2。ハイスペックな元球体
カーテンから漏れる日の光。
カチャカチャと食器があたる音が聞こえる。
わずかに香るスープの匂い。
焼けるパンの香り。
階段をのぼる音がして、薄く目を開けるとドアがノックされる。
「……お母さん……おはよう」
私は少しだけ開いたドアに向かい朝の挨拶をし、まだ寝たいとばかりに枕に顔を押し付け、ドアと反対の方を向く。
「セノオ?起きた?」
「──っ!」
聞いたことのあるような無いような声に、頭は一気に冴え、開いたドアに『昨夜のヤツ』が居ることに驚き、昨夜の事を全て思いだし、ベッドから飛び起きた。
「──えっ!ひゃぁぁぁ!」
「セノオ!!」
勢いよく飛び起きた体はそのままバランスを崩した。
ベットから落ちそうになった腕を『昨夜のヤツ』が掴み、引き寄せるが私の体を支えきれず、私を抱きしめるように床に転がった。
一瞬、間が空き、室内が静かになる。
「あっぶな!何してんの!!気絶して起きていきなりあんな動くとか有り得ないから!!」
「えっあっ……すみません」
非常識の塊が鬼の形相で常識を説いてくる。
「──何処か痛いところは?」
引き寄せられたときに掴まれていた腕が少し赤くなっているのが気になっているのか、ヤツは私の腕をマジマジと見てくる。
「……無いと思う」
そう言った瞬間。
ぐぅぅぅ~
「「───……。」」
目を丸くするヤツ。
みるみる熱くなる私の顔。
「ぷっあははは!今!?このタイミングで腹が鳴るのか!」
「ちょっ!笑わないで仕方がないでしょ!?昨日の昼から何も食べてないんだから!」
「セノオは本当に面白いよ。昨日も箒で叩かれるとは思わなかった。普通逃げるよ。戦わない」
私の話を聞いてるのかいないのか…ヤツは笑い続ける。
心配されて爆笑されると何だか此方の毒気が抜かれる…。
昨夜の事は恐怖体験でしかないが、私が勝手に驚き気絶しただけで特に危害を加えられたわけでもない…。
「あ。そうだ。セノオが倒れてから、隣のエレナさんがきたから、一応医者に来てもらって診てもらった。診察の金は店にあったのを使ったよ。売り上げ?減ってるけど盗んだ訳じゃないから。あと、エレナさんは親戚だと思ったみたいだよ。」
「…はぁ。色々ありがとうございます」
むしろ、倒れた私を医者に診せ、介抱してくれたようだ。
盗んでいないよと両手を挙げてヒラヒラし、ニコニコ笑うヤツの顔は、少し大人びているだけの私と同じ顔の筈だが、『中身』と『髪や肌の色合い』が違うからなのか同一人物には見えない。二人揃えば親戚に見えることは確かだろう。
現状を説明され、恐怖の薄まった頭で浮かぶのは、
「あなたは一体何なんですか?」
目の前の不審人物への疑問だった。
「──人の家で勝手に色々やって申し訳ないけど、朝食作ってあるんだ。食べながらお互いに質問どう?」
何から何まで……元球体のハイスペックさには驚きを隠せない。
そしてまたお腹が、ぐぅと鳴った。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字がありましたら申し訳ありません。