九十五話目 決戦①
5月15日の更新です。
本日も宜しくお願い致します
「おらぁああああ!」
《ブォンッ!》
片方の足が使い物にならない筈なのに、それを感じさせない力強い動きで、カベルネが裕翔さんに斬りかかる。いつか見た、真っ赤な刀身のバスタードソードだ。
「はぁあああああ!」
《ガキィンッ!》
それを難なく愛用の剣で受け止めた裕翔さん。カベルネのものに比べれば細くて短い彼の剣だけど、僕は今まで裕翔さんの剣が刃こぼれしたところを見た事が無い。
「たぁっ!」
《バシュッ、ドドン、ドンッ、ドン》
「何っ!?小癪なぁあっ!!」
カベルネの剣を受け止めた裕翔さんは、回転しながらカベルネの剣を弾き飛ばした。そして、無詠唱で得意の氷魔法を放つ。
一瞬怯んだカベルネだったけれど、額に青筋たてながら、裕翔さんの放った氷の礫を全弾避けてしまった。結構簡単に、だ。………チッ。
「ヒューマン、余所見が過ぎますよ?」
「おっと」
此方へ向けて放たれた何かを首を動かしてギリギリで避ける。
僕を狙った【何か】は、どうやら呪詛か毒を含む何かだったらしく、着弾?したらしき地面がブスブスと音をたてて、赤黒くグズグズに腐っていった。
何これ、マジで恐いんですけど!グズグズに腐ったところから、変な煙と卵が腐ったみたいな臭いが細い狼煙みたいに上がってるし、ヤバくないか?一体こんなのぶっぱなす奴誰よ?
僕がそんな光景を見て、ゾッとしながら目線を前に戻すと、イライラした様子の白衣姿のおっさんが立っていた。
あー。遂々裕翔さんとカベルネの方に目がいってしまっていたけど、そう言えば僕の前にも魔族が居たんだったね?
「随分と余裕がお有りなご様子ですねぇ?ですが、その余裕もすぐに無くして差し上げましょう。当方、貴方には随分と大きな借りが御座いますから?本日は是非ともその借りを倍返しにして、お返しして差し上げますよ」
ベラベラとこちらが聞いてもいない事を、目の前のおっさん魔族はブワーッと捲し立ててくる。
えーっと…。申し訳ないけど、この人誰だっけ?
僕の目の前に立ちふさがっている魔族は、耳の上にある小さな角が無ければ、ただの神経質そうな中年のおっさんにしか見えない。そう、ただの白衣着たおっさんだ。
そんなおっさんが、胡散臭い白衣を着て、爪をギリギリ噛みながら僕を睨みつけてくるんだけど、髪の毛を掻きむしるのが癖なのか、ガシガシ掻きながら此方を睨まないで欲しい。頬が痩けているからか、尚更恐い。
って言うか、本当にこいつ誰だっけ?
「何を変な顔をしているのですか?ヒューマン!まさか、この私を忘れた。等とは言わせませんよ!?」
げっ!ばっ、バレたかな?
ただでさえ何かプライド高そうなのに、ここで僕が知らない何て言ったらめちゃめちゃキレられそうじゃない?
何だろう?んー。目の前のおっさんは、何となくカベルネの腰巾着っぽい小物感がするんだけど、えっと。えっと…。
あ!
「まさか、貴方の事を忘れた日はありませんよ。貴方はドラゴンの子供をあろうことか母親の下から拐い、更にはカベルネの影武者として操っていた魔族でしょう?僕としても、貴方を許す事は出来ませんから、良く覚えていますよ」
「……ほう?ちゃんと私の事を覚えておいででしたか?褒めて差し上げましょう」
なるべくニュートラルな笑顔を心掛けながら、今思い出した事をさもずっと覚えてました~。みたいな感じでシレッと答えてみた。
けど、どうやら目の前の魔族には何とか誤魔化せたみたいだね?
魔族のおっさんは、僕が覚えていた事を少し嬉しそうにしている。笑っているのを僕に知られたくないのか、口元を手で隠しているけど、口がでっかいからか上手く隠しきれてない。あっ、口じゃなくて手が小さいのかな?
そんな事は良いや。しかし危なかった~。まさに間一髪!思い出せて良かったよ。
僕は心の中で、ドバドバかいた心のひや汗を拭った。
ふぅ、ここ数年で一番ドキドキしたかもしれないや。
「フフフ。では、あの時はお互い名乗る事も出来ませんでしたので、私から名乗る事と致しましょう。私の名はガルネク。以後が貴方にあるのか分かりませんが、宜しくお願い致しますよ?」
「僕はシエロ。以後が無いのはどちらですかね?此方こそ宜しくお願いします」
僕と腰巾着、改めガルネクは、ニッコリ笑いながら互いの得物にそれぞれ手を掛けた。
腰巾着も結構使える奴ですww
本日も、此処までお読み頂きましてありがとうございました。
明日もこの時間に更新させて頂きますので、また宜しくお願い致します!