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ホントのカラダを探しています  作者: keitas
トルネオ王国編
24/101

22。どん詰まり

 膝の上にあった左手がそっと包まれた。



 この国では婚前交渉は否定的で、田舎に行けば行くほどソレは顕著だ。


 多分……ガラタナに出会う前の自分だったら、汚いとか、要らない子だったのでは……なんて考えていたかも知れないけれど……


 今、私の気持ちはお母さんに寄り添っていた。

 お母さんだって私と同じ村で生まれ育った。価値観だって同じだ。そんなお母さんが一線を超えるのはかなり勇気が要ったことだろう。


 お母さんは小等科を卒業した頃から、私に度々貞操観念について語ってきた。それはお母さん自身が苦労した教訓であり、私に苦労させない為だったのだったのかなと思う。

 確かに私はお母さんに愛されていた。


 左手の熱が頭を冷静に保ってくれている気がする。

 ギュッと握り返した。



 それを見たお父さんは穏やかな顔で話を続けた。


「セリナさんの両親は数年前に他界していましたし、未婚での妊娠は村ではかなり悪評になります。セリナさんは妊娠を誰にも相談できずにいました。

 そんなセリナさんを僕はそのまま村から拐うように王都に連れ帰り、教会に行き結婚しました」


「……お母さんはなぜお父さんに妊娠について連絡しなかったの?」

「詳しくは聞いていませんが、恐かったのだと思います。手紙は送りあっていましたが1度しか会ったことの無い相手ですし、信じることも出来なかったんでしょう」


 お父さんは真剣な顔でこちらをみた。


「……言っておきますが、セノオさん。僕とセリナさんは貴女が出来たから仕方なく結婚したわけでは無いですから。

 王都で知り合ったあの日に籍を入れても良いくらい彼女に惚れていました。彼女の方も初めてを許してもいいくらい──」

「親のそういうのは聞きたくないなぁ!!!」


 思わず大声を出してしまった。仕方がない。本心だ。


 お父さんはゴホンと咳をし、だらしのない顔を引き締めた。


「───王都に来て穏やかな日々が続きました。セリナさんの悪阻も治まって、かなり妊婦らしい体つきになっていきました。

 知り合い等には、結婚は伝えていましたが、出来るだけセリナさんを隠し、妊娠については伏せていたんです。

 ですが庭に出ていたセリナさんを、近くを通ったリリアンナに見られてしまい……。

 結婚してから4か月目のことでした。結婚4ヶ月で8ヶ月頃のお腹の大きさになるはずもなく、リリアンナにはすぐに婚前交渉があったことがわかってしまいました。

……それから少ししてらリリアンナがセリナさんを敵視しているという話や、口に出したくもないセリナさんの悪い噂が聞かれるようになったんです。リリアンナはそのようなことをするタイプではありませんでしたし、セリナさんの話も根も葉もないデマでした」


 ヴァントレイン教授も当時の事を思い出したのか、眉間にシワを寄せ、ウンウンと頷いていた。


「セノオさんが生まれ、そんな中でも彼女は幸せそうでした。わかってくれる人にわかってもらえれば良いと、気丈に振る舞っていました。2年がたった頃、セノオさんがどこで耳にしたのか、悪い噂についてセリナさんに聞いたことでセリナさんは怯え始めたんです」


「……私、覚えてない」

「そうだと思います。2才なんて言葉が少しずつ出てきて話すのが楽しいくらいの感覚ですから、意味も勿論わかってはいませんでした。そしてセリナさんはセノオさんの成長のためにも王都には居られないと、セノオさんと二人で村に帰る事にしたのです。

