24。父の五年間2
前回の続きです。
境界線が張られている森の入口まで結構距離があって顔はよく見えないが、声の主の少女はセノオさんによく似ていた。
でもセノオさんはもう二十歳。あの子はどうみてもまだ成人前の少女。他人の空似というやつだろう。
僕は近くに落ちていた花を拾い、転んでいる少年に渡した。
少年の脚を見ると擦りむいてしまっていた。
大きな声を出してしまったからな……申し訳ない。
今日持ってきたのはガラタナ君のハンカチだけど仕方がない。
「街の子ですか? ハンカチは後日返してもらえればいいので巻いていってください」
「どーもな! おじさん! 家は広場の側の食堂。良かったら食べに来てよ。学者様ってカナエ婆さんとこに泊まってるんだろ? 昼でもいいからさ!」
おじさん……ガラタナ君の外見だとお兄さんでは……この少年からしたらおじさんなんでしょうか。それに中身は確実におじさんです。
「広場の食堂ですね。明日なら行けると思います。お姉さん想いの君を評して同僚も連れていきますね」
少年が持つ花をつついた。
「セノオは姉じゃねぇ! オレの女だ!」
─────セノ……オ?
「じゃあな! おじさん!」
「あっ! ちょっ!」
バッと少女の方を見た瞬間、少年はそちらに走っていってしまった。少年が辿り着くと少女はペコッと頭を下げて背中を向けた。
「テオ!何しているんだ?」
カルロが遺跡の方からやってきた。
「いや。花が飛んできたんだ」
「花?」
姿形が似ている……声も……
「──……セノオ……か」
あまり居る名前ではない。
本人なのか?成長期の女性の外見は、あぁも変わらないものなのだろうか。
セリナさんの墓参りは時間があると行っているけれど、セノオさんと会ったのはお客さんとして5年前に行って以来だ……。
あのときの様子からセノオさんはガラタナ君の顔が結構好みなのだとわかった。
万一、僕が入ったガラタナ君に好意を持たれたら……そんな黒歴史をセノオさんに残したくない。
父親に似た人を好きになるという話もあるし。
ウンウン。うっかり会えないな。
次の日、約束通りにカルロと数人の考古学者を引き連れて食堂へ行ってみた。少年は母親らしき女性と喧嘩しながら手伝いをしていた。
「おじさん! 約束守ってくれたんだな!」
少年が偉そうに笑ったのを見て、僕は苦笑いしてハンカチを返してほしいと申し出た。
「あぁ!! あのハンカチはセノオが持ってる!」
「セノオさん……」
「昨日一緒にいた俺の女!あの後、手当てして貰って、預かり忘れた。隣村に住んでるから……すぐ返せない。ごめん」
しょんぼりする少年は、有り難いことに、ちょいちょいセノオさんの個人情報をもらしてくれる。
確実にあの少女はセノオさんだ。
「……この町には遺跡以外の用事で度々くるので、次にセノオさんに会ったら受け取って貰っておいてください」
そう言うと、少年はニカッと笑った。
「おう! わかった! おじさん良いやつだな! セノオはダメだけど、彼女いないならガラタナ姉ちゃん紹介してやろうか!」
耳を疑った。
少年の発言に、連れの考古学者連中は大笑いしているがそれどころではない。
「ガラ……タナ?」
「セノオと一緒に住んでる姉ちゃんだよ。セノオに似て美人だけど、女の癖に口は悪いしバカみてぇに強ぇの」
「テオ……確認してきていいぞ」
全てを知っているカルロが耳打ちしてきた。
急いで村行きの馬車に乗り、理髪店に向かう。
店の前では黒髪の女性が外の掃除をしていた。
「あれが、ガラタナ君? なぜセノオさんの所に……」
いや、僕がガラタナ君の情報を持っているなら彼だって僕の魂に押し出されたときに何か見えたのかもしれない。
でもあの体は一体どうやって手に入れたんだろう。
しばらく遠くから眺めているとお客さんが出てきて、数分後にセノオさんが出てきた。
ニコニコと笑いながら二人で話している。仲が良さそうだ。
ガラタナ君は黒髪ではあるが、こう二人で並んでこの店の前に居るとセリナさんとセノオさんを彷彿とさせる。
ずっと見ていたい気もしたが、この体の持ち主のガラタナ君なのだとしたら、こちらで身柄を預かっておきたい。
こちらの正体を明かして連れていこうと一歩踏み出した。
そのとき、セノオさんがガラタナ君の頭に手を伸ばした。
落ち葉か何かを取るような手つきだ。
ガラタナ君がそれに気づき屈むと、二人の距離が近付きセノオさんは照れたような笑顔を見せた。
それはセリナさんが僕に向けた顔に良く似ていた。
僕は足を止めた。
二人がどのような関係なのかはわからないが確実にセノオさんはガラタナ君に好意を持っている……引き離される事を余儀なくされることの苦しみを僕は知っている。
ガラタナ君を無理矢理連れてきても今のところ体を返すための進展はない。それならセノオさんといて欲しい。
その時僕は閃いた!
この体に入って、ガラタナ君の過去はガラタナ君より知っている。行動などからとても良い子だとわかる。(多少来るもの拒まずな気もするが)
今ではガラタナ君を息子のように感じていたが、ガラタナ君が本当に息子になったら素晴らしいじゃないか!!
ごめんよ!食堂の少年!僕はセノオ×ガラタナ派だ!
ガラタナ君は多分体を求めてここまでたどり着いたんだろう。
セノオさんの持つガラタナ君のハンカチを見たら、確実に僕を追ってくる筈だ。
町に居られるのもあと数日。
それまでにハンカチに気付くと良いけど……でもまぁ間に合わなくても、セノオさんの元へ来たガラタナ君なら王都まで来てくれるだろう。
セノオさんとの二人旅!旅は絆を!愛を深める!!ナイスアイディアだ!!!
ガラタナ君がセノオさんと恋に落ちないなんて無いと思う。
だってあんなに可愛いんだ!
きっと二人で来てくれるだろう!何て冴えてるんだ僕は!
意気揚々と町に戻り、カルロに報告すると、
「お前は病気だ! 何で嫁と娘が絡むとそんな雑な考えになるんだ! 二人で来るとも限らんだろう!! そもそも惚れた腫れたもお前の勘違いかもしれん!」と怒られた。
町に居る間二人を待ちわび、王都に戻り、東西南北4つの守衛に「ケルトの娘、セノオと名乗る20歳の女性がヴァントレインを訪ねてきたら通すように」とカルロに伝えてもらった。
が、
セノオさんの容姿が20歳に見えないと伝えるのをすっかり忘れていた。
数日が経ち、カルロと共に出先から大学に戻ってきた。
いつもの南門につくと守衛から「ケルト先生の娘さんとお連れさんが先ほどいらっしゃって、お通ししましたよ」と言われ、カルロと目を合わせ、走り出した。
すぐに二人を見つけると結構な内容の僕の悪口が聞こえてきて泣きそうになった。
やっと。やっとだ……二人と話せる。
聞きたいことは、話したいことは沢山ある。
辺りが夕焼けで赤く染まる中、僕は一歩、また一歩と足を踏み出した。
読んでいただきありがとうございました。
誤字脱字ありましたら申し訳ありません。
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