八十三話目 作戦会議③
5月2日の更新です。
本日も宜しくお願い致します!
◇◆◇◆◇◆
《side:シエロ》
《ガチャッ》
「只今戻りました~」
「ましたぁ♪」
スー君と手を繋ぎながら、食堂の扉を開けて中へと入る。
僕の口調を真似してニコニコしているスー君に、とても和まされた。まぁ、スー君元々カベルネのスペアってくらいで、身長が180㎝以上はありそうな青年型なんだけどさ…。
「あぁ、お帰り。スー君も待たせてごめんね?」
「シエロすぐむかえに来てくれた!そんなにマッテないよ?」
ニコニコと裕翔さんが迎えてくれたので、スー君も笑顔のままで答える。
「じゃあスー君、空いてるところに座ってね?」
「はーい」
「スー君、ここ空いてるよん♪」
僕から手を離したスー君は、手招きしている亜栖実さんと裕翔さんの間にニコニコしながら座った。その席は、元々宇美彦が座ってた場所だ。
なんだかんだ裕翔さん達にも慣れてきたスー君。この戦いが終わってからも、一緒に暮らせたら楽しいだろうなぁ…。
「よいしょっと」
「フッ、爺むせぇな」
スー君がちゃんと座ったのを確認した後、僕も元の席に腰掛けたんだけど、つい出た言葉に反応した宇美彦に笑われてしまった。
「そりゃあな、お前と同じで、僕も中身は42のおっさんだからな?」
「ハハハ、そうだな、下手すりゃジジイだったわ!」
「コホン。じゃあ続けるよ?」
本厄コンビのおっさん同士ーーあのまま向こうにいられたらって話しね?ーーの話を咳払い1つでスルーした裕翔さんが話の続きを促した。
ちょっと気まずいおっさんコンビは、少し目を泳がせた。
「じゃあ、シエロ君が言ってた話の続きから。って事で、スー君、君、夜目は利く方かい?」
「よめ?」
「あぁ。えっ、と…。 夜目、って言うのは、夜の目って意味だよ?で、君は夜、真っ暗なところでも周りの景色がよく見えたりするのかな?」
僕と宇美彦が目を泳がせている内に、裕翔さんとスー君が話を進めていた。
さっき僕が話した、【魔族は夜目が利く】って話の続きをしているらしい。
最初は何言われてるか分からなかったらしきスー君も、より詳しい裕翔さんの説明を受けて、
「かぁ!それなら分かる!」
と、元気にお返事した。ん?……かぁ?
「かぁ!って何?」
僕と同じところが引っ掛かったらしき裕翔さんが、不思議そうに訊ねる。
「えっ?皆分かった!って時ハ、こう言うんでしョ?」
それにスー君がキョトンとした顔で答えると、スー君の隣に座っている亜栖実さんが、
「えぇ~?あっ、それってもしかして、【あぁ】って言いたかったりする?」
と、手を叩いて正解を導き出してくれた。
なるほど~、スッキリした…。
「あぁ?そっか、【か】じゃなくて、【あ】かぁ~」
「スー君~!可愛いんだから~もぉ~!!」
「ひゃ~!」
亜栖実さんとスー君が楽しそうにじゃれあっている。
その後も、スー君のお蔭で終始和やかなムードのまま、話し合いは続けられた。
その結果。
夜目が利く魔族相手に夜の奇襲は不可。と言う事になり、朝方、最も魔族が不得意とする時間に魔族領へ攻め込む事となった。
その為、決行日は3日後。決行時刻は明け方。
と、言う事になり、襲撃メンバーもなるべく少数精鋭で行こう。と言う裕翔さんの意見が採用され、裕翔さん、亜栖実さん、宇美彦、月島さん、そして僕の5人で行く事になった。
裕翔さんは、出来れば此方へ向かっている筈の、もう1人の日本人にも参加して欲しかったみたいなんだけど、まだ来ていないから、そこだけは未定と言う事にしたみたい。
そう。まだ最後の1人が来ていないんだ。
宇美彦曰く、あいつが遅れるのはいつもの事。らしいけど、あんまり遅いと心配になってしまうよね?
今、どの辺りに居るかだけでも分かれば良いのになぁ…。
◇◆◇◆◇◆
《side:???》
「そっか。カベルネがまた独断で動き出した。か…」
「はっ!」
薄暗い部屋の中、黒づくめの男は片膝を付いた状態で、ソファーに腰掛けた人物と、何やら話をしていた。
ソファーに腰掛けた人物は、ダボッとした濃い灰色のローブに身を包んでいる為、いまいち体型等が分かりづらいが、どうやら男性の様だ。
そのローブの男は、フードを目深に被っている為、口元しか見えない。
「ふむ。そろそろ潮時、かもしれないな。【イチ】、君はどう思う?あの研究所はまだ使えそうかな?」
その唯一出ている口の、詳しく言うのなら、下唇をプニプニと弄くりながら、ローブの男は黒づくめの男との話を続けている。
どうやら、これが彼が考え事をしながら話をする時の癖の様だ。
「はっ。恐れながら、あそこにはまだ優秀な数値の者が数名おります。全てを此処で潰してしまうには、少々勿体無いかと…」
【イチ】と呼ばれた黒づくめの男は、顔を上げないままにそう答えた。
ローブの男は、そうか…。と呟きながら暫し考えた後、
「あっ、そうだ!君は仲間を欲しがっていたよね?数値が高い者のデータをあげるから、好きにしていいよ?もし自我が欲しいなら、此処へ連れてくると良い。また僕が自我をあげるから」
と、口元だけで微笑んだ。
「有り難き幸せに御座います」
それに対し、黒づくめの男は片膝をついたまま、深々とお辞儀をし、ローブの男に感謝の意を伝えた。
「うん。じゃあ、頼んだよ?」
「御意」
ローブの男は、そんな黒づくめの男の姿を、満足そうに見つめていた。
フードの男の正体や如何に!?(しれっ)
本日も、此処までお読み下さいましてありがとうございました。
明日もこの時間に更新致しますので、また宜しくお願い致します。