表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホントのカラダを探しています  作者: keitas
トルネオ王国編
17/101

16。裸の付き合い

ラッキースケベ的な展開はありません。

 オイルランプの灯火をぼうっと見ていた。


 どれくらいそうしていたかは……わからないけれど、ガラタナに害をなしたのが身内かもしれないということに、ただただショックを受けていた。


「嫌われてしまうかな」

 初恋は叶わないと聞いたことがある。


「話さなきゃいけない……よね」

 ガラタナを元に戻したいと思う気持ちは本当だ。

 でも……嫌われてしまうかもしれない場所には近付きたくない。


──自分の思考に反吐が出る。


 何人かが階段をのぼってくる音がして、咄嗟に反応してベッドに入る。


 足音は違う部屋の前で止まった。


 自分の行動に、ははっと乾いた笑いがでた。

 寝た振りなんて……こんなに自分がズルいとは思わなかった。


 足音の主の声がする

「小さな宿ですけど意外と快適ですね。部屋もキレイだし食事も旨いし」

「あぁ。大浴場も小さいが立派だったぞ」

「婆さん愛想ないですけ──」

 会話の途中で扉が締まる音がして声が聞こえなくなった。笑い声だけが微かに聞こえてくる。


「……お風呂」

 正直そんな気分ではないけれど、ガラタナと被るわけにもいかない。

 死刑執行前のような気持ちで、この部屋でガラタナ来るのを待っているよりは良いかもしれない。


 部屋を出て受付へいくと、さすがに夜は女性では危険なのか、受付は体格の良い男性に変わっていた。

 お風呂用のタオルを借りて大浴場へ向かう。


 脱衣所で服を脱ぎ、大浴場の扉を開けると人の姿はない。

 6畳程の広さで半分が洗い場、半分が浴槽。1人で使うには大分広い。

 体を洗い、お風呂に浸かる。ピチョンと水滴が落ちる。

 お風呂は好きだ。思考がクリアになる。

 でも今日は『もう部屋に戻っているのかな』とか『バレない方法はないかな』など、どんどんマイナス思考に陥った。


 こうなるとお風呂は逆効果なのは自分が良くわかっている。



 お湯は(ぬる)めで、まだ体が温まってはいないけれど……。


「ダメだ」


 浴槽の縁に手をつき、勢いよく立ち上がった。

 その時ガラッと浴室の扉が開いた。


「おや……あぁ、すまないね。今日はお嬢ちゃん達がいるんだった。学者様のお嬢さん方は確認したんだが」

 カナエ婆さんは私を見ると脱衣所に戻ろうとした。

 この宿の裏にある母屋に住んでいるカナエ婆さんは、お風呂は宿の物を使っているようだ。


「あ。いえ! 良いんです。1人で入っていると少し寂しくて」

「そうかい? ありがとうね」


 カナエ婆さんは体を流し、浴槽に入ってきた。

 少し間を空けて横並びで座る。

 愛想の無いと言われていたカナエ婆さんだけど、お礼や謝罪をちゃんと伝えてくれる。纏う雰囲気は少し怖いけど好感が持てた。


「連れのお嬢さんは部屋かい?」

「あ、いえ。食堂で学者さんたちと話していると思います」

「ほぅ。学者様と長いこと話が出来るとは、連れのお嬢さんは博学なんだねぇ。この婆には学者様は小難しくて敵わないよ」

「……色んな国をまわっていたと聞いているので、知識は豊富だと思います」

 ガラタナの話をされるのはちょっと……と思ったが、好きな人を褒められて悪い気はしなくて、つい微笑む。

 私も大概単純にできている。


 そんな私をカナエ婆さんはチラッと見る。


「宿に来たときより顔色がすぐれないと思ったが、杞憂だったようだね」

「え? あ、いえ。嫌なことがあって……1人でいると悪い方にばかり考えてしまって」

「……連れには話せないことなのかい」

「話したら嫌われてしまうかもしれません」

「そうかい」


 ほぼ初対面のカナエ婆さんになぜこんな話をしているのか。

 お風呂に誰かと入るなんて子供の頃以来だ。

 非日常のこのシチュエーションがそうさせているのか、自然と言葉がポロポロ溢れてくる。


「でも……話さなきゃいけないんです」

「それで?」

「それが一番あの人の為で、でも私は……」

「……」

「どうにか逃げられないかと……」


 懺悔のような涙がカナエ婆さんに見えないよう、湯船から出ている膝におでこをつける。

 見えなくてもきっとばれていると思うけど。


「あんたは真面目だね」


 その発言に私は目を丸くした。

「……真面目?こんなズルいことを考えているのに?」


「ズルい人間は加害者意識は持たんさ。どうあっても被害者になろうとする。卑怯な人間なら、知らぬ存ぜぬともうとっくに逃げているわ……お前さんは、良くも悪くも真面目さね。それだけ悩んでも結局、連れの為にソレを言うんだろう?悩むだけ損さ。嫌われてからの事は嫌われてから考えな」


 ポカンとし、返す言葉も浮かばないでいる私にむかい、フッと笑う。

「若いうちの苦労は買ってでもしろ。沢山悩みなお嬢ちゃん。さて。婆さんはもう寝るよ。(ぬる)い風呂だが長湯は性に合わんでね」

 カナエ婆さんは出会ったときと変わらず淡々と語ると、一瞥もすることなく浴室から出ていった。


「あっのっ! ありがとうございました!」

 話に聞き入っていてお礼を忘れていた。

 出来るだけ大きな声を出したが聞こえただろうか。


 「ふぅ」と息を吐く。


 お風呂から上がったらガラタナときちんと話をしよう。

 キチンと話せる気がする。


 今の現状は何も変わっていない。

 けど頭が幾分スッキリしていて気持ちが少し軽くなっていた。

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字ありましたら申し訳ありません。


次はセノオがガラタナに話します。

また読みに来ていただけたら嬉しいです(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