/101

32。難儀な人

前話のラスト、抜けがあったので加筆しました。

お時間あるとき読んでいただければ嬉しいです。


今回はガラタナ視点です。

「君も難儀だね」


 セノオ達を見送ると、座っていた席の横の柱の裏からヴァントレイン教授が現れた。

 教授は尚、話を続ける。


「中身は父親、体は自分。嫉妬するのもおかしな話だし。おまけに好きな子にまで来るなと言われて気持ちの持って行き所がないだろう」

 クスクスと笑う嫌味のような口調に多少イラッとした。


「……盗み聞きとは、教授の肩書きを持っていらっしゃる方にしては、良いご趣味をお持ちですね」

「俺に気付いて少し大きな声で話してくれていたくせによく言うねガラタナ君」

「……」


 ケルトさんの親友だ。やはり癖が強い。

 思わず眉をひそめてしまった。この人、昨日話したときは確か「私」って言っていた筈だが……セノオとケルトさんと4人で話していたときとは、印象が大分違う。


「ケルトさんと喧嘩したからって俺で遊ぶのはやめてもらえますか」

「ケルトがそう言ったのかい?」


 教授は自分のテーブルにあったカップを、俺達がいたテーブルに移動させ、ドサッと雑に座った。


「いえ。現状から推理するのは得意なので、喧嘩したのか聞いたら“怒らせた”とだけ」


 そう言うと、教授はカップに入っている飲み物をまるで酒を一気に飲むように煽った。

 乱暴にテーブルにカップを叩きつけたその顔は、


「────っ!えっ!?」


「がっガラダナぐ~ん!! ケルトは! ケルトは酷い奴なんだ!! だってそうだろ~!! こんなに! こんなに世話してやってるのに! 呆気なく離れていこうとするんだ!!! うわぁ~」


 号泣していた。ドン引きだ!!!

 ちょっとちょっとちょっと待ってくれ!!!

 周りを見ると段々とお昼が近付いてきたので人目が凄い!


「なっ……泣かないで下さい! 教授!!」

「ガラダナぐんが優しい~それに比べてケルトの野郎~」


 さらに涙が増した。

 何だ!? 一体何なんだ! 酒でも入って……イヤまさか大学内で……。

 教授が持っていたカップに鼻を近づけてみた。


 酒だ。完全に酒だ。

 何やってんだこの人!!

 冷たい目で教授を見下ろすと、教授はその視線に気付いたようで、


「教授になれば何だってできるんだよ!! バレなきゃ良いんだ!!」


 最悪だ!!! 大人として最悪だ!!!


「だってしょうがないじゃないか!!! 心配してやってんのに! あっさり拒否られて!! 呑まなきゃやってらんないだろう!」

「うっ……」

 それは……身に覚えがありすぎる。棚上げ出来るほど日は経っていない。

 こんなになってしまった教授が何だか他人とは思えなくなって、俺はソッと向かいの席に座った。


「──! 聞いてくれるのかい!?」

 教授は目を爛々と輝かせ身を乗り出してきた。

 早まった気がする。


「ケルトはそれはそれは可愛い少年だったんだよ。小等科で2つ下の学年に居たのを見たときは天使かと思ったね」

 む……昔話……これから何十年分の話をされるんだ。


「俺は子爵家の長男なんだけど、弟の方が優秀だったし、俺は学者になりたかったから譲ったんだ。何でも出来て可愛いげのない弟でね!」

「はぁ」

 俺は自分のコーヒーをすすりながら話し半分で返事をする。


「ケルトは見た目は可愛くて、勉強もできたからかなり友人がいたんだけど、あの性格だろ? ちょいちょい人の好意を無駄にして去るもの追わないから友人が入れ替わるのがかなり早くてね───あぁ。コイツ、クズだなって思ったんだ。俺はね! 出来の悪い弟が欲しかったんだよ!!!」


 ……帰りたい。


 身ぶり手振りも話もヒートアップしていく教授を見ているとどんどん心が冷めていく……セノオのところに行きたい。


「ケルトは結局大人になるまで内のテリトリーに人を寄せ付けることはしないヤツだったんだが、そこにセリナさんが現れてケルトの中心に入ったんだ。そしてセノオちゃんも!」


 セノオは大丈夫なのだろうか。ただの腹痛だと良いけど……俺が来てから心休まる事も無かっただろうしな。

 入れ替えまで少し時間があるし王都デートにでも誘おうかな。


「そして君もだよ!ガラダナぐん!!!」

「へ!?」


 完全に余所事を考え遠くを見ていたら、バン!とテーブルが叩かれ、顔から10センチのところに教授の顔があった。


「君も確実にケルトにとって内側の人間だ」

「買い被りすぎじゃないですか?」


 教授の目付きが鋭くなった。

「だって! ケルトが他人のために動くなんてあり得ない!! 30年以上一緒にいる俺にでさえ体が無くなったら死んだと思えだなんて言うんだ!! 思える筈ないだろう!! 何処かにいるんだから!!」


 教授は身を戻しテーブルに伏せて、さめざめと泣いた。

 なるほど、喧嘩の原因はそれか。

「……出来の悪い弟分なんだ。見捨てられないんだ……死んだ筈のケルトがテオとしてやってきた時は本当に嬉しかった……」

 この人も大概難儀な人だな。


「この大陸の生まれ変りとかに関する文献の殆どにはね“魂は肉体と共にあり、滅ぶときもまた同じ”という文言があるんだ。呪術師の彼女がそうであるようにケルトも永遠の時を彷徨う事になると思う。生きていてほしいが、そこまでは望んじゃいない……」

「教授……」

「今の君のように影にケルトを押し込めば……とも思っていたが、本体が死んで土の下に入ったときに出て来ちまうんじゃ意味がない」


 粗方話終えたのか教授の話は尻すぼみになり、席を立った。

「付き合わせて悪かったね……少し話せてスッキリしたよ。ありがとう。ケルトがちゃんとした死を迎えられるように俺は諦めたわけじゃない……まだ入れ替えまでは時間があるんだろう?」

「はい」

「もう少し考えてみる」

「……俺も……協力します」


 少し驚いた顔をした教授は優しく微笑んだ。

「君はニコニコ飄々としているから、何となくケルトに似ていると思っていたが……違うようだ。モテるだろ」

「……ノーコメントで」


 教授は小さく笑い、カフェテリアを後にした。

 ケルトさんがそんな今後を過ごすのは、きっとセノオも本意ではないだろう。

 有効な方法についてジエンタさんとも話す必要があるな……。


 ジリジリと指す日差しと青い空を見て、のんびり過ごせるのはまだ先になりそうだと、ため息をついた。

読んでいただきありがとうございました。

誤字脱字ありましたら申し訳ありません。


次回は王都デートにでもなればいいなと思っています(*´-`)


また読みに来ていただけると嬉しいです。

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