21。父の告白
今日は二本投稿しています。
この人は何を言っているんだろう。
人の体を盗んでおいて涼しい顔で返せないというその神経。
「見損なった」
自然と口から溢れた。
慌ててお父さんは立ち上がり、こちらに近寄ってきた。
「違います!セノオさん!」
「違うって何!?」
伸びてきた手を払うと、お父さんは少し傷ついた顔をした が、そんなことは知ったこっちゃない。
「返し方がわからないんです」
「────は?」
また何か言い訳を並べるのかと思ったが、返ってきた答えが想像と違いすぎて本当に意味がわからなかった。
「セノオ。多分……ケルトさんも被害者だ」
お父さんとガラタナと教授がこちらを見ている。
わかってないのは私だけみたいだ。
決して私の理解力が足りないんじゃない。ガラタナが鋭すぎるんだ。
……と信じたい。
「セノオちゃん、ガラタナ君。屋外じゃあ誰かに聞かれるかも知れないから、私の研究室へ行こう」
教授は優しく微笑んでくれた。
ヴァントレイン教授の研究室は一悶着あった場所から歩いて5分ほどの棟の4階に位置していた。
「あら? 教授、テオさん今頃お客様ですか?そんな予定ありました??」
中に入ると、奥から帰り支度をした眼鏡の似合う女性が出てきた。
「あぁ。ケルトの娘さんでね。ケルトの話を聞きに来たんだ」
「ケルト先生の……お父さんには生前大変お世話になりました」
女性は私とガラタナに握手を求めてきたので応じた。
「では、飲み物をお出ししてから帰りますね」
女性はそう言って、また奥に入っていった。
20畳程の部屋の殆どが本棚と、入るスペースを失った本で溢れ、申し訳なさそうに長テーブルと数脚の椅子が見え隠れしていた。
呆然と眺めていたら、お父さんと教授は『しまった!!』という顔をしてから慌てて部屋の一角の本を他の本の上に移動し始めた。
……コイツら片付けられない属性の奴等か。数回行ったお父さんの家は結構片付けられていた記憶がある。
あれは繕っていたのか。
二人が退かした本の下から現れたのは、かなり立派な革張りの応接セット。
革の上に長いこと本が置いてあったのだろう、革にくっきり四角い本の跡が付いてしまっている。
残念な目をして二人を見るが、応接セットを掘り出した達成感からなのか、とても良い顔をしている。残念な人達だ。
私はガラタナの右、お父さんの前に座った。
そのあとすぐ、女性が紅茶を持ってきてくれた。
「では、わたしはこれで。教授とテオさんが最後なので鍵よろしくお願いします」
「あぁ。ありがとう。気をつけて帰るんだよ」
女性が出ていき、研究室は4人だけになった。
お父さんは無言のまま顔を下げて、ローテーブルに向けている。何から話そうか考えているのか目線はキョロキョロと動いていた。
「ケルト。お前が話さない事には始まらんだろう」
お父さんの隣に座った教授が急かす。
「……そう、だね。──セノオさんは僕だった助手のリリアンナを知っていますか?」
「会ったことは無いし名前も知らなかったけど、居たことだけは知っていたわ。お父さんと一緒に事故で無くなったって」
「僕とガラタナ君の入れ替わりは、彼女が元凶なんです」
「──っ」
驚いてガラタナを見るが、ガラタナは『やっぱり』という顔をしていた。
「彼女は私の5つ下で幼なじみの関係でした。私の行くところ行くところ着いてきて、僕は可愛い妹のような感覚でいました。
僕がこの大学を卒業し、近くの民俗資料館で働き始めると、彼女は僕を追うようにこの大学へ。そして資料館に就職しました」
「……お父さんの事が好きだったの?」
そう言うとお父さんは困った顔をして頷いた。
「しばらくして、思いを告げられました。
でも僕には彼女は妹にしか見ることが出来なかったんです。そう言うと、彼女も納得してくれました」
娘の私が言うのも何だが、お父さんは他人の感情に疎いタイプだと思う。それで周りをいつも怒らせたり、困らせたり……そして数少ない家族との時間でお母さんの怒髪天をつく。
「納得してなかったんでしょ」
「いえ。彼女はその点では納得してくれていました。そうだろうと思ったと笑っていましたし……」
ヴァントレイン教授が横で頷く。何となくこの二人は似たところがあるからあまり信用できないが、私は続きを促した。
「彼女が変わったのは僕がセリナさんと結婚してからでした」
「……お母さん?」
「────カルロ!! やっぱりこんな話! 娘に話すことじゃない!!!」
お父さんが急に顔を覆って乙女のように恥じらい始めた。かなり気持ちが悪い。
隣を見ればガラタナも若干引いている。口には出さないものの「俺の体でやめてくれ」と顔にかいてある。ガラタナの表情が読めるのは珍しい……
「仕方がないだろう! 自分がしでかしたことだ」
「うぅ……王都に鋏を専門にした鍛冶屋があってね。セリナさんはその鍛冶屋に行くために王都に来たんだ。道を聞かれて、教えた。買付をしてすぐ帰ると言った彼女を引き留めて王都を案内したんだ」
「……え? お父さんナンパしたの?」
「────だから! だから言いたくなかったんだ!! セノオさんが軽蔑の目で見てくるよ!! カルロ!!!」
お父さんは教授にすがり付いた。
軽蔑の目とは失礼な。とんでもない被害妄想だ。両親の出会いの話は聞いたことがなかったから……お父さんがウザくない範囲で聞きたい。
「それで?」
「……一目惚れだったんです。そのあと食事して、その……一夜を共に────ほら! ほら!!! その目!!!」
この国の貞操観念に著しく違反する……何をしてるんだ父母。
「だから、自分がしでかした事なんだから諦めろ」
教授は斜め上を見て呆れた様子だ。
「……抗えない事だってありますよね」
「────っガラタナ!!!???」
思わぬ隣からの同意に心臓が激しくなった。
「わかってくれますかガラタナ君! でもセノオとは許しませんよ!」
「心得ています」
嘘臭い笑みを浮かべるガラタナ。
こいつは今朝、土下座したことを忘れたんだろうか。
「続きは!?」
「あ。すみません───次の日馬車に乗るセリナさんを見送り、その次の日から手紙のやり取りが始まり2ヶ月が過ぎていました。
リリアンナには多分好きな人が出来たということは雰囲気から伝わっていたんだと思います。少し変わったと言われ始めたのはあの頃でしたから。
セレナさんを見送って3ヶ月くらいで、とうとう我慢できずに会いに行きました。当時セリナさんは隣町で働いていたんですが、勤めているはずの理髪店は辞めていたんです。
村の家に訪ねて行くと痩せたセリナさんが出てきました。
彼女は僕が会いに来るとは思っていなかったようで、ボロボロ涙をこぼしました。病気になってしまったのかと焦りましたが、その時、彼女は妊娠4ヶ月目に入ろうとしていました」
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字ありましたら申し訳ありません。
初めてブックマークをしていただきました
(*ノωノ)ヒャー
嬉しいですありがとうございます!
また読みに来て頂けると嬉しいです。
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