八十二話目 作戦会議②
5月1日の更新です。
本日も宜しくお願い致します!
「はいはい。話が進まないから誠治はちょっと退いててな~?」
「おやおや、年柄にも無くはしゃいでしまった様ですね?フフフ、失礼しました。シエロ君、さっきのお話しの続きは後でまた聞かせてくださいね?フフフフ…」
《ズルズルズルズル》
月島さんが宇美彦に脇を抱えられて引き摺られて行く。
そのまま台所の端の方まで引き摺られて行き、1人離れた席に放置された月島さんは、少しの間寂しそうな顔をして此方を見ていた。
が、それも本当に少しの間だけで、直ぐ様気を取り直したらしく、さっさか自分で飲み物を取りに行って、勝手に飲み始めている。
優雅に紅茶をティーポットから注いで飲む様は、この世界で貴族の子として生まれた僕より貴族していた。相変わらず自由な人である。
一方、月島さんが退いて空いた僕の隣には、何故か宇美彦が座った。何で?との思いを込めて宇美彦の目を見たら、サッと逸らされた。何で?
「じゃあ続けるよ?シエロ君、スー君は今どうしてる?」
おっと、宇美彦と遊んでる場合じゃなかった。
慌てて裕翔さんの質問に答える。
「あっ、はい。話しが一段落するまで、僕の部屋で待っていてもらっています。呼んできますか?」
「うん。お願い」
「了解です」
と、言う訳で、僕は一旦自分の部屋へ戻る事になった。
《ガチャ》
「じゃあ、ちょっと行ってきます」
「宜しくね?」
裕翔さんに見送られながら、台所と廊下を繋ぐ扉を開けて、廊下へ一歩出た。
台所は廊下のどん詰まりの所にあるから、僕の後ろには台所の扉しかなく、そして、前には長い廊下が続いている。
左側には大きな窓が幾つもあって、昼間でも廊下を明るくしてくれていて、ちょっと小学校の廊下を思い出させる造りをしている。
そして、窓とは反対の右側には木目が綺麗な壁があって、この木造の壁は、太陽の光を受けるとまるで森の中にいるんじゃないか?ってくらいに、濃密な木の香りを放つんだ。
あぁ、【濃密な】って言っても、結構良い匂いがするんだよ?
ここは元は貴族のお屋敷だったそうで、よく出入りしていたエルフの為にそう言う作りにしたんだって。
今はアジトとして使う為にあちこち改装してしまってあるから、元の建物のままの場所は少なくなっているけど、こう言うところは元の持ち主の意向もあって、そのままにしてあるらしいよ?
あっ、そうそう。スー君って言うのは、【カベルネのスペア】の事で、まだ名前の無い彼の事を、裕翔さんが【スー君】と呼び始めた事から皆に定着したあだ名だ。
裕翔さん曰く、スペアの頭を取ってスー君!なんだそうだけど、意外にもスー君自身が気に入ってしまったみたいで、呼ばれる度に嬉しそうにしている。
《トントントン》
「誰?」
さて、スー君の話をしているうちに部屋に着いた。早速ノックをすると、中から彼の声が聞こえてくる。
僕の部屋は台所から一番近い部屋で、明るい廊下を抜けた先の、1番最初に右側にある扉が、僕の部屋なんだ。
徒歩にして1分もかからないから、台所に居る時間が一番長い僕としてはとっても有り難いです。
「僕だよ。シエロ」
「シエロ!話し、終わった?」
「アハハ、まだだよ。君を呼びに来たんだ」
答えると、また部屋の中から声が返ってきたので、思わず笑ってしまった。この2日で、スー君はよく話す様になったと思う。
最初に彼と会話した時の辿々しさから見れば、かなり改善された筈だ。
「それじゃあスー君、入るよ~?」
「ん!」
《ガチャッ。ンギィイイ~》
この頃扉の動きが悪いから、今度直さないとなぁ。変な音もするし…。
僕は、そんな下らない事を考えながら、扉を開いた。
◇◆◇◆◇◆
《side:宇美彦》
「で?本当にカベルネのスペアとか言う奴の話は信じられるのか?」
「う~ん。俺も全部を鵜呑みに出来るとは思っていないけど、それなりに信用は出来るかな?とも思うよ?」
宙太の出て行く姿を目で追ってから、俺は裕翔に話しかけた。
あいつのいる前でこんな話しは出来ないからな?裕翔もそのつもりで宙太を行かせたんだろう。裕翔は優しいからな。
「でも、もしスー君が嘘をついていて、実は俺達の内部を探りに来た魔族だったりしたら…」
と、不意に裕翔の表情に陰が落ちる。
こう言う顔をこいつがする時は、大抵覚悟を決めた時だから、俺達は極端過ぎる内容な時以外はあまり反対しない。
こいつが覚悟を決めたって時は、悩んで悩んで悩みぬいた上での覚悟だって、皆分かってるからだ。
だから、いつもはうるさい亜栖実も誠治も、口を挟む事無く大人しく裕翔の次の言葉を待っている。勿論、俺もだ…。
「躊躇せずに、始末するから」
「ああ」
「了解」
「分かりました」
今回も、誰からも異論は出なかった。
本日も此処までお読み頂きまして、ありがとうございました。
明日も同じ時間に更新致しますので、また宜しくお願い致します