25。食事には程遠い
「じゃあその体はセノオちゃんの影でできているのか。
その割にはしっかりと触れるな……体と中身がぶれたり、おかしいと思った事は無いかい?」
「今のところは違和感無く動いています」
一通りガラタナが体を無くしてからのことや、体を手に入れたことなどを話すと、ヴァントレイン教授はガラタナの腕を触りながら興味津々な様子で色々なことを聞いてくる。
さながら医者と患者の様だ。
「ちょっとカルロ。人の娘の体をベタベタと触らないでくれるかい」
プンプンという効果音が聞こえてくる様な膨れっ面でお父さんが教授を注意する。
幼女がやったら可愛いだろうそれは、ガラタナの体に対して、私の恋愛盲目が発生してもギリギリアウト。中身がおじさんだとわかっているので退場ものだ。
「娘って……これは影な上にガラタナ君だろう。でもまぁ一理あるか。セノオちゃん、ごめんね」
お父さんの言動には慣れているのだろう。ソレには何も触れずにそう言うとヴァントレイン教授はパッとガラタナから手を離した。こんな常識的な人がなぜお父さんの親友なんてやっているんだろう。
「私は大丈夫です。その体は私のものではないと思ってい──」
ぐぅ。
静かな研究室に鳴り響き、ガバッとお腹をおさえる。
3方向から視線を感じる。
何でいつもいつも鳴るんだお腹!!!!!
「……あぁ。もう良い時間だね」
ヴァントレイン教授が何事もなかったかのように、暗くなった窓の外を見た。
「そうですね。お二人は食事は?」
ガラタナが話題を提供し話をそらしてくれた。
ふと、目の前のお父さんと目が合う。
「可愛い音でしたよ!セノオさん!」
ウインクしながら親指を立て、サムズアップしてきた。
「─────っ!!!」
きっ消えてなくなりたい!!!!
誰か!!! 一思いに殺してくれ!!!
「私は妻が家で待っているから帰るよ。君たちは?」
涙目でいたら、苦笑いを浮かべながら教授が話を続けてくれた。
「俺達は近場に宿はとっていますが、食事は王都内の食堂などあればと……」
「それなら、良ければ僕の行きつけに案内しましょうか。独自の仕入れルートを持っているみたいで新鮮な魚料理が食べられるんです。村の湖で獲れるものとはまた違う魚で美味しいですよ。どうですか?」
「是非」と、ガラタナはにっこり笑う。私も村では食べられない魚に興味が湧いて同意した。
「よし!そうと決まれば今日は解散だ! ……あぁ。二人にはこれを渡しておく」
渡されたのは『研究生パス』と書かれた名刺ほどの大きさのカード。
「今後は何かあればそれを守衛に提示して入ってくれ」
「「ありがとうございます」」
お礼を言うと席を立ち、出口に向かう。
お父さんは何か思い付いた様な顔をした後、部屋の奥に行ってしまった。
「私とケルトは明日からもガラタナ君が元に戻れるように調査を続けるが君たちはどうする? 王都にいてもいいがセノオちゃんは店があるだろう?」
「店は少しお休みにする予定でいます。折角王都に来たし、お母さんが行った鍛治屋さんにも行ってみたいし、流行っている美容室にも行ってみたいです」
「おまたせ! はい! セノオさん!」
バタバタと走りながらお父さんが出てきた。その手には
「……棒付き飴?」
「好きだろう?」
いつの話をしているのか。この父は。
「これから夕飯なんでしょう?」
「少し距離があるし、ちょっとお行儀が悪いけど舐めながら行こう。セノオさんにはいつも幸せで居て欲しいからね」
邪気も悪意も近寄れない様な笑顔を向けられ何も言えなくなってしまい、まぁ確かにお腹もすいているし、大人しく飴を口に入れた。
「私は戸締まり確認していくから先に行って良いぞ」
私たちが廊下に出たのを見た教授がそう言い、「はい。また」と、扉が閉まるのを見た。
頭の中は新鮮な魚料理のことで一杯で、扉の向こうで教授が深い溜め息をついていることなんて、私達には知る由もなかった。
懐かしい味のする飴を加えながら3人で王都の石畳を歩く。
すぐ前を歩く美男美女に周囲はチラチラ目を向けているが、当の2人は、ガラタナの大陸一周の話に夢中だ。
ガラタナは何度も話しているかような、滑らかな語り口調でお父さんの目を輝かせている。
何させても器用だなぁ。
かなり前に日は落ちて、村だったら絶対外にはでない時間だが、さすがは王都。あちらこちらにガス灯が並び、暗さとは無縁だ。
かつて私はここに住んでいたらしい。キョロキョロと周りを伺うけれど、記憶は全く無い。
……お父さんの話を聞いて、私は何も知らなかったのだと気付いた。私の出自だけではなく、お父さんとお母さんのこと。
モヤモヤとしたモノが心に溢れていた。
「お父さ────あれ?」
目の前を歩いていたはずの2人が……居ない。
その場に止まり、グルッと一周見渡してみるがどこにも居ない
「……迷……子?」
まさか! 20歳で迷子!? 恥ずかしすぎる!!!
「お嬢さん、どうかしましたか?」
一人で、ワタワタと慌てていると後ろから声がして、振り返ると背の高い優しそうな40歳くらいの男の人がいた。
「あ……連れを見失ってしまって……」
「見目の良い男性と女性ですか?」
「あ!多分ソレです!」
「あちらの方に行ったので一緒に行きましょう」
腕を強く掴まれ引かれ、裏路地の方に少し歩いた。
暗い方に2人がいるの??何か……おかしくない……?
そう思ったときだった。
『そいつに付いていくと国外に売られるわよ!』
どこからか若い女性の声がした。
「え……人攫い……?」
掴まれた腕に更に力が入り、優しそうな目が細められた。
「急に何を言って……私は親切で言っているんですよ」
男がニヤリと笑ったとき体が一気に冷たくなった。
咄嗟に腕を振り払い走った。
待て!と聞こえるが後ろを見る余裕もない。
『こっち!』
また女性の声が聞こえた。
後ろからまだ追いかけてくる足音が聞こえる。
村育ちで良かったと思う。体力には自信がある。脚は速い方だし、まだまだ全然走れる。が、土地勘がないから声の通りに進むしかない。
それにしても声の主の姿がどこにもない。
『そこを曲がると樽が山積みになってるわ。それを倒しなさい』
言う通りに曲がると、10個ほどの樽があった。
言われた通りに倒すと細い路地は一杯になった。そのおかげで男とかなり距離を開けることが出来た。
『真っ直ぐ走って右に曲がってすぐに細い道があって空き家があるわ。そこに入りなさい』
無我夢中で指示された通り走ってきたので、今どこかもわからない。
素直に空き家に入り、息を潜めて居ると、さっきの男が走り去っていった。どうやらちゃんと撒けたらしい。
『危なかったわね』
すぐ後ろで声がした。
「あっ! ありがとうございまし──」
振り向くと、そこには白い球体がフワフワと浮いていた。
読んでいただきありがとうございました。
誤字脱字ありましたら申し訳ありません。
次は新しい白い球体とお話です。
また読みに来ていただけたら嬉しいです(*^^*)
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