 僕も共に行こうと思いましたが、セリナさんに、2才児の世話もあるのに無職の甲斐性無しは要らないと止められました」


 「僕は手に職等はないですから」としょんぼりするお父さんがいたが、中々に現実的なお母さんの発言につい噴いてしまった。

 そして次のセリフに耳を疑った。


「村に帰るにあたって、セノオさん。君の年齢を4ヶ月ほど遅くしてあります」

 まさかの年齢詐称が発覚した。

 ちゃんとした年齢なら学年はトールの一個上だ。


「それからの村での生活はセノオさんが知っている通りです。僕は仕事の合間に会いに行くそんな生活でした。

でもその別居生活がリリアンナは気に入らなかったようです。

先程の眼鏡の女性を覚えていますか?」


「紅茶を淹れてくれた?」

「はい。彼女はキャロルといって、リリアンナの大学の同級生で友人でした。リリアンナの様子がおかしいと、僕に教えてくれたのも彼女でした…」


 それまでのお父さんはスラスラと過去を話してくれていたけど、突然黙って下を向き「ん~」と頭を掻き、言葉を選んでいた。


「リリアンナはキャロルに、僕とセリナさんが別居していることに愚痴を漏らしていたそうです「私なら彼を一人にはしない」と……リリアンナを呼び出し話をし、わかってくれたと思っていましたが、リリアンナの姿が村で何度か見られていて……セリナさんと相談の末、セノオに何かあっては困ると、僕たちは離婚を選びました。それからはリリアンナは大人しくなりました」


 初めて聞いた離婚の真実。

 それなら私たちを連れてどこかリリアンナさんの知らないところに逃げてくれれば…とも思ったけれど、今の私の生活、周りの人達を考えたら何も言えなくなってしまった。


「後々わかったことなのですが、リリアンナはセリナさんとの入れ変わりを目論んでいました」


 ガラタナとお父さんを交互に見る。

 お母さんとリリアンナさんが入れ代わる……。




 そう考えたときゾワッと寒気が走り、繋いでいた手をきつくした。



「これは僕らが死んでから、リリアンナの遺品である資料や論文などを、彼女の両親が大学に寄付して下さったのが切っ掛けでわかりました。

 リリアンナはとある国の伝承や風習を中心に研究していました。生まれ変わりや、魂が生まれ変わる伝承などが、事細かに調べてありました」


ガラタナの体が少し前に出たのが見えた。


「それら資料から、魂の入れ替え方は『魂が見える人間』が『生きている人間2人』から『何らかの方法』で『どちらかの魂を抜き取り』、『抜いていない方に押し付ける』という手順だとわかりました。あのとき、リリアンナは死ぬ寸前の僕の魂を抜き取り、ガラタナ君に入れたのだと思います。そしてガラタナ君は弾き出された。本来なら僕の方にガラタナ君が入れば入れ替われると思うのですが、その前に僕も彼女も……」


 伏し目がちになったお父さんとは対照的に目をキラキラさせて身を乗り出したガラタナ。

 私の手を握る手にも自然と力が入る。


「俺は体を無くしてからずっと魂……白い球体の姿でいました。セノオはそんな俺を見ることが出来ました。セノオなら出来るかもしれない。その『何らかの方法』とは何なんですか」


「多分これだよ」


 ヴァントレイン教授は10センチ四方の石盤のようなものをテーブルに乗せた。

 石盤には文字のような跡が見えるけれど、ズタズタに傷が入っていて読める状態ではない。

 その中心には丸い穴が空いている。


「これは?」

「リリアンナが入れ替わりの言い伝えがあった村の農家から買ったものらしい。そしてコレ」


 コツンと置かれたのは割れた白い玉のネックレス。

「リリアンナが死んだとき彼女の首にはこれがかかっていた。

本来ならこの白い玉は石盤の中心にはまっていて、リリアンナの両親がこれを持ってきた時、色は赤だったが、つい最近白くなって割れてしまった。

私とケルトはその村のこの石盤の持ち主に会いに行ったが、その農民に石盤の文字は読むことはできなかった。

 代々受け継がれたものだが、何に使うのかもわからないので金に変えたそうだ。文字の形も覚えていないと言われた。

 こちらでその農家の歴史を遡ると6代より前は王族に仕える呪術師をしていたようだった」


 教授は苦い顔をし、ソファーの背もたれに体重をかけ、天井を見た。

「同じ物は存在しないと言われた。それで5年。今に至る」


「せめて、ガラタナ君が魂のままだったらセノオさんに頼めたのかもしれないんですが─────というか、その体は誰の体なんですか??」


 そういえば説明していなかったと、私とガラタナは出会いから簡単に説明することにした。

読んでいただきありがとうございました。

誤字脱字ありましたら申し訳ありません。


次は、ケルトの5年間の予定です。


また読みに来ていただけると嬉しいです。

評価等していただけるのも大変嬉しいです(*^^*)

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