26。魔王降臨
前半ガラタナ視点。
後半セノオ視点です。
セノオが消えた。
辺りを探しても見当たらず、セノオが消える少し前から監視するように視線を送ってきた奴をとりあえず捕まえた。
「だから! 逃げられたんだって! いてててて!!!」
少し前、ケルトさんと話しながら歩いていた。
可愛く飴を咥えながら後ろを歩くセノオを、かなりの頻度で確認していた。
都会が珍しいのかキョロキョロする田舎者丸出しのセノオが可愛くて、緩んだ口許を直して……次に見たら消えていた。
ケルトさんには急いで自警団のところに行って貰った。
掴んでいる腕を捻り上げる。
「逃げたってどこへ」
「いてててててて!!!! 知らねぇよ! 裏路地走って消えてったんだよ! 俺は路地の外に居たけど仲間しか出てこねぇから! まだ路地、彷徨ってるか! 仲間に捕まって変態に売られ───ぎゃあああ!!」
腕一本でありがたいと思え。
騒いで地面に転がる男を放置して裏路地へと歩みを進める。自警団が来たら連れていかれるだろう。
セノオに何かあったら…関係者全員潰す。
──────────
『あら。予想より驚かないのね』
先程私を導いた声はフワフワと浮かぶ白い球体から聞こえてくる。逃げている最中は頭上にでもいたのだろうか。
「驚きましたけど……つい最近、他の球体と出会いましたので」
『へぇ!!! 私以外にも居るなんて……それにしても人と話すのは久しぶり!』
白い球体は私の周りを楽しそうに回っている。
入った空き家の一階はカフェか何かだったのか、窓の作りが可愛らしく、今日は月が明るいので窓から入り込んでいる光を白い球体が吸い込み、キラキラしている。魂というより妖精か何かを見ているようだ。
「さっきの男は何なんですか?」
『最近ここら辺に出始めた誘拐グループよ。見目の良い少女を狙って、愛玩具用として変態に売ってるの。数人被害にあってるわ。見るに見かねてその度に声を掛けてたのだけど、声が届いたのはあなたが初めてよ』
「愛玩……」
本当に逃げられて良かった。
「あの、私、連れが居るので早く行かないと!」
『今日はもうここから動かない方がいいわ。貴女達3人かなり目立っていたから、多分あっちにも見張りが付いていると思うし、大通りだって危ない。今合流したらどうなるかわからないわよ。一生会えないのと、明日会えるのどっちがいい?』
「そんな……」
私はもう何も言えなくなってしまった。
『怖いだろうけど、今夜は一緒に居てあげるから!元気出しなさいな!』
「ありがとう」
白い球体がスリスリと頬を撫でてくれた。やたらと優しくて泣きそうだ。
『ねぇ、さっき言ってた他の球体って、もしかしてリリアンナかセリナの魂かしら?』
────は?
「なぜ、貴女は2人の名前を知ってるんですか?」
『なぜって、リリアンナに魂の出し方を教えたのは私だもの──ひゃあ!!』
あまりの驚きに目の前を飛んでいた球体を両手で捕まえた。
「どういうことか教えてください!! 私はセノオといいます。セリナは私の母です!」
『……リリアンナは今どうしているの? セリナは? 入れ替えはどうなったの?』
「入れ替えが行われる前に母は他界して、その後リリアンナさんも事故で亡くなりました」
「──そう」
ただの白い球体だから表情なんて読めないけど、彼女は寂しそうだった。
『じゃあ魂になったのは誰なの?』
「全く関係のなかった青年です。父はリリアンナさんと馬車の事故で……その時に救助に当たった青年に私の父が入っています」
『あのおバカ』
バカ……とはリリアンナさんの事だろうか。
「お願いします。彼を体に戻すヒントが少しでも欲しいんです」
『……石板の事は知っているかしら』
「あ。はい」
『アレが使えるのは一度きり。付いている玉が白くなって割れていたらもう魂を切り離す術は無いわ。でもその青年が魂のままなら……』
「そんな……ガラタナ……青年は違う体を手に入れてしまいました…」
「それは─────大変ね」
魂の女性は励ましの言葉すら浮かばなかったらしく、雑に切った。
『何から話せばいいのかしらね……私はこの国からずっと離れた国で、王家に仕える呪術師をしていたの。その初代王が永遠の命を欲しがったのよ』
「……まさか」
『そのまさか。魂の入れ替えの術は初代王を子孫の体に入れ替えるために私の先祖が生み出したのよ。
とんでもない術だから、世間には当然秘密裏に、私の一族でも直系の嫡男嫡女のみ、先代が死ぬときに口伝でしか教えられていない術よ』
球体は私の手を離れ、再びフワフワと浮く。
『王は5代目、私の親の代までそれを続けたの。死期間近に当然、6代目の体に移るといってきたわ。でもね。私は6代目の依り代となる王子と恋に落ちていた。死期間近の体に愛した人を入れられると思う?
