16。裸の付き合い
ラッキースケベ的な展開はありません。
オイルランプの灯火をぼうっと見ていた。
どれくらいそうしていたかは……わからないけれど、ガラタナに害をなしたのが身内かもしれないということに、ただただショックを受けていた。
「嫌われてしまうかな」
初恋は叶わないと聞いたことがある。
「話さなきゃいけない……よね」
ガラタナを元に戻したいと思う気持ちは本当だ。
でも……嫌われてしまうかもしれない場所には近付きたくない。
──自分の思考に反吐が出る。
何人かが階段をのぼってくる音がして、咄嗟に反応してベッドに入る。
足音は違う部屋の前で止まった。
自分の行動に、ははっと乾いた笑いがでた。
寝た振りなんて……こんなに自分がズルいとは思わなかった。
足音の主の声がする
「小さな宿ですけど意外と快適ですね。部屋もキレイだし食事も旨いし」
「あぁ。大浴場も小さいが立派だったぞ」
「婆さん愛想ないですけ──」
会話の途中で扉が締まる音がして声が聞こえなくなった。笑い声だけが微かに聞こえてくる。
「……お風呂」
正直そんな気分ではないけれど、ガラタナと被るわけにもいかない。
死刑執行前のような気持ちで、この部屋でガラタナ来るのを待っているよりは良いかもしれない。
部屋を出て受付へいくと、さすがに夜は女性では危険なのか、受付は体格の良い男性に変わっていた。
お風呂用のタオルを借りて大浴場へ向かう。
脱衣所で服を脱ぎ、大浴場の扉を開けると人の姿はない。
6畳程の広さで半分が洗い場、半分が浴槽。1人で使うには大分広い。
体を洗い、お風呂に浸かる。ピチョンと水滴が落ちる。
お風呂は好きだ。思考がクリアになる。
でも今日は『もう部屋に戻っているのかな』とか『バレない方法はないかな』など、どんどんマイナス思考に陥った。
こうなるとお風呂は逆効果なのは自分が良くわかっている。
お湯は温めで、まだ体が温まってはいないけれど……。
「ダメだ」
浴槽の縁に手をつき、勢いよく立ち上がった。
その時ガラッと浴室の扉が開いた。
「おや……あぁ、すまないね。今日はお嬢ちゃん達がいるんだった。学者様のお嬢さん方は確認したんだが」
カナエ婆さんは私を見ると脱衣所に戻ろうとした。
この宿の裏にある母屋に住んでいるカナエ婆さんは、お風呂は宿の物を使っているようだ。
「あ。いえ! 良いんです。1人で入っていると少し寂しくて」
「そうかい? ありがとうね」
カナエ婆さんは体を流し、浴槽に入ってきた。
少し間を空けて横並びで座る。
愛想の無いと言われていたカナエ婆さんだけど、お礼や謝罪をちゃんと伝えてくれる。纏う雰囲気は少し怖いけど好感が持てた。
「連れのお嬢さんは部屋かい?」
「あ、いえ。食堂で学者さんたちと話していると思います」
「ほぅ。学者様と長いこと話が出来るとは、連れのお嬢さんは博学なんだねぇ。この婆には学者様は小難しくて敵わないよ」
「……色んな国をまわっていたと聞いているので、知識は豊富だと思います」
ガラタナの話をされるのはちょっと……と思ったが、好きな人を褒められて悪い気はしなくて、つい微笑む。
私も大概単純にできている。
そんな私をカナエ婆さんはチラッと見る。
「宿に来たときより顔色がすぐれないと思ったが、杞憂だったようだね」
「え? あ、いえ。嫌なことがあって……1人でいると悪い方にばかり考えてしまって」
「……連れには話せないことなのかい」
「話したら嫌われてしまうかもしれません」
「そうかい」
ほぼ初対面のカナエ婆さんになぜこんな話をしているのか。
お風呂に誰かと入るなんて子供の頃以来だ。
非日常のこのシチュエーションがそうさせているのか、自然と言葉がポロポロ溢れてくる。
「でも……話さなきゃいけないんです」
「それで?」
「それが一番あの人の為で、でも私は……」
「……」
「どうにか逃げられないかと……」
懺悔のような涙がカナエ婆さんに見えないよう、湯船から出ている膝におでこをつける。
見えなくてもきっとばれていると思うけど。
「あんたは真面目だね」
その発言に私は目を丸くした。
「……真面目?こんなズルいことを考えているのに?」
「ズルい人間は加害者意識は持たんさ。どうあっても被害者になろうとする。卑怯な人間なら、知らぬ存ぜぬともうとっくに逃げているわ……お前さんは、良くも悪くも真面目さね。それだけ悩んでも結局、連れの為にソレを言うんだろう?悩むだけ損さ。嫌われてからの事は嫌われてから考えな」
ポカンとし、返す言葉も浮かばないでいる私にむかい、フッと笑う。
「若いうちの苦労は買ってでもしろ。沢山悩みなお嬢ちゃん。さて。婆さんはもう寝るよ。温い風呂だが長湯は性に合わんでね」
カナエ婆さんは出会ったときと変わらず淡々と語ると、一瞥もすることなく浴室から出ていった。
「あっのっ! ありがとうございました!」
話に聞き入っていてお礼を忘れていた。
出来るだけ大きな声を出したが聞こえただろうか。
「ふぅ」と息を吐く。
お風呂から上がったらガラタナときちんと話をしよう。
キチンと話せる気がする。
今の現状は何も変わっていない。
けど頭が幾分スッキリしていて気持ちが少し軽くなっていた。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字ありましたら申し訳ありません。
次はセノオがガラタナに話します。
また読みに来ていただけたら嬉しいです(*^^*)




