27。救出へ
魔王降臨のガラタナ視点です。
俺達を監視していた男から聞き出した裏路地を歩く。
所々に街灯はあるが全体的に薄暗い。けれど今日は月が大きく、光があるから幾分歩きやすい。
後ろから2人付いてくるのがわかる。
走ると後ろも走る。角を曲がり、その辺に落ちていた角材を手に持ち、振って感覚を確かめる。
角の向こうから2つの影が伸びてきた。
「あら……」
「────っ!!!おまえ!!」
男達を4メートルほど間を開けて眺める。
「男二人で女の後を付け回すなんて、あまりにも失礼ではありません?」
「チッ!」
一人が舌打ちをすると、尻のポケットから折りたたみナイフを、もう一人はベルトに下がっていたケースからサバイバルナイフを出した。
サバイバルナイフはデザインがちょっとかっこいい。
「大人しくしておけば痛い思いしなくてすむぜ」
折りたたみの方が定番の台詞で粋がってきた。
「通りに戻りな。今だったらまだ見逃してやってもいい」
「来てくださっても構いませんけど、その前に連れていった女性の事を教えて頂けますか」
「知らねぇよ! もう捕まって売り飛ばされてんじゃねえのか!」
そう言い終わる瞬間に折りたたみの方が突進してきた。
本当にナイフを前にして突進しただけ。ラビの方がまだ強い。
背を向けるように左に避け、体を一回転させた勢いで、右手で持った角材を男の後頭部に叩き込む。蛙が潰れたような声を出して崩れ落ちた。
この体は軽くて動きやすい分、一撃が軽い。
反動をつけた攻撃でやっと元の体の8割ほどの威力になる。
今のを元の体でやったら、こいつは多分死んでいる。
もう一人と目が合うと、男はビクッと肩を震わせた。
「女性の事を教えて頂け──」
「うっわぁぁぁ!」
先程の冷静さは一体何だったのか。男はナイフを振りかぶり襲いかかってくる。避けるとデタラメに振りまわしてきた。
何なんだこの幼稚な刃物の使い方は。
こいつら刃物を持てば強くなれるとでも思ったのか?
面倒なので角材で受け止める。角材を折るつもりでナイフを叩き込んできたらしく、かなり木に食い込んだ。だが角材をグルッと捻ると簡単に男の手からナイフが離れた。
ひどい悲鳴を上げて男が逃げる。
「逃がすかよ」
ナイフを外し、男の脚目掛けて角材を投げると、丁度右足の膝裏と左足の脛にハマって転倒した。
「ひっひぃっ!!!」
「彼女はどこだ」
尻餅をついて俺を見上げ後退りしていく。
「つっ! ツーブロック先を曲がって少し行った先で見失ったと聞いた!」
脚をがくがくと揺らし震える男には、もう戦闘する意思は無いようだ。
身を翻し先を急ぐ。男が言っていたツーブロック先は三叉路に別れていた。「チッ」と、自然と舌打ちが出る。
ふと、ひとつの道に何か落ちているのに気付いた。
────飴……セノオが咥えていた……?
この先にいる……のか?
段々と歩幅は広くなり、いつの間にか走っていた。
角を曲がると沢山の樽が転がっていた。
避けながら進むとガン!ガン!と音が聞こえてくる。
何処かの建物の2階か3階か……音が反響して絞り込めない。
「セノオ!! どこだ!!! セノオ!!」
大声を出しながら路地をゆっくり進む
「────いっ!!」
突然左の二の腕に強い痛みが走った。
何だ今の……。
腕を触ろうとしたとき、すぐ先の建物の2階の窓が勢いよく開いた。窓枠にかかる指と女性の脚が見え、セノオが飛び出してきた。
「──────っ!」
すぐ下に回り込んで両腕を広げる。
そのとき僅かにセノオの眉がしかめられた。
セノオの背後に太い腕が伸びているのが見え、髪を掴まれたんだと瞬時に察した。
ピッタリのタイミングでセノオを受け止め、勢いで転がった。
セノオと転がったのはこれで三度目だ。男だったらこんなこと無かったんだろうと悔やまれる。
セノオの怪我の有無を確認して抱き締める。
落ち着くいつもの香りと、沢山走ったのだろう汗の匂いがフワリとする。
セノオを堪能していると下品な笑いが耳に届いた。
セノオをこんな目に遭わせた奴を放っておく気なんてハナからない。目と耳を塞ぐことを伝えると、一気に走り出す。
デブとヒョロの男達の後ろに背が高い眼鏡が一人。
角材を眼鏡の前に投げ落とす。
「どこを狙ってんだ!」と笑うヒョロの手前で跳び、眉間に膝蹴りを入れる。押さえた頭と肩を支えにヒョロの上で逆立ちし、反対側に降りるタイミングで顎に腕を掛け、降りる反動で男の体を投げ飛ばす。ヒョロが一回転したその先には背が高い眼鏡。
眼鏡とヒョロは共に吹っ飛び重なりあって痛みにうごめいている。
さて。一番の問題はデブだ。
こいつはセノオを怖がらせただけではなく、髪を引っ張りしかも抜いた。足元に落としておいた角材を足で蹴り上げキャッチする。
「汚い鳴き声を出す前に消してやるよ」
角材を下に構え走り出す。
デブが持つのは角材と同じ長さのサーベル。
角材と長さが同じ刃物なだけにこちらの分が悪い。
斬撃と刺突が入り乱れ放たれる。動きはそこそこ早く、動けるデブのようだ。
少し間合いをとると、デブはこちらが疲れたと思ったのか、ニヤリと笑い勢いよく切りつけてきた。それと同時にこちらも走り出す。
接触寸前で腰を落とし、ブン!と音を立ててサーベルが虚しく空を切る下に潜り、スライディングしながら脛を思いっきり打つ。
痛みで踞るデブの後頭部にバックハンドで角材を叩き込もうとした瞬間……。
セノオと目があった。
ピタッと体が止まる。
……み ら れ て い た。
思考は停止していたが、カシャッとデブから音がして、体が勝手にデブのサーベルを持つ右手を思いっきり踏んだ。
セノオに見られていたショックで手加減出来ず、何本か指が折れたかもしれない。悲鳴を上げるデブからサーベルを取り上げる。
セノオが更に目を大きく見開く。
しまった!またやってしまった!!
だが驚いているセノオも中々可愛い。
違う!そうじゃない!
「あの……セノオ……」
倒れている男共を背景におずおずとセノオに話しかけた。
ここまで難なく戦ったが今ほど冷や汗が出たことはない。
俺が一番怖いのはセノオだ。恐怖の目を向けられたらもう泣くしかない。
「そこまでだ!!」
バタバタバタバタっと10人を超える武装した自警団と
「セノオさん!ガラタナ君大丈夫かい!?」
ケルトさんが乱入してきた。
3人の倒れている男達と唖然と座り込む少女。角材とサーベルを両手に持つ女。
さっき一戦交えた二人と最初の見張りの男は後でお縄にかかっている。
現状を正しく理解しただろうケルトさんの顔が引き吊るのが見えた。
読んでいただきありがとうございました。
誤字脱字ありましたら申し訳ありません。
セノオにご飯を食べさせてあげる予定だったのですが、前回断念したガラタナsideを書きたくなったので変更しましたf(^^;
また読みに来ていただけたら嬉しいです(*^^*)
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