3。聞いても聞かなくても
寝巻きから普段着のワンピースに着替た。
誰が寝巻きに着替えさせてくれたんだろう……という疑問は一先ず置いておく。
2階の一番奥の自室から、二人すれ違えるくらいの幅の廊下に出て、かね折れ階段を下りるとすぐリビングだ。
薄いベージュをベースに薄緑で小花が描いてある壁紙。
深い緑の腰板。オールドオーキッド色のソファ。リビングは、昔、母がこだわって揃えた物だらけだ。
ヤツはダイニングに居るかとおもいきやそこにいた。
「これは?セノオの両親?」
手にはリビングの棚の上にあった家族写真が握られていた。
家の前で撮られた父と母、私の写真。
「そう。まだ二人とも生きてた頃だから10歳くらいかな」
「──ごめん」
ヤツは本当に申し訳なさそうに謝罪を口にした。その様子から本当に悪いやつでは無いことが伺える。
「母は病気で。父は仕事先での事故。もう昔のことだから」
そう話を切るとダイニングに向かう。
朝食にと準備してあった物は、野菜とベーコンのコンソメスープ。フワフワのオムレツ。バケットのクロックマダム。
愕然とした。キラキラのエフェクトが見える。
私のいつもの朝食は、茹で玉子とトーストとコーヒーだ。
「どうぞ」
ヤツがそっと椅子を引いてくれた。そんなことをされたのは初めてで、座るときにヤツの顔を見れば大人っぽく笑みを返され少しドキドキしてしまった。
「美味しい」
素材の旨味がしっかり出ているスープを一口飲んで感動する。
「良かった。昔、ブランチが評判のカフェで働いていたこともあったからわりと料理は得意なんだ」
ヤツはニコニコと笑う
「働いてたって……あなたは人なの?それとも…」
化け物……昨日今日で受けた親切もあり、そう言うのは何となく憚られた。
「俺の名前はガラタナ。人間だよ」
そう聞き、ホッとしたが聞き逃せないセリフが一つ。
「……「俺」?」
「ん?あぁ。今はセノオの影に入ってるから体は女だけど、本来は男」
カチャンとスプーンが手から滑り落ちる。
「──────っ!!」
ガラタナさんが何かを話しているが全く耳には入ってこない。
昨夜、気絶した私を寝巻きに着替えさせたのは誰か。ソレばかりがグルグルと頭を回っていた。
視線は大して成長はしていないツルペタの自身の体へ。
……今のガラタナさんの方が多少胸がでかく、女性としては魅力的だが、私だって女だ。
仕方の無い状況だったとはいえ、イイヒトなんて今まで居たこともないし、男の人に着替えさせられていたら羞恥で死ねそうだ。
聞きたいが聞きたくない。
あ、でも、もしガラタナさんがヨボヨボのお爺ちゃんだったとしたらまだ……
「……ち、ちなみにガラタナさんは、おいくつ?」
「24」
詰んだ。
泣きそうになるのをグッとこらえて、オムレツをガブガブッと口に入れると優しい味が広がる。美味しいものを食べるとちょっと前向きになれる。
こうなったら、とっとと出ていってもらって、早々に忘れよう。
一心不乱に朝食を食べていると視線を感じる。めっちゃ見られてる。
「……そんな風にみえないんだよな」
「え? 何?」
一人言の様にボソッと何かを話し、私に手を伸ばしてそっと口元に触れる。
「パンくずが付いてた」
ガラタナさんは、にっこり笑う。
顔が熱くなる。多分私は真っ赤だろう。男の人だと認識して朝からの一連の流れを思い出すと、この人の言動がイケメン過ぎて困る。
「あ、ああああの! 質問いいですか!」
思考を別のところに持ってかないと、とてもじゃないけど耐えられない。
「ん? どうぞ」
「私にはガラタナさんという名前は記憶に無いけどなぜ私を知っているの?」
ガラタナなんて名前この国では珍しいし、私の移動範囲は遠くても隣町だ。知り合いのはずがない。
「それと、昨夜の球体は何ですか?なぜ私の影がガラタナさんの体になったの?」
私の質問を聞いたガラタナさんは少しガッカリした顔をした。
「……やっぱり」
「え?」
「俺が体を失ったのはセノオ、君が何か関係があると思ってここまで来たんだけど…」
「──!? わっ私は何も!!!」
思わず席を立った私を見てガラタナさんは苦笑いをし、着席を促した。
「うん。何となくそうだろうと思ってた所だよ。俺自身、何でこうなったかがわからないんだ。セノオに会えばどうにかなると思ったけど、君は普通の女の子のようだし」
それからポツリポツリとガラタナさんは今までの事を話してくれた。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字がありましたら申し訳ありません。