13。守りたいものは?
いつもより長いです。
急ぎながらも慎重にジークさんの髭反りを終わらせ、店のドアガラスの内側に掛けてある板を『close』に回し、カーテンを閉め、洗い物をそのままにしてガラタナの居るリビングまで急いだ。
「ガラタナ!ごめんお待たせ!」
勢い良く倉庫の母屋へ繋がる扉を開け、左手にあるリビングを覗くとそこにガラタナの姿は無く、物悲しいくらいに静かだった。
一歩、二歩、前に出る。
「──ガラタナ?」
かなり切羽詰まった様子のガラタナの姿が脳裏に浮かぶ。
──遅かった……?
心臓の音がうるさい。身体中から音がする。
──一人で行ってしまった…?
胸がギュッと締め付けられる。
「ガラタナ!?どこ!?」
リビング脇にある階段をのぼり、手前から順に客間、ガラタナの部屋、自室を確認するが姿はない。
「うそ……」
自室のラグに膝から崩れ落ち、ペタンと座った。
あの時のガラタナは普通じゃなかった。
どうみてもおかしかったのに何ですぐに話を聞かなかったんだろう。後悔ばかりが押し寄せる。
『幸せになれる』と『一緒に探す』と豪語して何も力に慣れなかった。
そんな事実に押し潰されそうになる。
涙が出そうになったとき、外で夕刻を知らせる鐘が鳴った。
換気に開けてあった窓からフワリと風が入り、窓脇に逆さまに吊るされた一輪の花が揺れる。
ガラタナのくれた花。
枯れるのが惜しくてドライフラワーにと干しておいた。
この家に新しく飾りたいと思った。
グッと手に力が入る。
追いかけよう。今度は私がガラタナをさがす。
立ちあがり勢い良く自室のドアを出る。
「うわっ!!!」
「ひゃっ!」
出た瞬間、何かにぶつかり押し倒すように転がった。
「……ガラ、タナ?」
「いってぇ……何? セノオどうしたの?」
「何でいるの?」
マウントポジションでガラタナを見下ろし、当然のように口からでる疑問にガラタナは怪訝そうな顔をしている。
「何でってセノオが待っててって言ってたから」
「だ、だって今どこにもいなかったじゃない」
体勢そのままにガラタナの胸倉を掴み詰め寄る。
「キッチンに居たんだよ。今朝プリンを冷やしておいたから、話しながら食べようと思って。そしたらセノオが俺の名前呼びながら2階に行ったから何事かと────セノオ?」
キッチンは倉庫の母屋への扉を開けて右手にあるダイニングの奥……。
気が抜けて、胸倉を掴んだままガラタナの胸へと顔を落した。
……いつものガラタナの雰囲気に戻ってる。
「リビングで待っててって言ったよ私」
「そうだっけ?」
「言った!」
本当に恥ずかしい。一人で空回り
でも自分の気持ちに気づけた。
何処かに行くのなら連れていって欲しい。一緒に居たい。
顔をあげると少し顔を赤くしたガラタナと目があった。
もうお母さんには見えなかった。
私はガラタナが好きなんだ。
「ところでセノオ。俺は役得なんだけど、この体勢はアリ?」
「────っ!!!」
ガラタナが女体なせいでピンと来なかったが、男女と考えるとかなり際どい体勢だ。
ガバッと起き上がると、ガラタナに腕を引かれてまた元に戻された。
「もうちょっとだけ……ちゃんと待ってたからご褒美頂戴」
「────」
ギュッと私に回す腕に力が入った。
前言撤回。
いつものガラタナではない!! 何だこれ!甘い!!!
感覚は女友達やお母さんに抱き着いたときと全く一緒なんだけど、中身はガラタナ!!!!
否が応にも体は熱くなり、顔が火照る。
「俺……」
何だ! まだ何かあるのか!!
「今ほど元の体に戻りたかったことない」
アホか!アホなのか!?今戻られたら確実に意識が飛ぶ自信がある!
