本当の宝物
広場で少年と別れてから一晩かけて、私は星くずを探し歩いた日のことを帳面に詳しく書き留めた。
少年は星くず拾いのことを「宝探し」と表現したが、大げさな比喩ではないと感じている。
記憶をたどって星くずを探しているうちに、本当に宝探しをしている気持ちになれたのだ。
宝の存在を心から信じ真剣に探したのなんて、小さな子どものとき以来だ。
あのきらめくようなワクワクする気分は、いつ忘れてしまったのだろうか…
そのような考えが頭をよぎると深い懐かしさを感じるとともに、どこか悲しいような思いがこみ上げる。
あの日選んだ美しい褐色の星くずは大切にポケットにしまっているが、ときどき取り出してじっくりと眺めている。
日の光に当てながらくるりと返すときらっと眩く輝いたのち、奥底に誘うような深みがじんわりと滲んでゆく。
この星くずは、初めてコーヒーを盗み飲んだことを思い出したときに見つけたものだ。
口を付けたとたん、広がっていくコーヒーの苦み。
その苦さに驚き慌てて、親に笑われながらミルクをたくさん口に含んだのをよく覚えている。
大人になって当たり前にコーヒーを飲むようになり、いつの間にか忘れてしまっていた思い出だ。
ある朝、そんな話をいつものベンチで少年に聞かせると、少年は嬉しそうにころころと笑った。
「お兄さんを星くず拾いに誘って、本当によかった。昔の大切な思い出がたくさん蘇ったんですね。」
「ああ、きみが言っていた通りだよ。宝探しをしているみたいだった。きれいな星くずという宝をたくさん見つけられた。」
私がそういうと、少年は目をぱちぱちさせて語りかけるようにこう言った。
「星くず自体もそうなんですが……星くず拾いで見つける思い出や記憶こそが宝だと僕は思うんです。もう二度と手に入れることのできない、かけがえのないものですから……大人になるにつれて忘れてしまった懐かしい思い出ほど、美しく輝くでしょう?」
私を見つめる少年の瞳は、遠い銀河やはるかな時の流れを思い起こさせるほどの暗い色で怪しく輝いている。
「見えるものばかりが大切ではないんですよ。ときには見えるものを信じず、自分の心に浸って対話する時間もとっても大切なんです。」
目の前にいるのは、本当に「少年」なのだろうか?
吸い込まれてしまいそうなほど深く輝くこの瞳は、何十年も、いや、何百年も生きてきたような重みを感じさせる。
ふと背中に寒気が走り、私は急いで少年の言葉を肯定し立ち上がった。
「その通りだね。いつも私の話を聞いてくれてありがとう。」
すると、先ほどまでの重く謎めいた雰囲気はさっと消え、少年はいつもの子どもらしい楽しげな態度に戻った。
「いえ、こちらこそ、たくさんお話を聞かせてくれてありがとうございます。お兄さんは、まだこの街にいるんですか?」
「ああ、取材に満足できるまで滞在するつもりだよ。」
「そうなんですね!それじゃ、また会ったらいろんなお話聞かせてください。」
初めて会ったときのような純粋な笑顔にいくらか安心を取り戻しながら、私は快く了承する。
「嬉しいなぁ。いつか、僕のこともお兄さんの書くお話に登場させてくださいね。」
少年はにこにこと笑い、そろそろ時間だからこれで失礼しますと頭を下げてベンチから去った。
あの怪しく深い瞳の輝きは一体なんだったのだろうか。
もう二度と手に入れることのできない、かけがえのないもの…
昔に戻ることはできないし、その頃に体験した思い出は本当に二度と手に入れることはできない。
いつも一緒に過ごしてきたはずなのに、いつのまにか去ってしまった遠い世界……
懐かしい思い出を振り返るとき、宝石を光にかざした瞬間のように心は美しくきらめくのだ。
私はしばらくポケットの中の星くずの重みを感じながらベンチに座っていたが、広場に入ってきた菓子売りの歌うような呼び込みの声を聞き、ふと我に返った。
さて、これからどうしようか。