私には出来なかった……。
王に逆らってはただでは済まされない。私は処刑。家はとり潰し、最悪一族皆殺し。それならもう全部無くしてしまおうと、最後の石板を使って自分に術を掛け今の姿になったの。初代王はなす術なく、そのまま死んだわ。
入れ替えの術はそこでおしまいになる筈だった。でも予想外に石板は残ってしまった。私は魂が体から出ただけで入れ替わったわけでは無いから』
その時、外が騒がしくなった。
窓からこっそり覗くと、さっきの男と仲間らしき男3人が外を歩いていた。
『セノオ。一応上の階に移動しておきましょう』
「う、うん」
カフェの外にある階段を上り、2階に移動した。
2階はオフィスだったのか、大きな窓と残された机が雑に置いてあった。机を何個かドアの前に並べバリケードにしておく。
『どこまで話したかしらね』
「石板が残ってしまった所までです」
『あぁそうね。石板があっても、使い方、魂が見える人間が居ないと術は完成しないのだけど、気になってずっと石板を監視していたの。そしてある日リリアンナがやってきた。彼女は見える人間だった。そしてこう言ったの「好きな人が好きな人と居るために私は彼女になりたい」って』
好きな人が好きな人……どういう意味だろう。
リリアンナさんがお父さんと居るために……っていうのが自然だけど……そんな回りくどい言い方をするだろうか。
『私は彼と一緒にはなれなかったから、協力してあげたくなっちゃったのだけれど……リリアンナ……素直な娘だった。
あの子は誰に迷惑をかけてたとしても、好きな人に生きていて欲しかったのだと思うわ』
カツンカツン……と、何人かが階段を上ってくる音が聞こえた。
ドアノブがガチャガチャと揺れる。
「開かねぇ。おい、何か向こうにあるぞ」
「あの子どもかもしれん。蹴破れ」
────来た。さっきの男の声によく似ている。
血の気が引いて足が震える。けど、そんなこと気にしてる場合じゃない。
ガン!ガン!とドアが蹴られ、少しずつバリケードが動く。あわてて机を抑えるけど私の力じゃとても抑えきれない。
『セノオ! 一時的にアイツらを動けなくさせる術を掛けるからその隙に逃げなさい!』
「そんなこと出来るの!?」
『わからない!! 魂になってからやったこと無い! 多分上手くいっても数秒よ! でもやらないよりマシでしょう!!』
バキン!とドアの蝶番が壊れた音がした。
数人の男達に押されて机が一気に動き、雪崩れ込むように入ってくる。ドアの前でテーブルを押さえていた私は腕を呆気なく掴まれた。
その時、微かに聞こえた。
魂の女性が何かを唱える。瞬間男達の体が固まった。
腕を振り払い、身を翻し窓に向かって走り、鍵を開けたとき男達が動き出した。
脚を窓枠にかけ一気に飛び降りる。
髪に男の手が触れ、数本握られ抜けた痛みが頭皮に走り、眉をしかめる。
眼下には大きく腕を広げたガラタナ。
体はドサッと受け止められた。
その反動で転がる。
「セノオ!! 無事!? なにもされてない!?」
「──ガラタナ~」
両肩を掴まれ、身を離して無事を確認された後、痛いくらいに抱き寄せられた。
「本当にもう……勘弁して。心臓が止まるかと思った」
「ちゃんと声が聞こえたよ。ありがとう」
「そりゃそうだよかなり大声で呼んでた」
「何だ。女が一人増えただけだ」
そう聞こえた方を向くと先程の男達が階段から降りてきていた。
「しかも上玉ですよ」
ゲヘヘと下品な笑みを浮かべ近付いてくる。
「セノオ。全部で何人?」
「え……えと、3人?」
私を離し、スカートをパンっと払う。
その手には一体どこで手にいれたのか既に使われた形跡のある角材(確実に正しい使われ方ではない)が握られていた。
「2、3分でいいから耳ふさいで、目を閉じていて」
そう言ったガラタナの顔にはいつもの笑みが貼り付いている。
その日。トルネオ王国、王都の路地裏に魔王が降臨した。
読んでいただきありがとうございました。
誤字脱字ありましたら申し訳ありません。
次回はやっとご飯にありつけると思います。
また読みに来ていただけたら嬉しいです(*^^*)
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