「プップップップリン!!食べに行こう!」
盛大に吃った。仕方がないでしょ。
言うなれば初恋。自覚した瞬間この有り様で私のライフは0だ。
少し腕の力が緩み、ククッと笑い声が聞こえてくる。
途端にグルンと視界が反転し背中に床があたった。頭が床に当たらないようになのか、ガラタナの手が頭の下にあり、ガラタナは耳元に顔を寄せてきた。
「食べさせてあげようか?」
ガッガッガッガラタナーーーーーーー!!!???
吐息混じりの色っぽい声で囁いた後、再び微かに笑い声が聞こえる。完全に反応を見て面白がっているのが分かる。熱い顔で睨み付けると体がフワッと浮いた。
「ちょっ!!降ろして!」
お姫様だっこというやつじゃないかこれ!!
「暴れると落ちるよ」
「ひっ!」
そのまま階段をトントンと降りていき、私を横抱きしたままソファに座った。テーブルには2つのプリン。
……まさかこれで話をするのか?
話なんて頭に入ってくるわけないじゃないか!!
アレだけシリアス顔で詰め寄ってきた話を、こんなベタ甘で聞けと!
ドSか!? ドSなのか!? ちくしょう!
早く下ろして欲しいが、このままやられっぱなしも癪に障る。何かやり返したいが、百戦錬磨オーラを出すガラタナに応戦できるものなどない!私のレベルは0に近い1だ!
「セノオ?」
ずっと下を向いていたからか心配そうに声が掛かった。
顔は火照るし、涙目になる。少し上にあるガラタナの顔を目だけで見つめる。
「……プリン、食べさせてあげようか?」
言われた言葉を返すとかどんだけだ!だが仕方がないだろう!!!そもそも私の中には引き出しが存在しない!
「────っ」
ガラタナは大きく目を見開いて固まった。
その隙にガラタナの膝から降りる(落ちる)ことに成功し、隣の1人掛けソファに這っていった。
「さて!ガラタナ!話をしよう!」
空気を変える為に大きな声でしきってみたら、ガラタナにジッと見られた。まだからかい足りないのかこの野郎。
「──そうだね」
いつもの声のトーンと笑顔に戻ると、私はホッと胸をなでおろした。
「セノオが見たこのハンカチの男の特徴を教えて欲しい」
「……遠目で見たからあまり詳しくは言えないけれど、身長はラビ君とトール位の差があったよ。180らへんだと思う。年齢は20代半ばくらいだったかな」
そう言うと、ガラタナは少し怪訝そうな顔をした。
「────髪の色とかは?」
「髪は……黒……ううん。少し薄い……グレー……アッシュっぽいクールな色合いだった」
「そうか」とポツリともらし、ガラタナは考え込んだ。
「……このハンカチは5年前、俺がカフェのオーナーに貰った物に似てるんだ。遺跡に行ってこのハンカチの持ち主に会いたいと思う。今聞いた内容だと俺の体とも特徴が一致してる」
「──あ、あの、私も」
私も行きたい。
「相手がどんな危険な人物かもわからないし、セノオは来ない方が良いと思う。どんなことになるかわからない。セノオはこの家を守らなきゃいけないだろう?」
優しい瞳。
全部見透かされていたんだ。
「それは……」
家を見渡すと、そこかしこに思い出の数々。無くならないように大切に大切に守ってきた温かな場所。
ガラタナとどちらが大切かなんてバカらしい考えだ。
「私も行く」
もう私とお母さんの思い出の家だけの場所じゃない。
ガラタナと一緒にいたい大事な場所だ。ガラタナが居ないんじゃ意味がない。
「行く」
そう言って目を合わせると、ガラタナは目を瞠り、頭をグシャグシャっと撫でてきた。
チラッと見ると恥ずかしそうにそっぽを向いていた。
「時間が惜しい。今からならまだ馬車もあるだろうし出発しよう」
ガラタナと私は簡単に荷物をまとめ、馬車の乗り合い所へと急いだ。
読んで頂きありがとうございました。
誤字脱字ありましたら申し訳ありません。
イチャイチャさせていたら思ったより長くなってしまいました(*_*)
次回は再び町へ行きます。




