プロローグ
長いひげをぴんと張り
尻尾をくるんと動かして
天地のかすかな囁きに耳を澄ませば
シャレイドスコロプの街がやってくる
到着を知らせるベルが鳴り、私は赤銅色の輝きを放つ汽車からホームへ降り立った。
目の前に広がる駅はそれほど大きくなく、5分もあれば一回りできるくらいだろうか。
天井はとても高く、丸い形をしている。
上品な白い石と煌めく紺の石で作られたその駅は、プラネタリウムを彷彿とさせた。
街へ出るために改札へと進む。
ふと足元を見ると、ほのかに光る玉がいくつも床に埋め込まれていることに気づいた。
「お客さん、どうかなさいましたか。」
珍し気に光の玉を見つめる私に、濃紺の制服を纏った駅員が近づいてくる。
「いえ、ついこの光に見とれてしまったもので。」
慌てて説明すると、駅員は優しく微笑んだ。
「綺麗でしょう。年数が経つと色合いも変わってくるんですよ。」
そう言われてみれば、光は青いものや赤いもの、黄色いものなどさまざまな色をしている。
ふと疑問が浮かんだので、駅員に尋ねてみた。
「この光は電気を使ったものではないですね?柔らかくて淡い。」
「よくお気付きになりましたね。これはこの街の名産である星くずを加工したものですよ。」
「……星くず?」
「ご存知ありませんか?この街は唯一、夜空から星くずが落ちてくる場所なんです。」
当たり前のように説明する駅員の横で、私は混乱していた。
光る星くずなんて、ファンタジーかメルヘンの世界にしか存在しないと思っていたのに!
「………ところで、この街へはご旅行か何かで?」
質問を投げかけられ、ふと我に返って荷物をまとめる。
「ええ、ちょっとした取材旅行です。物書きをやっているもので。」
「それは素晴らしいですね。実りあるご旅行になるよう、お祈りしていますよ。改札はこちらです。」
駅員に促され、一緒に奥の改札へと向かう。
銀色の切符を渡すと、行く手を阻んでいた小さな扉がガチャリと開いた。
「ご親切に、どうもありがとうございました。」
「幻想と懐古の街、シャレイドスコロプへようこそ。」
駅員の目が怪しくギラリと光ったような気がして、私は急いで改札を抜け、街へ飛び出した。