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シャレイドスコロプの街  作者: プリズモリイの箱
第二章 雲菓子職人
8/8

夢雲の丘

翌日、宿で温かい朝ご飯を食べ終えてコーヒーを飲みながら窓の外を眺めていると、道具を持った雲菓子職人が歩いて来るのが見えた。

夢雲をとる場所は街の中心部から少し離れているため、分かりやすいように私が泊まっている宿から案内してくれることになっていたのだ。


いつもの屋台は引かず、随分と身軽な格好だ。

大きな木の実の殻で作られた壺を腰に下げ、釣り竿や虫取り網のようなものを背負っている。


「おはようございまあす!よいお天気ですね!」


カランコロンとベルを鳴らしながら宿の扉を開け、雲菓子職人が顔を覗かせる。

「おはようございます。見事な晴れですね。宿まで迎えに来ていただいてありがとうございます。」

軽く一礼すると雲菓子職人はいやいやと手を振り、明るい笑顔を浮かべて言った。


「いいんですよう!気にしないでください!ここは目的地への通り道になりますんでね。どこかで待ち合わせるよりも、ご一緒した方がいいかなぁと。」


なるほどと私は納得し、席を立って上着を羽織り、出かける準備を整えた。


「そうそう、昨晩、楽しい夢は見られましたか?」

鞄を肩に掛ける私を見ながら、結果を聞きたくてたまらないといった様子でうきうきと雲菓子職人が尋ねてくる。


シャレイドスコロプの雲菓子は、誰かの夢をなぞって見られる不思議なお菓子。

昨日は話を聞いたばかりであまり信じていなかったが、あの夢を見たあとでは真実だとしか思えなくなった。

「ええ、見ましたよ。それも、あまりに自分らしくない夢をね。」

昨晩の夢の内容を思い返し、思わずふふっと笑ってしまう。


「暗い夜の森を、宝物を求めて冒険している夢でした。建物の陰からはお化けや妖精も出てきて…なかなか面白かったですよ。」


子どもの頃、童話を読んだり友達と冒険ごっこをしたりしたあと、似たような夢を見たのを思い出す。

未来への希望にあふれた時代の温かく幸せな記憶だ。


「それはそれは!楽しい夢が見られたようで何よりです。どこかの子どもが見た夢でしょうか……きっと、何気ない日々の中で自分だけの宝物を探すのが大好きな子どもなんでしょうね!」


また、私は目覚めた直後は胃のあたりがむかついたり気分が悪くなったりすることが多い。

しかし今朝はすっきりと心地よく起床できたのだ。

あのお菓子を食べたときに感じた爽やかな味のように。


そのことも一緒に伝えると、雲菓子職人は自信に満ちあふれた様子で頷いた。


「そりゃあ当然ですよ!雲菓子を食べたお客さんが気持ちよく目覚められるように、お菓子に使う夢雲はきちんと選んでいますから。」


夢雲を選ぶ…?雲ごとに違いがあるのだろうか。


「ええ、色や質感に出るんです。実際に夢雲をとるとき説明しますよ!」

それはありがたい。今日は興味深い話がたくさん聞けそうだ。


宿の扉を開けて外に出ようとしたとき、背後から女将の声が飛んできた。


「お客さん!ちょっとお待ち!」


振り返ると、慌てた様子の女将が籐の茶色いバスケットを抱えてパタパタとこちらへ走ってきた。


「今日は遠出するんだろう?サンドイッチを作ったからお昼にでもお食べ。」

にっこりと笑いながら、女将は両手でバスケットをこちらに差し出す。


「ありがとうございます。わざわざ用意してもらって…」

「気にしないでいいんだよ。昼間のカフェで使う材料が余ったからね。サンドイッチは2人分入っているから、雲菓子職人さんも遠慮なく召し上がれ。」


どうりで。1人分の量にしてはずっしりと重たいはずだ。


「いいんでしょうか?ありがとうございます!いやあ、昼間なかなかカフェに行けないから、今日は女将さんの料理を食べられるなんて嬉しいなあ!」

弾むように体を揺らし、雲菓子職人は目を細めた。


「さて、行きましょうか、『夢雲の丘』へ。」


雲菓子職人が宿の扉を開けてお先にどうぞと促してくれる。

いってらっしゃいとにこやかに見送る女将に手を振り、少し寒さの残る朝日の中へ足を踏み出した。

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